マイクロソフトは、テクノロジー製品としては初めてという海洋プラスチックを素材に利用したマウス「Microsoft Ocean Plastic Mouse」を発売しました。Microsoft Storeでの直販価格は3,080円。Amazon.co.jpや家電量販店など、マイクロソフト製品の取扱店でも販売されています。
人口大理石のような斑点が入っていますが、このぷつぷつした点が海洋プラスチック由来の再生素材です。海や河川から回収したプラスチックを用いており、ペレット化した上で、マウス外装に重量比で20%配合されています。
形状や機能はいたって普通の2ボタンマウスで、多くの仕様は既存の「Microsoft Bluetooth Mouse」に準じています。小さくて丸っこい作りで、包み込むように持つと手になじみます。クリック感もしっかりと確保されており、カチッカチッと軽快な音が響きます。
重さは単三形乾電池込みの実測で約84g。持ち運んでモバイルPCと組み合わせて使うのも良さそうです。
パッケージも環境に配慮した設計になっており、外箱から製品を支えるパーツに至るまで、木材とサトウキビの天然繊維由来の紙で作られています。パッケージのうち唯一、絶縁シートは紙ではなくプラスチックですが、石油系ではないプラスチックを利用しているようです。
身近な製品に改めて求められる“サステナビリティ”
石油由来のプラスチックは現代人の生活において欠かせない素材のひとつ。しかし、処分方法をめぐっては“厄介な問題”を引き起こす存在ともなっています。
現在、プラスチックごみの多くはリサイクルや焼却処分が行われることなく、埋め立て処分されているそうですが、自然環境の中では分解されにくいため、地球の生態系へ悪影響を及ぼしています。近年ではマイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下の小さなプラスチック片が、海や河川の生態系に及ぼす影響も注目されています。
そうした経緯もあり、海洋プラスチックごみの削減はSDGs(持続可能な開発目標)にも取り入れられました。SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」の中で、人類共通の課題として位置付けられています。
現在、さまざまな業界でプラスチックの使用を減らす取り組みが進んでいます。たとえば、IKEAは家具や生活雑貨について、「2030年までにリサイクルできないプラスチックの使用を廃止する」という目標をかかげ、木製や紙製の容器を取り入れています。三菱鉛筆は11月2日、ボールペン用の紙製リフィルを世界で初めて開発したと発表しました。
製品包装でプラスチックの使用を取りやめる企業も増えています。一例として、ソニーは12月15日に発売するハイエンドSIMフリースマホ「Xperia PRO-I」の包装で、プラスチックを完全に廃止した製品パッケージを採用しています。
海洋プラを使ったMSマウスはどう作られた?
話をMicrosoft Ocean Plastic Mouseに戻しましょう。マイクロソフトは同社公式ブログ記事において、製品開発にあたっての裏話を公開しています。
再生プラスチックを商品にするといっても、海洋プラスチックからの再商品化は一筋縄ではいきません。川や海を漂っている間に劣化が進んだり、汚れがついたりするなどして、劣化が進みます。さらに、素材としての質が均一ではなく、再生リサイクルに適した素材にはなりません。
また、素材の耐久性という点でも課題がありました。海洋プラスチックの多くはペットボトルのPET樹脂(ポリエステル)で、一般的に家電製品で使われるポリプロピレンやABSといったプラスチックと比べて柔らかく、耐久性という点でも不向きな素材でした。
海洋プラスチックから新たな再生プラスチックを製造するため、マイクロソフトは大手石油メーカーのSABIC(サウジ基礎産業公社)に協力を仰ぎ、海洋プラスチックとポリカーボネートを混合した合成樹脂を開発しました。この合成樹脂は、海洋プラスチックを20%含みつつ、耐久性や耐薬品性能でもマイクロソフトの基準を満たすものとなっています。
マイクロソフトは研究開発投資として海洋プラスチックの製造に取り組みましたが、持続可能な地球環境の実現のため、この技術を他のメーカーにも積極的に公開する方針です。
なお、マイクロソフトはこのマウス以外にも、海洋プラスチック問題への対策に取り組んでおり、「海からプラスチックごみを回収する」というミッションを掲げる環境NGOオーシャン・クリーンアップ(The Ocian Cleanup)に対して、AIによる課題解決で協力しています。