ワコムとピクシブの共同開催による大規模オンライン作画フェス「Drawfest」(ドローフェス)が5月22日~24日の3日間、YouTube Liveで限定配信されました。

初日の口火を切ったのは、人気絵師・モ誰(もだれ)さんによるイラスト技法レクチャー「臨場感あふれる光の表現の描き方」。当日は2,000人が視聴し、多くの好意的なコメントが寄せられました。

  • ワコムとピクシブのオンライン作画フェス「Drawfest」が限定配信された(写真は、Drawfest カバーアート:Felicia Chen氏の作品)

    ワコムとピクシブのオンライン作画フェス「Drawfest」が限定配信された(写真は、Drawfest カバーアート:Felicia Chen氏の作品)

「光の表現」の描き方を明快に言語化

日本、韓国、中国などで活躍するイラストレーターのモ誰さん。当日は約2時間という枠組みのなかで、作画機材に「Wacom Cintiq Pro 24」と「Adobe Photoshop」を使いながら、同時通訳を交えてたっぷりと解説も行いつつ、1枚のイラストを完成させていきました。

視聴者も配信動画を見ながらDiscordサーバ経由で自分の作画画面を共有できる趣向になっており、講義の終了後にはTwitterとpixivに投稿された#Drawfestタグのイラストを番組で紹介するひと幕もありました。

レクチャーのテーマに「臨場感あふれる光の表現の描き方」を掲げた理由について、モ誰さんは「どのように光を考慮して彩色していくのか、興味を持ってくれる方が多かったから」と説明。当日は時間節約のため、ベタ塗りされた水着女性のイラストが用意され、ここに光の表現を加えていきました。

  • ベタ塗りされた水着女性のイラストを使ってレクチャーがスタート

    ベタ塗りされた水着女性のイラストを使ってレクチャーがスタート

最初に、メインとなる太陽光を表現していきます。太陽光が直射する部分、しない部分にざっくり2等分して、中間色はあとで決めていくという方針です。

「太陽光は、距離によって明暗が変わることはほとんどありません。頭から足まで、太陽光が均等に当たります」、「太陽光のほか、空の色、海から反射した色、砂浜から反射した色が影響しますが、どの光源も太陽光から生まれたものなので、太陽光より強い変化は起こりません。根拠をもってリアルに光の特徴を利用していきます」、「先に全体の明度を明確にしてから、各部分の明度を決めていきます」といったように、論理的な分かりやすい言葉でイラストを描き進めていくモ誰さん。普段、どんなことを考えながら仕事をしているのか、その話しぶりから垣間見た気がしました。

  • 太陽光、空、海からの反射、砂浜からの反射、といった「光源」を整理。強さによってグループ分けして考えている

    太陽光、空、海からの反射、砂浜からの反射、といった「光源」を整理。強さによってグループ分けして考えている

それにしても、驚くべきは作業スピード。これについては「ラフを描く段階では想像力を使いますが、ほかの部分は計算で行います。だから、想像力を使わない部分は早く描けるんです」と説明します。

その後も「少し描き足すだけで、絵に良いざわめきが生まれます」、「面積の大きな場所からやってくる反射光に注意してください。例えば海の反射光によって、髪の毛の先の方は青くなります」などと、印象的な言葉が続きました。

  • モノクロにして明度を確認。髪の毛の暗さ、肌の明るさをチェックする

    モノクロにして明度を確認。髪の毛の暗さ、肌の明るさをチェックする

モノを描くとき、それが人工物か自然物か、考える必要があると話します。「水着は人工物なので、色の変化がほとんどありません。一方で自然物は、色が均一ではありません。人を塗るときも顔、手、腕、足が同じ肌色にはなりません」という言葉に、視聴者も納得。

イラストの女性は太陽に手をかざしているため、「(顔に落ちる)手の影も計算して描き足します」とモ誰さん。ただし、「大事なのは、影が入ってもキャラクターの顔が綺麗に見えること」と、計算一辺倒にならないよう注意をうながします。「どれだけ正確に描いても、綺麗じゃなければ意味がありません。影の出方を少し間違えても、綺麗に描くことを選んで下さい」というコメントに対して、YouTubeのコメント欄に「美しさの方が大事なんだなぁ」「正しくなくて良いという言葉に助かる思い」という書き込みも見られました。

  • このポーズでは、手の影が顔にかかる。そのとき正確さより、影が入ってもキャラクターの顔が綺麗に見えることを優先すべきと説いた

    このポーズでは、手の影が顔にかかる。そのとき正確さより、影が入ってもキャラクターの顔が綺麗に見えることを優先すべきと説いた

臨場感あふれる光というテーマだからといって、なんでもキラキラさせれば良いというものでもありません。「髪の毛は、キラキラさせるべきでしょうか。実際はキラキラする部分が目立つだけなんです」と冷静な見方をします。

また、「影を付けるときは人体の知識が必要になります。肩の筋肉は、光を遮るのでもっと暗くなります。肩甲骨には別れている部分があり、ここの下の方は、反射光の影響が少しあるはずです」と根拠になる知識も披露。一方で「絵は理論だけでなく感性も必要です」として、理屈っぽくならないように注意する場面も。そして「イラストは好みの問題もあります。けれど、(理論を)知っていて敢えて我が道を行くのと、知らずに間違えているのは別問題です」とも話していました。

  • 「手首は楽に動ける角度が決まっているので、手首に負担をかけないよう、キャンパスを回しながら色を塗るんです」と説明

    「手首は楽に動ける角度が決まっているので、手首に負担をかけないよう、キャンパスを回しながら色を塗るんです」と説明

そして、イラストが無事に完成。ベタ塗りされた状態から、ここまで光の表現にあふれたイラストができるとは驚きでした。YouTubeのコメント欄も、完成度の高さを絶賛する日本語、英語の感想がたくさん寄せられていました。

  • 完成したイラスト

    完成したイラスト

絵がうまくなるためにアートスクールは必要?

最後に、視聴者から質問が寄せられました。

PCとタブレットで色が違ってしまうのは気にしなくて良いか、という質問には「環境が違うと出せる色も異なりますが、自分が持っているディスプレイを基準にすれば良く、ディスプレイ間の色の違いは気にしないで良いのでは」と回答。

普段から大事にしていることについては、「絵を描くときの目的を大事にしています。何のために描くのか。今日のレクチャーは、光を説明する目的があったので、それが達成できる素材を用意しました」と解説しました。

そして、「アートスクールに通う必要はありますか」と聞かれると「アートスクールで絵を学ぶことに憧れを持っている方も多いけれど、個人的には、少し違うと思います。絵を描く機会が増える、そのくらい。ドローイング方法を学んでも、役に立つこともあれば、役に立たないこともあります。絶対に絵がうまくなる、とは言えません」と答えていました。