カシオ計算機は5月9日、コンシューマ向けコンパクトデジタルカメラ事業からの撤退を正式に発表しました。海外市場を含めたワールドワイドでコンパクトデジタルカメラ事業を終了します。

コンパクトデジタルカメラは、スマートフォンの普及と、スマートフォンが搭載するカメラ機能の高性能化の影響を受け市場が縮小。カシオ製品も販売低迷状態が継続しており、2018年3月期の決算説明会資料によれば、デジタルカメラ事業は2期連続の赤字となりました。

  • これが「QV-10」

カシオは、1995年に世界初の液晶モニター付きデジタルカメラ「QV-10」を発売し、現在のデジタルカメラのスタイルを確立したパイオニア。その後も、2006年の(当時)世界最薄、最軽量のEXILIM「EX-S1」をはじめ、タイムラグなく連続でシャッターが切れたり、秒間60コマの超高速連射、シャッターを切る瞬間より前にさかのぼって写真を撮影できる「パスト連写」、高速連写合成により手ぶれ補正やHDR撮影を実現するなど、独自機能を意欲的に搭載した製品を次々と投入し、テレビ番組で紹介されたこともあって、大きな話題となりました。

  • QV-10は、国立科学博物館が主催する平成24年度重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録されている

また、2011年に発売したフリースタイルカメラ「EX-TR100」が中国で大ヒット。スマホ撮影に不満を持つ若い女性から「自撮神器」と呼ばれ、世界的な自撮りブームのきっかけを作りました。

  • EX-TR100

現在では一般的になった、スマートフォンとカメラをBluetoothで常時接続する機能をいち早く実装したのもEXILIMです。その後もカメラ部とモニター部が分離・合体する「EX-FR100」(2015年)や、G-SHOCKを彷彿とさせるデザインと耐衝撃・防水設計を備えた「G'z EYE」(2017年)を発売するなど独自路線を強化しましたが、販売は低迷。

  • 左から、魚眼レンズによる全天周写真を撮れる「EX-FR200」、超広角の「EX-FR100」、超高感度の「EX-FR110H」

デジタルカメラ事業は、通期で49億円、第4四半期(1~3月)で27億円の赤字となりました。売り上げベースでも対前年比マイナス57%となっており、「急激に売り上げが落ち込み、これ以上続けても増収は見込めない」(樫尾和宏社長)状況。なお、2018年3月期のカシオ計算機の全体決算は 見込みに対してマイナス352億円に上り、うち44億円は「デジタルカメラが主要因」と同社は分析しています。

  • タフネスカメラ「G'z EYE(ジーズ・アイ) GZE-1」

ちなみに表題の通り、デジタルカメラ事業の撤退は、あくまでコンシューマ部門についてであり、デジタルカメラ関連の業務から完全に撤退するわけではないとのこと。たとえば、カメラ部とモニター部が分離・合体するEX-FR100のゴルフ専用バージョン「EX-SA10」は、ゴルフ教室などを中心に販売を継続していくとしています。

さらに、デジタルカメラ商品の開発で培われた、EXILIMエンジンVer.3をはじめとする数々の技術資産は、新規事業へ受け継がれ、研究開発も継続されるとのこと。この新規事業のひとつとして、「2.5Dプリントシステム」の世界規模の事業拡大が発表されており、カシオ計算機は初年度販売計画として700台、約50億円の売り上げを見込んでいます。

国内のほとんどのカメラメーカーがコンパクトカメラの開発・販売をとりやめる中、デジタルカメラの礎とともに、EXILIMブランドでひとつの時代を築いたカシオの撤退。それは、時代の変遷を決定付ける衝撃的かつ残念なニュースとなりました。しかし、その技術と研究が未来へと受け継がれる以上、今後何らかの形で新生するカシオのデジタルカメラテクノロジーと再会できる可能性はあります。その日が一日も早く来ることを期待して待とうではありませんか。

  • 「EXILIM」と聞くと、初代「EX-S1」を思い出す人も多いのでは?

  • EX-S2

  • 大ヒットを飛ばした3倍ズーム機「EX-Z3」

  • 伝説の「EX-F1」

  • EXILIMエンジンHSを初搭載した「EX-ZR10」