使い勝手で「YouTube」との差別化を図る

ストリーミング・ミュージックには、音楽をラジオのように「流しっぱなし」にする「ラジオ型」と、プレイリストや検索結果に応じて1曲ずつ流す「オンデマンド型」がある。実際問題、ラジオ型のストリーミングは10年以上の歴史があり、まったく珍しいものではない。日本でも、ラジオのネット配信プラットフォームである「Radiko.jp」は、広告で運営されたストリーミング・ミュージックと言えなくもない。

今時のラジオ型は、楽曲のジャンルやチョイスに応じて大量のチャンネルを用意する、オンデマンド型とネットラジオの中間のようなもの、といっていい。オンデマンド型の方が使い勝手は良いが、音楽業界の慣習として、ラジオ型の方が楽曲資料料や許諾へのハードルが低く、先行している部分がある。

無料のYouTubeに対して、有料のストリーミング・ミュージックはどう戦うのか? 答えは「使い勝手」だ。プレイリストやレコメンド機能の充実によって楽曲に出会いやすくし、さらには連続再生もしやすくすることで、「いちいちYouTubeを使うよりも楽で快適な音楽環境」を用意するわけだ。

Apple Musicはそこで、「一体感」と「レコメンド能力」を推す。Apple Music事業の責任者であるジミー・アイオヴォンは、WWDCの基調講演でこう話した。

「音楽について知る・楽しむ場所は、ネットの中で分散してしまっていて、どこから楽しんでいいかわからない。Apple Musicでは一つの場所で、オール・イン・ワンで楽しめる」

「音楽を発見するには、音楽を知る人々の能力が重要。アルゴリズムだけではない」

Apple Music事業の責任者、ジミー・アイオヴィン。ブルース・スプリングスティーンのレコーディングエンジニアも務め、Beatsの創業者でもあった、音楽業界の重鎮の一人である

Apple Musicの場合は、これまでiTunesで管理していた「自分が持っている音楽」とストリーミング・ミュージックが一体化される。また、ネットラジオやアーティストのSNSも一体化された「一つのアプリである」。

使い勝手を価値にする。また、音楽のレコメンドについてはソフトウエア処理だけでなく、音楽の知識を持っている人々を大量に雇用し、かれらの判断に基づいて最終処理を行うという。アップル関係者は「BPMが同じだからといって、スカとハワイアンが一緒になったら興ざめだろう?」と話していた。確かにそうだ。

LINE MUSICはそれに対し、「LINEというコミュニケーションプラットフォーム」で戦う。LINEやTwitter、Facebookなどに音楽をシェアしやすい作りにして、「音楽を会話の要素として使ってもらう」ことを考えている。LINE MUSICの場合、会員以外にも30秒分の「視聴曲」は無料でシェアされるようになっていて、会話のネタとしては十分使える。その上で、他社より安い価格を打ち出し、LINEの支持層である学生を取り込む作戦だ。

この他にも、ストリーミング・ミュージックは、今年の後半に向けて積極的なビジネス展開が進むとみられる。音楽出版社の関係者は、「よほど条件が悪くない限り、どこかに権利を提供したら、他にも提供することになる。そうすれば、売り場が増えてビジネス機会が拡大するからだ」と話す。

去年まではストリーミング・ミュージックに消極的だった日本の音楽出版社も、CDやダウンロードビジネスの環境悪化に伴い、「これ以上の牛歩戦術は意味がない」と考えるようになっている。ジャニーズ系など、一部いまだ楽曲提供に消極的な例をのぞき、日本でも今年後半には、「ストリーミング・ミュージックでも、CD販売とさほど変わらないタイミングで新譜が聴ける」時期がやってくるだろう……と筆者は予想している。

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