ソニーPCLが2月に開設したクリエイティブ拠点「清澄白河BASE」において、SixTONES(ストーンズ)の映像作品の撮影が行われ、同グループのYouTube公式チャンネルで3月1日に公開された。ソニーのバーチャルプロダクションスタジオで撮影された、初めての一般公開作品となる。

  • SixTONESの新映像YouTubeで公開、ソニー「清澄白河BASE」で撮影

今回公開された映像作品「共鳴」は、ソニー・ミュージックレーベルズに所属するジャニーズ事務所の6人組グループ、SixTONESが新しい映像表現とパフォーマンスの融合を目指す、YouTube限定の映像企画「PLAYLIST - SixTONES YouTube Limited Performance -」第4弾として制作。

同企画ではこれまでに計3曲のオリジナルパフォーマンス動画を公開しており、「地上波音楽番組ではなかなか実現できない映像表現や演出と、SixTONESメンバー6人が魅せるパフォーマンスとの融合が見どころ」だという。

「共鳴」は、LEDウォールを用いたバーチャルプロダクション(VP)を常設するソニーの新スタジオ「清澄白河BASE」(既報)で撮影された、初の一般公開作品となる。

3DCG背景がカメラの動きに合わせてリアルタイムで変化する特性を活かしたカメラワークで、ほぼノーカットでSixTONESのダンスを捉え、「臨場感あふれる圧巻の楽曲パフォーマンス」を実現。「楽曲の世界観をイメージした幾何学的なオブジェクトが点在する閉鎖空間から、一瞬で果てしない宇宙のような空間へ様変わりする背景は、映像に壮大なスケールをもたらしている」という。

映像監督は、VFXや光学の知見を活かした空間演出を得意とし、RADWIMPSやONE OK ROCKのミュージックビデオ、YOASOBIの「NICE TO MEET YOU」Vision LED総合演出などを手がけた大河臣氏が担当した。

以下、SixTONESおよび大河臣監督のコメント全文を紹介する。

SixTONESのコメント

  • 今回、清澄白河BASEで撮影してみていかがでしたか?

アトラクションのように、カメラと連動して背景が動いているので、臨場感があって映像に取り込まれそうな感覚がありました。グリーンバックを使って撮影させて頂く時と違い、その場で完成形に近い映像を確認する事ができるのが新鮮でした。出る側としては完成形を観る事ができるのは、すごくわかりやすかったです。

背景の動きに合わせて『背景のここにこれがあるんだったら、こうしよう』と考えて動いたり、自分の身長を考慮して動くなど、とても掴みやすかったです。他のメンバーやスタッフと世界観のイメージを統一しやすいのもメリットだなとも感じました。

また、今回の映像を観ると、改めてその綺麗さに驚くとともに、本当にその場にいるような感覚になりました。この映像の綺麗さは、今後様々な場所で活用し、いろんな可能性がありそうだなと思いました。

  • 今回の撮影で、特にファンに見て欲しいポイント、見どころはどんなところですか?

僕たちのパフォーマンスと最先端技術がどのようにマッチしてくのかというところが見どころです。

「共鳴」のMVは、全編グリーンバックで撮影し、そこからリップシンクを差し込んだり、自分たちのイメージカットを織り交ぜたり、目まぐるしく文字を入れて動かすCGの加工を施すなど、「後から編集して作っていく」という独自の面白さがありました。

今回はどちらかというとワンカメショーに近い方法で撮影しているので、より僕たちの姿やパフォーマンスに目が行きやすいだろうし、それを際立たせている背景やシチュエーションも、唯一無二なものになっており、また違った目線で楽しんでもらえるのではないかと思います。

  • 今後、バーチャルプロダクションを使ってチャレンジしてみたいことは?

こういうご時世ということもあり、例えば無観客ライブや配信ライブで使ってみたいです。ライブ会場に来られない人であっても、今まで味わえなかったパフォーマンスが届けられそうと思いました。

バーチャルプロダクションに僕たちの生のパフォーマンスを重ね合わせて、今まで表現しきれなかった事が表現できるのではないか、という可能性を感じました。バーチャルプロダクションを使う事で、配信ライブだからこそ実現できるような演出も、たくさん作れそうだなと思いました。

大河臣監督のコメント

バーチャルプロダクション(以下、VP)自体は、過去にいくつかの作品で経験がありました。

VPはハードウェアとソフトウェアの両方の許容量に大きく依存する撮影手法ではあるので、「何ができるのか」、「どこにボトルネックがあるのか」を理解していることがとても重要な案件だと感じています。

なので、まずはスタジオのスペックをヒアリングすることから始めて、「表現としての勝ち目をどこに置くか」を各所クリエイターを交えて考えていきました。

清澄白河BASEには、大きくて高精細なCrystal LEDが常設である。さらにカメラはVENICEが使える。それはスペックとしてとても高く、ユーザーとしての我々が「どこまで使いこなせるか」を試されるな、と感じました。ベースとなるスペックが高いと、最初から選択できる幅が広い。だからこそ、無邪気かつポジティブにいろいろなことが相談できました。

LEDの輝度も選べるので、LED自体を光源として生かした撮影をすることもできるし、暗くしてしっかりと手前側のライティングを作り込んで表現をすることもできます。そしてその暗部の階調や低照度の環境に対して、VENICEならきちんと描写することができます。

作りたいものによってマシンスペックを選べること、さらにそれをやりながら検証して決めていけるところは、すごく良かったです。

ゲームエンジンやトラッキングシステムなど、バーチャルプロダクションに使っている技術は進化が早く、それに伴ってワークフローや表現もどんどん進化していくものですが、このスタジオにはそれを受け止める懐の深さがあると感じました。将来的にどうなっていくのか、とても楽しみです。

普段ミュージックビデオなどを作るときは、1本の作品のクオリティをあげていく中でカットをしっかり割っていくことが多いのですが、今回は、VPならではの画のおもしろさと共に、SixTONESのダンスパフォーマンスをしっかりと観ていただけるようにロングテイクでの構成を目指しました。

VPで難しいのは、表現効果としての高さとマシン負荷との折り合いや両立、落とし所をどこに設けるかというところ。ハイスペックな環境とはいえ、処理の重い表現をいかに最適化していくかというところは大きな課題でした。ワンカットの中でライティングの変化や形状の変化、ステージ自体が崩れたりなど、目まぐるしく変化していく空間をロングテイクの中で表現していくことが一番のチャレンジでした。

基本的なVPのメリットは、クロマキーで撮影するのとは違って、完成形を現場で見ながら撮れること。クロマキーで後に合成される世界観の認識が各々のスタッフで少しずつずれていると、意見が食い違うこともあります。

普段はそこの認識や価値観にズレが生じないようにコミュニケーションをしっかり取ることを常に意識していますが、VPだとそれが実際に目で見えているので「進みたい方向の共有」がよりスムーズにできます。

実際に被写体としてカメラ前に立つ役者やパフォーマーもより明確なイメージをもってテイクに臨めるので、パフォーマンスや芝居の練度の向上という意味でもとても意義のあることだと思います。スタッフ、演者ともに、クリエイティブを高めるための一歩先のコミュニケーションをスムーズにできることは、大きなメリットだと思います。

VPで作品をつくるとその先進性にいつも胸が踊るのですが、今回はそれをわかっていてもさらに「おお、すごい!」と思うタイミングが何回もありました。それは技法としての新しさはもちろん、ハードやソフト面といったスタジオの環境水準の高さによるものでもあると強く感じています。

想像力によって大きくジャンプできるし、応えてくれる。懐の深さがあるこの技術を作品に活かせるようこれからも追求していきたいです。

バーチャルプロダクションとは

今回の撮影で用いられたVPとは、大型LEDディスプレイに3DCGの背景映像を映し、その前に現実空間にあるオブジェクトや人物を配置してカメラで撮ることで、「背景に映し出された場所で実際に撮影したかのような映像制作」を実現する撮影技法のこと。

これまでに、ソニーの電気自動車「VISION-S」のコンセプトムービーや、ディズニーによる『スター・ウォーズ』シリーズ初の実写ドラマ『マンダロリアン』の撮影などで使われており、新しい映像表現のかたちを生み出す映像手法として注目を集めている。

従来のスタジオ撮影では、セットを作り込んだり、グリーンバックでの合成処理を行うことが主流だった。VPでは空間をデジタル化して、本当のセットではなくデジタルのセットを使って撮影することになるが、「リアルタイムに高画質のCGを活用する」技術が必要になる。そこで必要なのがゲームエンジンで、たとえば『マンダロリアン』の撮影では、Epic Gamesが開発した「Unreal Engine 4」が使われているという。

VPでは、このように3DCGで作成した背景をリアル空間のようにカメラで撮影。スクリーンの前で役者が演技、小道具を使った演出を行い、ライティングと合わせて撮影することで、本物のセットやロケ地での撮影と見分けがつかない、リアリティーのある映像表現を追求できる。さらに、カメラ視点から照射、レンダリングされ、リアルタイムに視差を提供することでリアリティをもたらす。未来や過去、違う世界の様子などをバーチャルセットで制作し、映像に使うこともできる。

ディスプレイの前面に鏡面のステージや砂を敷くといった美術セットを作り込めば、「現実空間とバーチャル空間の境界が分からない、リアルな空間を生み出せる」という。また、背景に合わせて演者に風を当て、背景と演者の一体感を生み出すことも可能としている。

今回の清澄白河BASEにおけるSixTONESの映像作品撮影について、ソニーPCL クリエイティブ部門 ビジュアルソリューションビジネス部 統括部長 小林大輔氏もコメントを発表。以下、全文を紹介する。

ソニーPCL 小林大輔氏のコメント

清澄白河BASEは、クリエイターと先端テクノロジーが出会う場所であることを目指しています。そのふたつが出会うことで、映像制作の可能性を探索し、新しい表現が生まれることを期待しています。そのためには、常設スタジオであることに意味があり、そこに多様な技術が集まってきてほしいと考えています。今回、まず最初のテクノロジーとして、常設のバーチャルプロダクションスタジオをつくりました。

バーチャルプロダクションは、3DCG空間を、現実空間のように撮影できる技術です。最大のメリットは、リアルには撮影が難しい場所やシチュエーションで撮影したかのような映像を、スケジュール通りに撮れること。本当につくりたい映像を、効率的なスケジュールで制作することができます。

今回、一般公開される作品としては初めて、SixTONESの楽曲パフォーマンスを撮影しました。リアルタイムでの背景合成を実現することで、従来の映像制作における時間や場所などの制約からクリエイティブ表現を自由にできるバーチャルプロダクション技術の特徴と、ソニー・ミュージックレーベルズ所属のアーティストであるSixTONESが取組む『PLAYLIST』が目指す新しい映像表現とアーティストパフォーマンスの融合という点が合致したことで、今回の企画は実現しました。

これまで制作してきたCM、映画やコンセプトムービーといった、現実空間を再現しようとする“静的”な背景が多かったのですが、今回は、LEDに表示される背景自体にレーザービームが入るようなライブ感など、音楽表現としての新しい挑戦が盛り込まれている“動的”な背景を用いたバーチャルプロダクションでした。その背景の前でSixTONESの6人がパフォーマンスする映像を観た時、バーチャルプロダクションとしての新しい可能性を感じました。