3月28日、アップルが直営店「Apple Store」にて提供しているジュニア向けプログラム「フィールドトリップ」が、Apple Store, Ginzaで開催された。今回は山梨県甲府市の山梨英和中学校・高等学校から12名が参加した。

フィールドトリップは毎年春と秋に開催される学生向けのプログラムで、Apple Storeで作品作りを体験したり、これまで作った作品や研究の発表を行えるというもの。機材もApple Store側で用意してくれるが、山梨英和中学校・高等学校ではiPadを使ったICT教育を実施しており、生徒達は全員iPadを購入して使用している。今回も各生徒が自前のiPadを持ち込んでの発表となった。

会場となったApple Store, Ginza 3階のシアタールームでは、まずはワークショップの進行役を務めるApple Storeのスタッフが登場し、iPadとKeynoteを用い、AirPlayを使ってApple TVへiPadの画面を表示しながらプレゼンを行うことを説明。軽妙なトークで生徒たちの緊張をほぐすと、同校の三井貴子校長が挨拶を行った。

山梨英和中学校・高等学校の三井校長

山梨英和中学校・高等学校は1889年創立で、今年115周年を迎えた、伝統あるキリスト教主義の中高一貫女子校。同校の理事長が熱心なアップルファンということもあって、2012年からiPadを使ったICT教育を取り入れているという。ちなみに、2013年には文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも指定されている。

同校のスクールバスには生徒たちからの公募デザインによるラッピングが施されている

ここからは生徒たちが司会進行を行いながら、各人のプレゼンに移る。 山梨英和中学校・高等学校の生徒たちが日々iPadを使って学んだことや、iPadをどのように学習に使っているかなどが発表された。普段の学習で学んだことをPagesを使ってレポートにまとめ上げたり、Keynoteを使ってクラス内で発表を行うなど、iPadの特徴を生かした活動が随所に見られた。

難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)について調べた自由研究のレポートはPagesで作成。Keynoteを使ったプレゼンも、中三ながら堂々とした発表ぶり

夏休みの研究課題などもPagesやKeynoteで作成。SSHのポスター発表会も、下調べやポスター作り、原稿作りまでiPad上で行われた

Pagesで作成したレポートも、導入時と比べると、習熟度に比例するように書類の見栄えなども大きく向上した

いずれも素晴らしい発表だったが、中でも目を引いたのは、iTunes Uを使った数学の反転学習についての発表。これは授業を受け、基本問題→応用問題と解きながら学習する従来型の授業ではなく、インターネットを使って事前学習を行っておき、グループ内で解き方を教え合いながら学び、解法を発表するというもの。1つの学習について時間はかかるものの、理解を深めることができるほか、予習の習慣をつける、人前で発表することに慣れる、さまざまな解法の導き方を知ることができるといったメリットがあるという。

高校の数学では反転学習で理解度を深める試みも行われている

iTunes Uで課題の配信を行い、ファイル共有で提出するといった、クラウドを使った学習がしっかり根付いている様子だった

山梨英和中学校・高等学校では英語や数学でiTunes Uを使った課題の配布・提出が行われており、課題が出されるとリアルタイムで通知されるということで、課題忘れなども起きにくくなっているとのことだが、iPadに用意された機能やサービスをうまく活用していると感じさせられた。

約1時間半の発表会は恙無く終了。最後は全員で記念撮影を行い、修了証と記念品が授与された。発表が始まるまでは緊張した面持ちだった生徒たちも、発表終了後は満面の笑みで、しっかりと発表会を楽しめた様子だった。

発表終了後は全員笑顔で記念撮影

今回の取材を見て感じたことは、生徒達がiPadの操作に熟達しているだけでなく、自然にテクノロジーを活用しているということだ。iPadのカメラで写真や映像を撮影して資料に取り込んだり、クラウドでファイル共有するといった高度な応用も当たり前のようにすんなりこなしている。海外校との交流では、FaceTimeによるビデオチャットも当然のものとして使われている様子が伺えた。Keynoteを使ったプレゼンも堂に入ったもので、プレゼンといえば模造紙やOHP用フィルムに手書きで資料を作っていた時代と比べると隔世の感がある。

ITが身近にある世代ならではの姿だとも言えるだろうが、iOSが習得しやすく、操作系も統一されていて使いやすいこと、また学校側も肩肘張ってiPadを導入するのではなく、無理のないかたちで広げていったこともまた、功を奏しているのだろう。資料類をすべて1つにまとめることができ、軽量で持ち運びやすいiPadは、生徒たちにとってもお気に入りということで、お仕着せではなく自然に使いこなしている様子が印象的だった。

各生徒はiPadを思い思いのケースに入れて使っており、自分だけの道具として愛用していることが伺われた

コンピュータを使った教育、いわゆるICTについては、各地でさまざまな取り組みが行われている。鳴り物入りでスタートしてみたはいいが、現場では理想としていたほどうまく回っていないケースもあり、手探り状態のところが多い。こうした失敗事例では、ICTの導入という目的が先行しすぎてしまい、何のためにICTを導入し、何をするべきなのかという議論が行われていないように感じる。

たとえば山梨英和中学校・高等学校でも、すべての授業でiPadを使っているわけではなく、通常の授業では紙のノートを使って勉強しているという。しかし必要なシーンではiPadの機能を効果的に使い、従来型の教育では難しかった授業の導入を成功させている。ICTの導入で苦労している自治体や学校にとっては、フィールドトリップを通じて他校の導入事例を見るのも、大いに参考になるのではないだろうか。

次回のフィールドトリップは2015年の秋に開催の予定だが、参加に興味のある教育関係者の方々は、申し込みの登録等についてこちらをチェックしてほしい。スティーブ・ジョブズをはじめとする各界の著名人らが登壇したApple Store, Ginzaのシアタールームを発表の舞台にできる経験は、生徒たちにとっても、きっと一生忘れられない学習体験になるはずだ。