カルビースナック「仮面ライダー」カード(復刻版、著者私物)|

今年で放送開始50周年を迎えた『仮面ライダー』(1971年)は、現在放送中の『仮面ライダーセイバー』(2020年)をはじめとする「仮面ライダーシリーズ」の偉大なる原点である。その第1話「怪奇蜘蛛男」が放送された1971年4月3日は、仮面ライダーファンにとって忘れられない記念日だが、本日1971年7月3日もまた、『仮面ライダー』の歴史を語る上でたいへん重要だといえる。なぜなら「仮面ライダー2号」が初めて我々の前に姿を現した第14話「魔人サボテグロンの襲来」が放送された日だからだ。

『仮面ライダー』が全国の子どもたちの間で空前のヒットを飛ばし「変身ブーム」と呼ばれる社会現象を巻き起こした“きっかけ”となった出来事を、これからご説明していこう。

初期の『仮面ライダー』は「怪奇アクションドラマ」という方向性が強調されており、奇怪なショッカー怪人が人間を襲うショッキングな場面や、そんな怪人たちを超人的なアクションで倒す仮面ライダー/本郷猛(演:藤岡弘、)のヒーロー性を丁寧に描いていた。宇宙からきた伸縮自在のサイボーグ・スペクトルマンが活躍する『宇宙猿人ゴリ』や、再燃した怪獣ブームに乗って登場した『帰ってきたウルトラマン』のように、この年の実写特撮ヒーロー作品は“巨大ヒーロー”が主流だった。しかし『仮面ライダー』は等身大ヒーローとして、ダイナミックなオートバイアクションと、トランポリンジャンプを駆使した立体的アクションに特化し、スピード感とスリルを前面に打ち出した作品作りに務めていた。

第1話の視聴率(関東)が各方面からの期待よりも低かったことから、早々と「仮面ライダーもウルトラマンのように巨大化させたらどうか」というアイデアが製作サイドに寄せられたが、東映プロデューサー(当時)平山亨氏は「ライダーの巨大化だけはやるまいと思っていた」(朝日ソノラマ・ファンタスティックコレクション『仮面ライダー(総集版)』より)と、ヒーローのモデルチェンジはせず、等身大ヒーローのままで行こうと決めていたそうだ。ちなみに第13話「トカゲロンと怪人大軍団」のトカゲロンはそれまでの怪人と違ってボリューム感のある怪獣然としたキャラクターだったが、これについては平山氏と共同でプロデューサーを務めた阿部征司氏が「テスト的に、怪人を大きく見せようとした」(竹書房『仮面ライダー怪人列伝』より)と語るように、“ライダー巨大化案”を実行するかどうか、迷いのあった時期の産物だったようだ。

やがて『仮面ライダー』は関東・関西ともにじわじわと視聴率を高めつつ、話数を重ねていくのだが、第1話放送開始直前のタイミングで、番組存続に関わる重大なアクシデントが起きていた。第9・10話撮影中、主演の藤岡弘、がオートバイ事故で大怪我を負ってしまい、以降の出演が絶望的になったのだ。自ら危険なアクションに挑み、オートバイも果敢に乗りこなしていた藤岡だが、事故は通常の走行シーンで思いがけず発生したのだという。まったくもって、不運としか言いようのない出来事だった。

藤岡の欠場を埋めるため、スタッフは急遽シナリオを作り直し、本郷猛不在でも成立するエピソードを製作した。第11~13話の本郷登場場面は、以前のエピソードからいくつかのカットを抜粋することで切り抜け、新たなキャラクターとして滝和也(演:千葉治郎)を設定し、アクション部分の強化に努めた。

しかし、いつまでも主役俳優不在のまま続けることはできず、第14話からは『柔道一直線』(1969年)で人気を博した佐々木剛が新しい主役として招かれた。それまでのテレビドラマであれば、佐々木が本郷猛の役を引き継いで作品を続けるという発想もあったかもしれないが、本作ではあえてそれをせず、本郷とは別な、2人目の仮面ライダーが新しく登場するというアイデアを採用した。主役交代にあたり、本郷猛はショッカーによって殺されるという案が出たことがあったが、平山氏はこれに対し「子どもたちのオールマイティーの夢をつぶすことになり、主人公を殺してしまうのはよくない」と猛烈に反対したという(徳間書店スーパービジュアル4『仮面ライダー』より)。

こうして、ショッカーの別計画を追ってヨーロッパに旅立った本郷猛=仮面ライダー1号に代わり、一文字隼人=仮面ライダー2号が新しい日本の守りとなるストーリーが第14話より描かれることになった。仮面ライダー2号はマスク中央や体側面に銀色のラインが入り、ダークな配色だった1号よりも派手な印象を与え、ヒーロー性が増した。そして、一文字隼人は本郷猛よりも陽気なキャラクターとなり、子どもや女性のレギュラーも増員。全体的に“明るさ”を強めたドラマ作りが目指されている。一方で、これまで謎の面が多かったショッカーの組織が世界規模のスケールで描かれるようになり、第14話ではメキシコで破壊活動を行った怪人サボテグロンがその功績を買われ、日本侵攻の任務を与えられているなど、敵側のパワーアップも図られた。さまざまな新展開、新機軸により、『仮面ライダー』はより娯楽性を増して、さらなる人気アップにまい進していくのであった。

『仮面ライダー』の人気爆発のきっかけとなった「変身ポーズ」も、一文字隼人の登場と同時に採り入れられている。当初、本郷猛が仮面ライダーに変身する際は、愛車サイクロン号を疾走させ、変身ベルトの風車(タイフーン)に風圧を受ける必要があった。また、バイクの運転が困難な状況で、いかにして本郷がライダーに変身するのか……というサスペンスが盛り上がるシチュエーションも存在した。しかし、製作局の毎日放送(MBS)側からの「ライダーが変身する仕組みをもっとはっきりさせてほしい」という要望(双葉社『仮面ライダー大全』より)を受ける形で、一文字隼人の変身はもっと具体的な見せ方が必要となった。そこで、大野剣友会の殺陣師・高橋一俊氏が柔道の構えをヒントに、あの「変身ポーズ」を生み出した。

なお、変身ポーズ自体は、すでに本郷ライダーが怪人に向かって闘志をみなぎらせる際に用いた「ライダーファイト」として出来上がっており、これを応用して一文字隼人の変身の“型”が作り上げられたことになる。ちなみに佐々木は『仮面ライダー』出演が決まった直後、二輪の運転免許を持っておらず、トラックの荷台の上でオートバイに乗る演技をすることもあったという。しかし、それが変身ポーズ誕生の理由になったわけではなく「変身の仕組みをはっきり示す」という考えのほうが先にあったようだ(講談社『仮面ライダー大全集』より)。

佐々木による「変身ポーズ」の裏話として有名なのは、第15話「逆襲サボテグロン」以降と、第14話で一文字隼人の変身ポーズが異なっていること。実は、最初に変身ポーズをとったとき、とにかく前例のないことなので佐々木が照れてしまい、NGが続出。スタッフは万一のことを考えて、変身シーンを入れないカットも準備したそうだが、腹を決めた佐々木は思い切って力強いポーズを取り、その迫力満点のポーズでOKとなった(朝日ソノラマ・ファンタスティックコレクション『仮面ライダー(総集版)』より)。しかし変身前の段取り(上着のチャックを下ろして変身ベルトを見せる)を忘れたため、変身途中でベルトを出す動きをしたことで、第14話だけ変則的なポーズになったという。

ショッカーの怪人ににらみをきかせながら、腕を大きく回して「変身!」と叫ぶ一文字隼人の変身ポーズは、子どもたちの間でたちまち評判を取り、それまでのスピーディなアクションにいっそうの“痛快さ”“カッコよさ”をプラス。これが視聴率アップにつながり、『仮面ライダー』の人気の高まりは空前の「変身ブーム」を呼び込み、特撮・アニメを問わず“変身ヒーロー”が活躍する競合作品が次々に作られていくようになった。『仮面ライダー』はやがて、ショッカー大幹部出現、そして本郷猛=仮面ライダー第1号の帰還~ダブルライダー、さらには本郷猛が仮面ライダー新1号となってふたたび日本の守りにつくなど、人気番組としてさまざまな“発展”を重ねていくのだが、それはまた別の機会にお話することにしよう。

(C)石森プロ・東映