昨年大みそかに放送された日本テレビ系『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 大晦日年越しSP! 絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時!』で、映画『ビバリーヒルズ・コップ』での俳優エディ・マーフィに扮した黒塗りメイクが披露されてから、「人種差別だ」「そんな意図はない」と賛否両論が巻き起こって約2カ月が経過した。いまだくすぶるこの問題を最初に取り上げたのは、世界17の国と地域で展開するウェブニュースサイト・ハフポストの日本版編集部だ。

年明け1月3日には、Twitter上でこのシーンについて問題提起した、日本在住13年というアフリカ系アメリカ人のバイエ・マクニール氏(作家・コラムニスト・教師)への取材記事を掲載。以降も、キャンペーン的に取り上げて特集しているため、"ガキ使批判の急先鋒"とも見られているが、同ニュースの竹下隆一郎編集長に話を聞くと、意外にも苦悩を抱えながらこの問題と向き合っていた――。

一定程度の当事者は不快に思ったのではないか

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竹下隆一郎
1979年、千葉県生まれ、アメリカで幼少期を過ごす。慶應義塾大学卒業後、02年に朝日新聞社入社。経済部の記者として活躍し、佐賀支局時代には西鉄バスジャック事件(00年)の被害者のその後なども取材。16年5月に同社を退社して、ハフポスト日本版編集長(現職)。

もともとダウンタウンの大ファンで、『笑ってはいけない』シリーズも毎年欠かさず見ていたという竹下氏。問題のシーンを見た際に、「きっといろんな意見が出るんだろうな」と直感したそうだが、そんな中、マクニール氏がTwitterで声を上げた。

同氏を取材した理由について、竹下氏は「当事者であるアフリカ系アメリカ人の方から声が上がったということ、理論的に問題点を指摘されていたこと。そして、日本に長年住んでいて、単に外から見て土足で踏み入って批判したのではなく、日本の文脈がある程度分かった上での意見だったので、これは取り上げたほうがいいなと思ったのが最初です」と説明する。あのシーンが、"アメリカンポリス"という設定の中で、『ビバリーヒルズ・コップ』のアクセル刑事に扮したというのも、承知の上だそうだ。

英BBCや米ニューヨーク・タイムズでも取り上げられたが、果たして当事者の多くが問題視しているのか。竹下氏が出演したAbemaTVの番組『けやきヒルズ』が東京・浅草で街頭インタビューを行うと、黒人男性から「失礼でもなかったし全く気にならなかった」という意見もあったが、竹下氏は「きちんとした調査をしないと分かりませんが、マクニールさん以外のアフリカ系アメリカ人の方への取材の実感や、我々が普段アメリカのニュースなどで人種問題に接している経験から、一定程度の方は不快に思ったのではないかと思っています」という認識だ。

また、今回の問題を受け、アメリカや韓国のハフポスト編集部の意見も聞いたそう。韓国でも過去に、タレントがテレビで黒塗りをして大きな批判を浴びたことがあり、現在日本で起こっているような「差別する意図はない」「アメリカと歴史と違うから、そこは別にして考えるべき」という議論があったそうだ。

そうした事実を知り、「ネットによって多くの情報が拡散され、外国人の出入りも増えてきた時代になり、お笑いに限らず、自分たちが作ってきた文化と、グローバルの文脈が"衝突"するということが、あちこちで起きている問題だと感じています」という竹下氏。ならば、今回の『ガキの使い』での黒塗り騒動を解決させるには、日本のお笑いが折れるべきなのか、それとも問題視する人たちと議論して妥協点を探るべきなのか。

国内と海外からの批判に板挟み状態

この見解について、竹下氏は「正直、そこは迷っています。あえて言いますが、分からないです」と率直に苦悩を吐露。「あるお笑い関係者にこの問題について取材したんですが、『すべての笑いがアメリカ基準になってしまったら、世界中どこでも似たようなエンタメになってしまい、独自性が失われるんじゃないか』とおっしゃっていました。すべてのハンバーガ屋さんがマクドナルドに、すべてのコーヒー屋さんがスターバックスになったら面白くない世界なので、それは一理ありますよね」と話す。

また、今回最初に配信したマクニール氏への取材記事は、黒塗りを一刀両断に批判したのではなく、あくまで"問題提起"として書いたものだったが、これを訳して配信しようとした海外の編集部から「この問題はすごく批判されるべき問題なのに、ハフポスト日本は甘いんじゃないか」との意見が。

それに対し、竹下氏は「日本のテレビの文化を紹介しながら、『これはお笑いの文脈なんです』と反論して戦いました。日本のお笑い界をずっと引っ張ってきたダウンタウンさんのすごさを、『トカゲのおっさん』や『ゴレンジャイ』といったコントの例も出して、毒もあるけど愛のある笑いを作る人たちなんだと一生懸命説明しました。グローバルの文脈とローカルの文脈のズレをどう埋めるかは、普段の取材の大事なテーマなので…」と明かしてくれた。

一方で、国内からは「上から目線だ」「優等生的に重箱の隅をつつくな」「これでお笑いがつまんなくなったらどうするんだ」という批判にさらされ、まさに板挟み状態。「本当はメディアの編集長として、きちんとポジションを取らなきゃいけないと思っています。変化が激しい時代に、日本のようなローカルな文化も、いやでもグローバルな価値観に晒され、アップデートする必要があるとは思っています。自分がお笑い好きということもあって、100%のはっきりとした結論は今は出ませんが」と悩ましい。