おそらく多くの人が「もしも自分が死亡してしまったら、家族の生活費が困るから」「もしも病気で入院をして、多額の医療費が必要になったら困るから」などと答えるように、保険は万一の事態や病気、ケガなどで不意の出費が必要になるときに、経済的に困らないために加入しておくものです。ということは、もともと貯金や資産がたくさんあって、何があっても金銭的に困らないという場合には加入しなくても大丈夫かもしれません。

保険は必要?

何があっても困らないほど多くの余裕資金を持っている人は多くはいないもの。生命保険文化センターが実施している「平成27年度・生命保険に関する全国実態調査(速報版)」をみてみてもこの実態がうかがえます。生命保険の世帯加入率は89.2%となっており、9割近くの世帯が保険に加入していることがわかります。

現実は、急にお金が必要となってもすぐに工面できなかったり、その出費のせいで予定していたことができなくなったりするものです。例えば、病気になって治療費に100万円かかり、貯金を取り崩したがためにマイホームの購入が予定よりも先延ばしになってしまう……なんてことが考えられますね。

加入前に確認しておきたい公的保障

しかしながら、必要だと思う保障額と本来の必要な金額のミスマッチが起こっている場合も少なくありません。もしもの時の経済的な備えは必要ですが、日本には死亡や病気、ケガなどの事態に遭ったときには公的保障があるのです。

・死亡したとき
通常、20歳以上の人は国民年金または厚生年金保険に加入しているため、死亡したときには「遺族年金」が見込めます。受給するにはいくつかの要件はありますが、死亡した人に生計を維持されていた遺族に対して支払われます。なお、国民年金または厚生年金保険のどちらに加入しているかによって、遺族年金を受け取れる遺族の範囲や遺族年金の金額などが異なります。

仮に世帯主である夫が死亡、扶養されている妻と子ども(18歳以下)が1人いるとした場合、夫が自営業者であるなら遺族年金は年額100万3,600円(平成30年度価格)です。夫が会社員なら収入金額や厚生年金への加入期間によって金額が変わりますが、自営業の場合よりも多くなります。

・病気やケガをしたとき
健康保険や国民健康保険には「高額療養費制度」があり、年齢や所得金額ごとにひと月(1日から月末まで)当たりの「自己負担限度額」が決められています。例えば70歳未満で、年収が約370万円までの人なら5万7,600円。年収が約370万円~約770万円の人なら8万円+α。その後も年収が増えるにつれて自己負担限度額も上がっていきますが、一般的に考えると、就職してしばらくは5万7,600円、その後は8万円+αの自己負担で済む家庭が多そうですね。

ところで、高額療養費制度は入院時の食事代や、個室などに入院した場合の差額ベッド代などは対象外。そのため、入院すると結局は1ヶ月当たり8万円以上必要になるとも言われます。たしかにその通りではありますが、そもそも差額ベッド代がかかるかどうかは本人次第。本人が個室を望む場合は別ですが、病院の都合や治療上の必要のために個室に入らざるを得ないときには、病院側は差額ベッド代を請求してはいけないこととされています。病院が差額ベッド代を請求するには患者が同意書にサインすることが必要ですので、不要な請求をされないためにもこのことは知っておきたいものです。

ほかにも、会社員なら病気やケガでしばらく働けないときに健康保険から傷病手当金という制度がありますし、会社の福利厚生として見舞金が支給される場合もあります。万一の死亡の場合には弔慰金や死亡退職金などが遺族に支給される場合もあります。

保険に加入しなくても大丈夫な人は?

公的保障や企業保障があることで、もしもの場合の経済的不安は軽減されそうです。それで足りない部分を貯金や保険で備えるというのがベストな考え方。ですから、その足りない金額に相当するだけの貯金があれば、保険に加入しなくても大丈夫ということになります。

しかしその金額がいくらになるかは人それぞれ。死亡の場合なら、家族の生活費や子どもの年齢、配偶者の収入の有無などによっても変わります。病気の場合なら、どんな病気になって、どれだけの闘病期間を強いられるかによっても異なります。

目安としては、死亡の場合なら次のように計算できます。

必要保障額=「(1)」+「(2)」-「(3)」
(1) 子どもが大学を卒業するまでの親子の生活資金(現在の生活費の7割程度)
(2) 子どもが大学を卒業した後のパートナーの生活資金(現在の生活費の5割程度)
(3) 遺族年金や死亡退職金など、世帯主の死亡後に入ってくるお金、パートナーが働いているならその収入も含めます
なお、子どもが複数人いる場合は、一番下の子を基準として計算します。

病気やケガの場合なら、先に見たように、高額療養費制度がありますから、仮に闘病期間が3カ月だとすると、「8万円+α」の3カ月分で24万円~30万円程度の貯金があれば大丈夫でしょう。なお、高額療養費の自己負担限度額は4回目以降からは4万4,400円に下がります。もっと長引き1年間としてみても、65万円程度ということになります。ただし、これだけの貯金は医療費負担にだけ使えるもので、用途が他に決まっているなら充てにはできません。

万一の備え貯金に要する金額は、独身の場合や子持ちの場合、自営業か会社員かなどによっても大きく変動します。貯金はコツコツ積み立てていくことはできても、ライフスタイルの変化に応じて貯蓄残高を適応させるのは難しいものです。必要以上に加入する必要はありませんが、「何があっても困らないほど余裕資金がある」という人でない限り、自分が必要とする最低限の保障は保険で準備しておくのがいいのではないでしょうか。

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著者プロフィール: 續 恵美子

エフピーウーマン認定ライターファイナンシャルプランナー。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。