―― グローバルのハイアールのイメージと、日本におけるハイアールのイメージは、かなり違いますね。日本では、AQUAブランドでひとつのイメージを築きましたが、どうしてもローエンドという印象が、日本では先行しています。

伊藤「ハイアールの日本市場への参入時に、ローエンド、低価格という路線を打ち出したこともあり、日本でのブランドイメージは、決して高級ブランドではありません。私は海外での経験が長く、もともと持っていたハイアールブランドのイメージと、日本でオペレーションを担当して得たイメージとの違いを、強く実感しました。私は、日本におけるハイアールブランドのリポジョニングを行いたいと考えています。その第一歩として、私が2月に社長に就任して以降、ハイアールアジアインターナショナルの組織のなかに、社長直轄のマーケティング本部を新設しました。従来は、商品企画部門のなかに、マーケティンググループがあったにすぎなかったのですが、日本とアジアにそれぞれマーケティングの責任者を置き、消費者の琴線に触れるような情緒のある製品を持ったデザインを持ち、価格、性能を含めて最適なものを提供するための仕掛けを開始しました。

もしかしたら、消費者は機能をテンコ盛りにした製品は求めていないかもしれません。機能性価値の追求に加えて、使わない機能に対して、お金と時間をかけるよりも、それ以外に提供できる価値を提供できないか、身近に感じてもらえるものはなにか。そうしたところからマーケティング戦略を見直していきます」

関本「サッカーに、ワールドカップとJリーグがあるように、戦い方が違います。世界ナンバーワンの白物家電メーカーとしてワールドカップを戦っているように、Jリーグという日本独自のステージにおいても、やはりメインプレーヤーとして戦えるようにならなくてはいけない。ハイアールには、高い品質とデザイン性を持った製品が数多くありますが、日本には日本のユーザーが求める製品というものがあります。一方で、昨今では、コーヒーのネスレが展開しているような、『機械』を売るのではなく『機会』を売っているといったことが受け入れられている。こうしたことをヒントに、白物家電メーカーも、これまでとは違うアプローチができるのではないかとも考えています」

軸足を洗濯機と冷蔵庫以外に広げるには、AQUAによる価値を紐解くべき

伊藤「ここでもやはり異業種とのコラボレーションが必要だと思います。我々が、『機会』を売ることに対して、企業の大小を問わずに、波長があい、同じスピード感で世の中に提供することができる企業とのコラボレーションによって、新たなビジネス創出を目指していきたいですね。クロモノ家電への参入においても、単にテレビやタブレット、スマホを投入するだけでは、レッドオーシャンのなかに飛び込んでいくだけですから、『機会』という切り口から取り組んできたい。

ハイアールは総合家電メーカーですが、日本のような成熟市場であれば、万能だというアプローチでなく、ここが得意だということをもっと打ち出す必要があります。しかも、それを社内リソースだけでやるつもりはない。30年以上、洗濯機、冷蔵庫に携わっているハイアールの技術者のノウハウと、異業種企業とのノウハウを組み合わせることで、新たなものが出てくると考えています。これは、ハードとソフトの融合というよりも、消費者のまわりにあるハードやソフトをつなぎあわせるという表現の方が適切かもしれません。ハイアールがつなぎ目役をできればいいと考えています。そして、この取り組みは、一度販売して終わりという仕組みではなく、顧客と継続的なつながりができる体制づくりにもつながります」

―― 『機会』の提供ではどんなことを想定していますか。

伊藤「現在、タイにおいて、新たなビジネスプラットフォームへの取り組みを行っています。これはインターネットを利用したものですが、eコマースのように、単純に洗濯機や冷蔵庫を売るのではなく、SNSやブログ、ゲームなどを活用する多くのネットユーザーが立ち寄れるプラットフォームになることを目指しています。まずは、ネットユーザーがネット上に用意された参加型のイベントを訪れて、その流れで、格好いいスマホやタブレットが、サイト限定で販売していることを知り、ちょっと持ってみようかなというような流れを作りたい。その上で、購入したり、あるいはなにかのサービスを利用したりといったことができればいいと考えています。いわば、『つむぎあわせる』役割ができないかと考えているんです。

私が担当している日本を含むアジア地域の約10カ国のなかで、こうしたマーケティングに最も適しているのがタイだと考えています。人口は日本の約半分ですが、SNS人口では世界トップ3に入っている。これからトライしようとしている事業に乗り出しやすい環境にあります。ここでの成果を日本をはじめとするアジア各国へと展開する考えです」

―― ところでブランド戦略では、AQUAブランドのアジア展開や、AQUAブランドによるクロモノ展開の可能性もあるのですか。

伊藤「いずれも、視野に入れています。AQUAブランドのタブレットやスマホといった展開も想定していますし、AQUAの世界展開もロードマップのなかには入っています。まずは、アジアから展開し、アジア地域においてAQUAブランドを確立することが最優先となります。ハイアールには中国以外に5つのブロックがありますが、それらのCEOとの話しあいによっては、欧米や中国を含めた展開も考えられます。AQUAというブランドによる展開が、マーケットにポテンシャルを生み出すのであれば、ぜひやりたいですね。

AQUAはまだよちよち歩きのブランドです。スタート時には、小泉今日子さんと組んで、ひとつのイメージを作り上げることができた。それをベースとして、これからさらにAQUAを強化していきたい。そのときに、AQUAというのは本来どういうブランドなのかということを改めて捉えてやっていきたい。白物だけでやる必要はないですし、日本だけに留めておく必要もないと考えています」

関本「ただこれは、AQUAのクロモノを出すことが目的ではありません。『機会』づくりへの取り組みのなかで、AQUAワールドというものがあるかもしれません。そのなかで、AQUAというブランドを、クロモノに展開する必要があればやっていきたいですね。AQUAというブランドは洗濯機でスタートし、現在は冷蔵庫にも広がっていますが、それをどれぐらいの人が認識しているのか。それを再確認する必要もありますね。

むしろ、AQUAという言葉が持つ意味や価値に立ち返ることもできるのではないかという捉え方もできます。

AQUAは『水』であり、人にとってなくてはならないもの。その位置づけから考えた時に、我々の生活になくてはならない製品を提供することがAQUAのブランドだとしたら、それに必要な商品は何か、スペックはどんなものか……ということが浮き彫りになってくるのではないでしょうか。軸足を洗濯機、冷蔵庫以外の次のステージに進めていく上では、AQUAがもたらす価値をもう一度紐解いて、新たな展開を行っていく時期に入っていると思います。AQUAが目指す価値を作り直して、それをデリバリーするために最適な手段のモノづくりを進めていきたいと考えています」