ベストセラー作家・松本清張が『点と線』に次いで発表し、社会派推理小説の起点にもなった同名小説を、没後30年記念としてWOWOWが連続ドラマ化した『連続ドラマW 松本清張 眼の壁』(毎週日曜 22:00~全5話 ※第1話は無料放送)が、6月19日からWOWOWで放送&配信スタートする。白昼の銀行を舞台に、巧妙に仕組まれた手形詐欺事件の隠された真実に迫る本作で、「連続ドラマW」枠では『死の臓器』以来およそ7年ぶり、2度目の主演を務める小泉孝太郎に、撮影の裏側や「芸能界」での自身の立ち位置を語ってもらった。

ドラマ『眼の壁』で主演する小泉孝太郎

小泉孝太郎
ヘアメイク:石川武 スタイリング:北村彩子 衣装協力:Paul Smith/ポールスミス

――小説や台本を読まれて、ご自身の役柄をどんな人物だと捉えて演じられましたか?

まず、萩崎竜雄という男は、とても信頼できると思ったんですよね。

――人として?

そう。人として。実直で真面目。正義感が強くて、決して期待を裏切らない人間であるところに、僕も愛着が湧いたといったらいいのかな。父を早く亡くした萩崎にとっては親代わりの存在である「関野部長を助けたい」という思いがこのストーリーの核になるわけですが、一見クールに見えるけど、彼の心の中にはメラメラと燃えた情熱や執念がたぎっている。美女には弱いけど(笑)、何かに夢中になるとブワーっと突っ走ってしまうアツい男なんです。

だってこれ、言ってしまえば、警察に通報すればそこで終わってしまう話ですからね(笑)。もし彼がドライな男だったとしたら、全5話どころか、全1話だってもたないですよ(笑)。シリアスな場面が多いけど、視聴者の方々が「オイオイ萩崎、そっちじゃないよこっちだよ」って、思わずツッコミたくなるようなところも結構たくさんあるんです。普通ならもっと簡単に解決できるはずなのに、何でも一人で背負ってしまう萩崎だからこそ、あんなことになってしまった。ここまで事件がこじれて長引いたのは、あの萩崎の性格だからこそなんですよね。

――なるほど(笑)。

そんな誠実な男が、事件の鍵を握る「謎の美女」上崎絵津子(泉里香)と出会ったことで、人生が大きく翻弄されてしまう。絶妙ですよね。松本清張の描き方って。ごくごく普通の男を主人公に据えながらも、ここまで重厚な社会派ミステリーに持っていく。彼自身は何一つ悪いことはしていないはずなのに、1話目からどんどん追い詰められていくので正直演じていて苦しい部分の方が多かったのですが、その分、非常に演じ甲斐はありました。複雑な生い立ちを背負った個性の強い登場人物が次から次へと出てくる松本清張の世界に、視聴者の皆さんがスッと入ってこれるように、一切の不純物が入ってないような萩崎をスッとナチュラルに居させたかったんですよね。「満たされてはいけない」と思って、撮影中はロケ弁も半分しか食べずに、常に空腹を抱えた状態で演じるようにしていました(笑)。

  • 萩崎が手形詐欺の真相を追う中で絵津子の存在にたどり着くが……

――小泉さんご自身だったらどう立ち回りますか?

萩崎が絵津子に惚れたように、僕も理屈抜きに誰かに一目惚れをしてしまったとするなら、やっぱり萩崎と同じような行動を取ってしまうかもしれない。本当に親しい人にしか相談せず、惚れた女性との約束を守ろうとする萩崎の気持ちもわかるから。警察に通報することなくどうにかして自分だけで彼女を救おうとして、リアル上地雄輔に協力を頼みそう(笑)。

――アハハハ(笑)。

古典的な手形詐欺事件に理屈では説明できない男女の色恋沙汰を掛け合わせるところも、松本清張ならではの絶妙さですよね。そりゃあね、泉里香ちゃんみたいな子が目の前に現れたら、萩崎じゃなくたって、ああなりますよ(笑)。正直、あのドレスはずるいなと思いましたもん。もうそこにいるだけで説得力がありますから。泉里香パワーはすごかったですね。

――萩崎の親友で共に真相を追う新聞記者・村木満吉を演じた上地雄輔さんとは、実生活でも小泉さんが3歳の頃から親しくされているそうですね。

キャスティングを見た段階で一番不安だったのは、雄輔だったんですよ。過去にも共演したことはあるんですけど、ここまで現実と近い親しい関係性は初めてだったので。「雄輔、ちゃんとセリフ覚えてるかなぁ」って。仲が良いからこそ馴れ合いになって、作品を壊してしまったら怖いなと思っていて。ところがいざ蓋を開けたら逆で、生まれて初めて雄輔に感謝しましたね。こんなに雄輔が心のよりどころになるのかと。

萩崎は村木と一緒にいるとき、唯一ホッとできるんですよ。劇中、萩崎と村木が小さめのソファに横並びになってお蕎麦を食べながら話すシーンがあるんですけど、いい年こいたおじさん二人が太ももから腕から、ピタッと肌を密着させながら、並んで蕎麦を食べているわけですよ(笑)。僕らは本物の幼馴染みだからそうやっていても全く違和感がなかったけど、これがもし仮に他の役者さんとだったとしたら、さすがに距離が近すぎて、微妙に離れるわけですよね。でも僕と雄輔だからむしろお互いにもたれあっちゃって。雄輔が壁みたいになってくれて楽だなぁとか思いながら芝居をするなんて、本当の親友じゃなきゃありえない。「お二人が本当に仲が良いのがよくわかります」って、監督からも何度も言われましたね。僕も完成した作品を見て、萩崎が村木と居る時は本当に心からホッとした表情をしてるなぁと感じました。唯一笑みがこぼれるのも村木とのシーンくらいでしたからね。