フリーペーパーで"好きだから行きたくなる"調剤薬局に

――岩崎さんはアイセイ薬局が発刊している『ヘルス・グラフィックマガジン』の編集長も務めていらっしゃいますよね

『ヘルス・グラフィックマガジン』は毎号1つの病気の症状をテーマとして、年に4回発行しています。毎号15万部発行し、年間60万人もの読者がいます。

文章から入ってもとっつきにくいと思ったので、読者にとって入り口の部分である表紙を絵に。読者に興味を持ってもらいたい、クリエイターの感覚から生まれたものです。制作する際は、"老若男女、誰でもわかるようにしたい"と、毎回意気込んでいます。

『ヘルス・グラフィックマガジン』

――『ヘルス・グラフィックマガジン』を制作した背景を教えてください

『ヘルス・グラフィックマガジン』発刊の意図は、当社の事業活動に自分なりの方法で貢献したいという思いが根底にありました。現状、調剤薬局は"お薬交換所"というイメージを持たれるように、世間の関心が低い業界であることを認識しています。調剤薬局をブランドで選ぶことって、余りないんです。そこで、病気の予防や、病気になった人のコンディションが良くなるための情報を、面白く提供することで喜んでもらえるのではないか、と。調剤薬局は技術料も決まっているので、価格の勝負も関係ない。だからこそ、"私はここが好きなので、ここに行きたい"という圧倒的ポジショニングを築きたいと思ったんです。

22号「アトピー性皮膚炎」の特集内容

このフリーペーパーの制作は2010年のアイセイ薬局に入社してすぐに制作にとりかかり、以降、6年間試行錯誤しながら継続してきました。その努力も報われて、2015年には「グッドデザイン・ベスト100」に選出され、マスメディアの報道も。報道後は『ヘルス・グラフィックマガジン』目当てでの自社のWebサイトのサーバーがあまりのトラフィックにダウンしそうになるほど、反響がありました。中には、「バックナンバーを送ってほしい」「『ヘルス・グラフィックマガジン』が出るのが楽しみだから、いつもアイセイ薬局にしています」といった患者さんからの声も。『ヘルス・グラフィックマガジン』が一定のロイヤリティ形成につながっているなぁと、実感しています。

医療モールに蔦谷書店のようなライブラリー?

――このほか、クリエイティブ・マーケティングを活かした施策はありますか?

千葉県船橋市にある関東最大級の医療モール「下総中山クリニックファーム」の老朽化に伴い、全館リニューアルのディレクションを社内でオファーされました。その際、蔦谷書店を手掛けるCCCとコラボレーションし、クリニック内にライブラリースペース設置するという企画を提案しました。

下総中山クリニックファームの蔦谷書店コラボのライブラリースペース

――CCCとコラボレーションして、ライブラリースペースをつくった狙いを教えてください

クリニックでは、患者さんが診察の待ち時間が長いことを不満に掲げている人が多いことが課題でした。調剤薬局は、医療や診察の中身に介入することはできないですが、待ち時間を苦痛にしないことなら我々も何かできるかもしれない。そこで、心理的に待ち時間を感じさせないことを1つの軸として、ライブラリーをプレゼンしました。

2011年にオープンした代官山蔦谷書店の空間のこだわりに惚れこみ、蔦谷書店のブックコンシェルジュに本のセレクトを打診しました。「生活提案力」をコンセプトとしていて、セレンディピティ(偶然の出会い)をいかにつくれるか、という選び方をしてくれました。 普通の本屋では、旅行ガイドコーナーの海外の棚だったら、北欧やヨーロッパ、イギリス……といった本が並ぶと思います。一方、蔦谷書店で、例えばノルウェーの本が置いてあるところには、ムーミンの本が置いてある、とか(笑)。こういった北欧に旅行に行く人が、ついでに読みたくなるであろう書籍を組み合わせる、棚の編集にこだわりを持った人と棚作りをしたいという気持ちを込めて制作しました。

――なるほど、広報のお仕事にクリエイティブ・ディレクターの経験が生きてるんですね。本日はありがとうございました