フルサイズのレンズ交換式デジタルカメラをリリースするメーカーのほとんどは、申し合わせたかのように開放絞りF2.8とする広角/標準/望遠の各ズームレンズと、開放絞りF4とする同じく各ズームレンズをラインナップしており、どちらも写真ファンから人気を集めています。

前者は、開放値の明るさから鏡筒は大きく、価格も特に高価ですが、ステータス性を兼ね備えています。後者は、開放F2.8のものに比べコンパクトに仕上がり、比較的手に入れやすい価格としています。写真愛好家の間では、開放F2.8の広角/標準/望遠のズームレンズを一括りにして「大三元レンズ」、同じく開放F4のシリーズを「小三元レンズ」と呼ぶことが多いようです。

キヤノンのフルサイズミラーレス用のRFレンズも、開放F2.8のズームレンズと、開放F4のズームレンズをラインナップしています。開放F2.8は広角/標準/望遠の3本とも揃っているのに対し、開放F4は広角ズームレンズの登場が待たれていました。今回ピックアップする「RF14-35mm F4 L IS USM」は、その待望のレンズとなります。

  • 軽量コンパクトな鏡筒の“小三元”広角ズームレンズ「RF14-35mm F4 L IS USM」。キヤノンオンラインショップでの販売価格は236,500円ですが、現時点では納期未定となっています

EFマウント版よりもコンパクトな設計、しかも2mmワイドに!

本レンズを手にしてまず実感したのが、コンパクトなサイズ感です。EOS一眼レフ用の“小三元”広角ズームレンズ「EF16-35mm F4L IS USM」よりもわずかに太い鏡筒ながら全長は短く、質量もより軽く仕上がっています。私事となりますが、これまで「EOS R5」に広角系のレンズを装着するときは、EF16-35mm F4L IS USMを使用していました。しかしながら、マウントアダプターを介しているため全体的にレンズが長くなり、そのままの状態だとカメラバッグに納めにくいこともあり、面倒に感じていました。RF14-35mm F4 L IS USMであれば当然マウントアダプターは不要ですし、レンズの全長も短いので、常用するカメラバッグへの収納も問題なさそうです。

  • EF16-35mm F4L IS USM(左)と大きさを比較。EOS RシリーズにEFレンズを装着する場合はマウントアダプターが必要となりますので、これよりもさらに大きくなります。距離目盛り窓の省略は残念に思える部分です

  • テレ端時

  • ワイド端時

  • 鏡筒全長最短時

  • テレ端時とワイド端時、そして鏡筒全長最短時の状態です。ズームの繰り出し量は、テレ端およびワイド端とも控えめといえます

忘れてはならないのが、ワイド端の焦点距離が14mmであることでしょう。前述のEF16-35mm F4L IS USMのワイド端とくらべ、たかが2mm、されど2mm。焦点距離が短くなるほど、その数字から得られる画角は反比例して大きくなりますので、違いは侮れません。対角線画角で比較した場合、16mmが108°10′であるのに対し、14mmが114°となります。私のように、EOS RシリーズでEFレンズを使っていて、少しでも広い画角を必要とする撮影が多いのであれば、迷わず本レンズの購入を検討すべきだと思います。そうでなくても、強い遠近感などを活かした写りを楽しみたければ、2mmの余裕は重宝するものと思えます。

  • 付属する花形レンズフード。ワイド端14mmに合わせた大きさ(深さ)であるため、テレ側では遮光効果が低く、ちょっと心細く感じられそうです

  • 鏡筒にはAF/MF切り換えスイッチと、手ブレ補正機構のON/OFFスイッチが備わります。ズーミングによる鏡筒の繰り出し量はわずかなこともあり、ズームロックスイッチは省略されています

描写性能もフレア&ゴースト耐性も文句なし!

焦点距離が短いほど、描写特性は写りにシビアに反応することが多いもの。本レンズは、テレ端の35mmでは絞り開放で周辺部の結像がわずかに緩く感じるものの、解像感およびコントラストはまったく不足を感じさせません。色のにじみも気になることはなく、現代的なレンズの写りとなっています。

気になるワイド端の14mmでは、開放絞りのとき結像の甘い部分が画面周辺部で若干見受けられるものの、1段ほど絞ると大きく改善され、画像を拡大して見ても気にならないレベルとなります。解像感、コントラストもテレ端と同様に上々で、ディストーションもよく補正されています。いずれも、UDレンズやUD非球面レンズなどの採用と、設計の自由度の高いショートバックフォーカスのもたらす結果だと思われます。さらに、ASC(Air Sphere Coating)やSWC(Subwavelength Structure Coating)の各コーティングの採用により、強い光源が画面に入ることの多い広角レンズながら、フレアやゴーストの発生を抑えているのも特筆すべき部分といえます。

  • ワイド端(14mm)

  • テレ端(35mm)

  • ワイド端の14mmでは、その広い画角から撮影者の影など思いもかけなかったものが画面に入っていることがよくありました。広いズームレンジから風景などのほか、ワイド系のレンズでスナップを撮る写真愛好家にも最適なレンズです 共通データ:キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0)・WBオート・ISO100・JPEG

  • ワイド端(14mm)

  • テレ端(35mm)

  • ワイド端14mmとテレ端35mmでの逆光撮影です。どちらも小さなゴーストがいくつか見受けられるものの、フレアの発生はよく抑えられており、良好な結果となっています。ASCおよびSWCのコーティングなどが効果的に働いているものと思われます 共通データ:キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf5.6)・WBオート・ISO100・JPEG

強力なレンズシフト方式の手ブレ補正機構(IS)を備えているのもRFレンズならといえるでしょう。補正効果はレンズ単体で5.5段、センサーシフト方式の手ブレ補正機構を搭載するEOS R5などのカメラでは協調補正で7段の補正効果が得られます。画角が広いほど手ブレの影響は小さくなりますが、それでも手持ち撮影での限界があるのは事実。手ブレ補正機構の搭載は、とても心強く感じられるところです。

実は私自身、本レンズが発表されるとすぐになじみのカメラショップに予約を入れたのですが、品薄でいまだに手元には届いていません。供給が追いついていないのは半導体不足がおもな要因といわれていますが、もうひとつには小三元の広角ズームレンズの登場を待っていたEOS Rシリーズのユーザーが多かったのも理由かと思います。本レンズは、そんな期待に十分応えられる写りと使い勝手を両立したレンズとして、今後より一層人気を博していくものと思われます。

キヤノン「RF14-35mm F4 L IS USM」のポイントまとめ

  • 14mmのワイド端はやはり便利。遠近感の強い迫力ある写真が楽しめそう
  • どの焦点距離でも開放絞りから圧倒的な写り
  • 小三元レンズながら、軽量コンパクトな仕上がり。収納場所を選ばない
  • 強力な手ブレ補正機構の搭載はやはりありがたい
  • ワイド端14mm、十分に絞り込んで撮影したものです。画面の隅々までしっかりと結像していることが分かります。逆光ですが、目立つようなフレアやゴーストの発生も見受けられません キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf9.0・1/800秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離14mm

  • ガラス越しに撮影していますので、レンズの持つ本来の解像感は若干低下していますが、それでもシャープネスの高い写りです。光源の周りの写りもナチュラルで、違和感のない仕上がりとなりました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/80秒)・WBオート・ISO500・JPEG・焦点距離35mm

  • ほぼ順光で絞りF8と、光学的な撮影条件としては最高の状態でシャッターを切っています。周辺減光はなく、歪曲収差もほとんど気にならないレベルです。何よりヌケの良い写りで、クリアな仕上がりとなりました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離22mm

  • 場末を感じさせるゲームセンターに置いてあったエアホッケー。ワイド端14mmにセットし、ぐっと台に迫って撮ってますので、遠近感が強調されていることが分かるかと思います。もっと被写体に寄って撮ってもよかったかな キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/60秒)・WBオート・ISO320・JPEG・焦点距離14mm

  • こちらもワイド端14mm、絞りは開放F4での写真。ピントはケーブルカーの籠に合わせています。強い外光の入る作例としてはちょっといじわるな条件ですが、フレアの発生は見当たらず、クリアな写りが得られました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/60秒)・WBオート・ISO125・JPEG・焦点距離14mm

  • テレ端35mmでの撮影となります。絞りは開放F4ですが、周辺減光は気になることはなく、ヌケのよいすっきりとした写りです。合焦部分の解像感も高く、写りの良さが感じられる作例となりました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/1250秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離35mm

  • 絞りはF8としています。ワイド端14mmですが、ディストーションの発生はほとんどなく、よく補正されていることの分かる写真です。この画角であれば、ちょっと絞り込んだだけでパンフォーカスとなることが分かります キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/640秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離14mm

  • テレ端35mm、絞り開放F4での撮影。背景のボケはやや落ち着きのない感じですが、広角ズームレンズのボケとして考えれば、そんなものかなと納得するところです。合焦面の解像感は高く、周辺減光も気になりません キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/3200秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離35mm

  • 焦点距離は25mmです。下から煽っていますので、被写体にパースはついていますが、ディストーションの発生などなく素直な感じの仕上がりです。絞りは開放ながら、とてもヌケのよい写りです キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/2000秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離25mm

  • 本レンズの最短撮影距離は0.2m。被写体に思いっきり寄って、広角レンズならではの遠近感のある表現を手軽に楽しめます。ちなみに、最大倍率は焦点距離35mmのときで0.38倍となります キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf4.0・1/2000秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離35mm

  • 熱海の温泉街の裏通りを歩くと、よくこのような風景に出くわします。温泉や飲料用のお湯などの配管が入り混じり、その様子はカオス。解像感の高い本レンズであれば、リアルに再現できます キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf8.0・1/2000秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離28mm

  • 温泉街でもラーメン店は人気です。使い込んだ暖簾にカメラを向けてみました。日陰による光源の柔らかさもありますが、ピントの合った生地のところなど、生っぽく感じられる仕上がりとなりました キヤノンEOS R5・絞り優先AE(絞りf5.6・1/60秒)・WBオート・ISO200・JPEG・焦点距離27mm