昨年の夏は全国各地で歴史的な猛暑が続き、気象庁の会見では「命の危険がある暑さ。ひとつの災害として認識している」という発言が出るほどの事態となりました。

そして今年、東京都心では5月の観測史上初となる4日連続の真夏日を記録。夏は打って変わって平年並みの気温という予想も出ていますが、一方で天候不順による高湿度も見込まれています。そんな冷夏に気温が上がった時ほど、実は「熱中症」の危険が高まるそうです。

本稿では、そんな夏本番に向けての熱中症対策として、暑さに負けない身体づくりをする方法・「暑熱順化」を紹介します。

  • 熱中症対策は今のうちに!

熱中症が起きる仕組み

地球温暖化の影響もあり、近年、日本の夏の平均気温は年々上昇を続けています。そして、気温の上昇とともに増加傾向を見せているのが「熱中症」 です。

  • 熱中症による緊急搬送状況と、東京の週ごとの最高気温(2018年度、出展:気象庁、総務省消防庁)

体温が上がることで、体内の水分やミネラルのバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりした結果、めまい、けいれん、頭痛などのさまざまな症状を起こす熱中症は、夏を健康に過ごす上で特に気をつけなければいけない病気です。

人間の体内で発生した熱は、血液へと移ります。熱くなった血液は皮膚近くに集まることでその熱を体外に放出して温度を下げ、冷えた血液として体内に戻っていき身体を冷やす、という仕組みになっています。そのため、水分やミネラルが不足して血液がドロドロ状態になると、血流が悪くなり熱を効率よく放出できなくなるため、熱が体内にこもってしまうのです。

また、汗は蒸発する際に身体から熱を奪うため、発汗によっても体内の熱を外に逃がすことができます。しかし、気温や湿度が高くなると、汗が蒸発せずに体温が下がらないといった事態も起こり得るのです。その結果、体内の水分やミネラルのバランスが崩れ、体温調節機能がうまく働かなくなります。

  • 体温調節機能が崩れることで身体に熱がたまってしまうと熱中症に

熱中症は、気温や湿度が高い場所、風が弱く日差しが強い場所で特に発症しやすいですが、昨今は室内型熱中症や夜間熱中症も増えており、外出時や日中でなくとも油断は禁物です。

身体が暑さに慣れていない状態で急に気温が上がった時なども発症の危険性が高まるため、冷夏こそ熱中症に気をつけるべきとの向きもあります。

暑さに対抗できる「暑熱順化」とは?

それでは、熱中症にはどのような対策を講じればよいのでしょうか。ノザキクリニックの野崎豊院長は「暑熱順化(しょねつじゅんか)」を勧めています。

「暑熱順化」とは、暑熱環境に一定期間さらされた時などに、身体が暑さに対抗するための「より高い体温調節能」を一時的に獲得することを指します。つまり、暑さに順応して熱中症になりにくい身体を手に入れるということです。暑熱順化が成立すると、身体に次のような変化が現れます。

(1) 低い体温でも多量の汗をかくことができる

(2) 汗中ミネラル濃度を低くすることで、多量発汗時にもミネラルの損失を軽減できる

(3) 血漿(血液中の液体成分)を増やすことで、皮膚血流量が増えるようになる

具体的には、汗の質がベトベトで乾きにくいものからサラサラで乾きやすいものに変わり、ミネラルが排出されやすい身体から輩出されにくい身体へと変わっていきます。身体が暑熱順化することで、体温は下がりやすく、体液のバランスは崩れにくくなり、熱中症が予防できると言われています。

  • 暑熱順化によって身体を暑さに順応させると、熱中症の予防につながる

暑熱順化を手軽に行う方法

「暑熱順化」を行うにあたって重要なのは、汗腺を鍛えることで上手に汗をかける身体にすること、すなわち、発汗を促す自律神経反応ならびに汗腺の働きを活性化することです。

そのためには、やや暑い環境でややきつい運動を、1日30分間を目安に数週間程度続ける必要があります。比較的手軽に行える方法は、ウォーキングやジョギングといった軽い運動をすること、そして入浴することです。

入浴は、40℃の湯船に10分程度浸かり、深部体温を約1℃上昇させてしっかりと発汗させることが肝要。しかし、汗をかきすぎて脱水症を起こさないように気をつけましょう。

  • 「軽い運動」と「入浴」に加え、「水分補給」も忘れずに

また、運動や入浴の前後には、ミネラルをしっかり含んだ飲料を摂ることを忘れないようにしましょう。十分な水分とミネラルを補給すると、血液循環量が増えて汗をかきやすくなり、より効果的な暑熱順化の進行が期待できます。

夏の水分補給の定番とも言える「ミネラル入りむぎ茶」には、血流改善効果や体温下降作用、血圧低下作用もあり、適度な塩分とミネラルが含まれているものの糖分やカフェインは含まれていないので、子どもや高齢者、妊婦や授乳中の方も安心して飲めてオススメです。

スポーツドリンクは糖分が多いため吸収されやすいのですが、エネルギー消費量がさほど多くない大半の人にとっては、後引く甘さのためつい飲みすぎてしまうことによる糖尿病(一過性)のリスクや、肥満のリスクがあります。

経口補水液は、脱水症状に陥ってしまった後、特に医師から脱水状態の食事療法として指示された場合に限り飲んでいい飲料です。自己判断で予防的に飲むと、塩分の過剰摂取になることもありますので注意してください。

  • 健康的なシーン別の飲み分け方法

水分とミネラルの補給は、一気に行なっても血液内に吸収された時にしか効果がありませんので、少しずつ継続的に飲む「点滴飲み」という方法が効果的。目安としては、運動中やその前後などは30分にコップ1杯程度のペースで、それ以外のシーンでは1時間にコップ1杯程度のペース。

  • 「点滴飲み」のポイント

運動や入浴が難しい方も、少しずつ身体を暑さに慣れさせていけば、ある程度の暑熱順化が可能です。冷房のきいた涼しい室内で汗をかく必要のない生活を送っていると、急に暑い環境にさらされても体温を調整する機能を十分に発揮できません。本格的な暑さが到来する前に、冷房の設定温度を高めにする、朝夕に室内に外気を取り入れるなどして、冷房に依存しすぎない工夫をしてみましょう。

夏が本番を迎える前こそ、「暑熱順化」した身体を獲得するチャンス。今年は身体づくりから熱中症対策を行ってみませんか?

監修者

野崎 豊

ノザキクリニック院長。日本東洋医学会評議員。日本東洋医学会指導医。認定産業医。国際メディカルアロマテラピー学会会員。昭和46年 慶応大学医学部卒、48年 米国医師国家試験合格、49年 米国フィラデルフィア・ペンシルバニア医科大学のネルソン教授のもとでレジデント終了。昭和57年より自治医科大学、山梨学院大学、山梨医科大学、神戸大学、兵庫医科大学等の講師を歴任。昭和63年にノザキクリニックを開業。