ビジョンファンドの評価には長期的視点が必要

ソフトバンクではVision Fundの投資戦略について、「次世代のイノベーションを引き起こす可能性のある企業やプラットフォームビジネスに対して、大規模かつ長期的な投資を行う」と表明している。グループ会長の孫正義氏がたびたびアピールを行っているが、同氏の投資案件でも成功事例としてよく知られている米Yahoo!や中国Alibabaのインターネット革命の次に来る波に乗るための種まきを行うことが目的にあるようだ。

具体的には、IoT(Internet of Things)、人工知能(AI)、ロボティクス、モバイルアプリケーションやコンピューティング、通信インフラと通信事業、計算生物学、その他データ活用ビジネス、クラウドテクノロジー、ソフトウェア、消費者向けインターネットビジネス、金融テクノロジー、そしてこれら以外にも広範囲のテクノロジー分野をカバーしていくという。IoTやモバイルデバイスの世界ではARMがすでに大きなポジションを獲得しており、AI分野では先ほど冒頭で名前の挙がったNVIDIAがマシンラーニングやスーパーコンピュータによる解析分野で大きな業績を達成している。Vision Fundはまだスタートしたばかりだが、その意味でのソフトバンクを中心とした次世代の種まき事業はすでに始まっている。

20年以上前に始まったインターネット革命

20年の時を経て次なる革命が始まることを興奮気味に語る孫正義氏

最近よく同氏が出す「Singularity」というSF世界では著名なキーワードだが、実際すでに一部分野では現実のものとなりつつある

ソフトバンクの投資事業の特徴として、海外に拠点を持つ複数の投資担当者のネットワークを経て規模を拡大し、さらに短期的なリターンよりも長期的視点から投資を行う点にある。Yahoo!などを除けば、Alibabaが初期投資から最終的に株式公開(IPO)によってリターンを得るまでに10年以上の月日を要したわけで、長期かつハイリスク/ハイリターンなものが多いといえる。

孫正義氏とソフトバンク・ビジョン・ファンドが目指すものとは

一方で、この2社はインターネット世界において主要ベンダーの地位を獲得しており(残念ながらYahoo!は事業売却で事実上撤退した形になったが……)、一度ハマったときのリターンは大きい。例えば、IoTを含む将来のデジタル世界で小型から大型までプロセッサの需要は増え続けることが確実視されているため、ARMを傘下に抱えているのはそれだけで大きな意味を持つといえる。こうしたコアをなる事業を見つけ、投資という形で支援を続けているのがVision Fundの狙いだ。

最近の筆者は主にモバイル決済や関連インフラまわりを活動フィールドに取材を続けているが、インドで金融サービスを提供するスタートアップのPaytmに対し、その親会社のOne97 Communicationsにソフトバンクが16億ドル規模の投資を行ったことが発表された。Paytmは各種支払いや送金処理などをスマートフォンなどを使ってデジタル化するサービスを提供しており、こと高額紙幣が廃止されて国を挙げて金融のデジタル化を目指すことが表明されたインドでは注目の企業となっている。

特にインドのような新興国では都市部以外での銀行口座普及率が低く、国の人口の多さを考えれば金融サービスの潜在的需要が大きい。今後数年ではまだ目立った効果が見られないかもしれないが、10年以上先には国のインフラ事情を一変させる立役者の1つとなっている可能性がある。つまりVision Fundの本当の真価を図るには、非常に長い期間からみた視点が必要になるだろう。