その昔、朝昼晩1カ月マクドナルドを食べ続けるとどうなるかを検証して米マクドナルド(それに類するファーストフード界隈)を痛烈に批判したドキュメンタリー、『スーパーサイズ・ミー』(04)という映画があったが、それは良くも悪くもマクドナルドがxアメリカ国内において国民食レベルで定着したことの裏返しであり、世界最大級のファーストフードチェーンであったからこその功罪を問うという現象であった。それから10数年後の2017年、再びマクドナルドの光と闇に迫る映画が登場した。それが、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。なんか副題が付いているが、ファウンダー=創業者のお話なのである。

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

"ヒミツ"と言っているので知らない人が多いということもかもしれないが、ざっくり言うと実はマクドナルドの創業者と、それを世界最大級のファーストフードチェーンに育てた人物は違うのである。この映画は、レイ・クロックという後者の実在のビジネスマンに焦点を当て、彼の目線でマクドナルドが全米で市民権を得ていく過程を描いていくのだ。

実話に基づいたストーリーは、1954年のアメリカで始まる。主人公レイ・クロックは、シェイクミキサーのセールスマンとして中西部を回る52歳のしがない中年。再起を賭けるも泣かず飛ばずで、妻との仲もいいとは言い難い。ところがある日、ミキサー8台のオーダーが突如として入る。好奇心旺盛なレイは発注者元に勝手に向かうが、そこにはディック&マック兄弟が経営するハンバーガー店<マクドナルド>があり、長い行列ができていた。

初めは行列にうんざりした表情を浮かべるレイだったが、どうも回転が異様に速いことに気づく。一方、ドライブインで最低のサービスで食事をすることに慣れていたレイは、注文して30秒で美味しいバーガーが(しかも正確に)出てくることに腰を抜かしてしまい、その裏側には厨房で超合理的な流れ作業のシステムがあることを知る。すっかりディック&マック兄弟のアイデアと経営理念に心酔したレイは、2人をすぐさまディナーに誘って親交を深めることに成功。やがてコスト削減・高品質という<マクドナルド>のスタイルにビジネスの勝機を見出したレイは、壮大なフランチャイズビジネスを思いつくが……。

このレイは、要するに<マクドナルド>とはまったく関係ないものの、ディック&マック兄弟に取り入ってビジネスパートナーとなり、次々とフランチャイズ化を成功させて、我れ創業者=ファウンダーなりという顔をしていく男だ。事業の拡大当初は兄弟と逐一ビジネスの相談をして進めていくも、いろいろな人たちと出会い、知恵と経験、財産と権力を得て己のハンバーガー帝国同様に巨大化していくレイは、やがて兄弟との全面対決へ! おそらく観る者は、全面対決の一部始終に哀しみや空虚感を覚えながらも、どこかレイがもたらすスリルや物事が発展する過程にも興奮するという、複雑な感情を抱くに違いない。

これはひとえに、レイ・クロックという男を単なる他人の財産を強奪するさもしい人間として描いていないことに尽きる。当時のアメリカン・ドリームの象徴でもあるレイは手段を選ばず、資本主義経済や競争社会の中でのし上がっていくわけだが、基本的には仕事人間で"成功するチャンスもノウハウもわかっているのに、何もしないことのほうが罪"という考え方で目の前の難題を次々と突破していく。それはビジネスの世界では自然な考え方でもあり、だからこそのレイの快進撃は観ていて痛快で興奮している自分もいるのだ。

よく映画で語られがちな"すべてを得た男はすべてを失う"的なおセンチ前回の展開はまるでなく、熱い情熱で挑戦を続け世界有数の巨大企業を築き上げた男は、はたして怪物なのか英雄なのか、というジャッジを観る者にグイグイ迫る。その男を近年、怪人度がやけに増しているマイケル・キートンが気持ち悪く怪演! とても気味悪く一度観たら忘れない容貌で、気に入らないことがあると電話を一方的に切るという、人間的な魅力があるとは決して言い難いが、仕事への想いにはシミ一点なく共感し得るので始末が悪い。このマイケル・キートンの微妙なサジ加減の演技力のせいで、なかなか簡単には答えが出ない。

いわゆる創業者問題などは世間によくある話で、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』も世に知られた騒動を描いてはいるものの、主人公をシンプルな悪として描いていない点がミソ。<マクドナルド>兄弟か、創業者と名乗りたいレイか、それぞれの立場に正義があるわけで、観終わった後に皆で意見を交わし合いたい秀作人間ドラマの誕生だ!

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