8月4日と5日、千葉県浦安市と浦安市教育委員会が主催する「ふるさとうらやす立志塾」内で、宿泊型の防災研修「すごい災害訓練 DECo(Disaster Evacuation Coaching)」が実施された。

「ふるさとうらやす立志塾」とは、浦安市内の中学校2年生を対象としたリーダー研修で、さまざまな研修を通じて、未来のふるさとうらやすを担うリーダーの育成、学校のリーダーとしての資質能力の向上を図ることを目的としている。

思考をサポートするツールとして利用されたiPad

今回の防災研修は、防災に対する関心を高め、被災時に自ら考え、自助・共助を実践できる力を身に付けさせることを目標としており、9中学校から各3名が参加。ICT機器を使った講座ではiPadを利用した市内踏査が行われた。iPadはソフトバンクモバイルより提供(貸与)されたというiPad Airを使用していた。

27名に渡されたiPad Air

初日は「デジタルマップを活用したDIG(災害図上訓練)」を実施。浦安市に直下型地震が発生した時の街の様子や被害の状況、人の動きなどをデジタルマップで示し、その規模や内容を学ぶとともに、中学生として何ができるかを考えていく。初日午後は、けがの応急処置や中学生ができる医療サポートについて学び、夜は被災地でボランティア活動を行っている人々とトークセッションが行われ、非常食を食べたり、浦安市総合体育館に寝床を作るなど、避難所体験研修も実施された。

グループで課題をクリアしながらゴールを目指す

2日目の午前中は、4~5人の小グループによる市内踏査が行われた。今回は研修として、被災直後を想定して市内を歩き、街の状況を把握するとともに、困難な状況に直面している人を支援するといった設定のもとで訓練を行った。行き先や解決すべき課題は、すべて携行するiPadにプッシュで通知される。アプリはこのために作成された「すごい災害訓練」を利用(App Storeでは提供されていない)。生徒たちには、「状況報告の要請」などの課題が送信されてくるので、病院や消防署など、メッセージに書かれた場所へと向かい、指定場所の様子を災害対策本部に報告したり、けがをした人に応急処置を行ったりするなどトレーニングを積み重ねていく。報告はTwitterを通じて行われ、ハッシュタグ「#すごい災害対応訓練」「#DECO_URY」をつけたツイートが次々と投稿されていく。課題をクリアしたチームは指定場所に貼られた「DECoシール」を探して剥がし、回収のち、次の課題を待つ。こうしていくつかの課題をクリアしながらゴールを目指す。

脱水症状の乳児を連れた母親に付き添って救護所へ向かうという設定で課題が出ていた

救急車に関するレクチャーを受ける子どもたち

iPadを使ってTwitterで報告

「DECoシール」を探して回収するというミッションも

筆者は、脱水症状の乳児を連れた母親に付き添って、今川消防署に設置された救護所へ向かうという設定の指示が出ているグループと合流。生徒たちは皆、iPadを手にし、写真や映像で記録をとったり、報告用にテキストを打ったりといった作業を手早く行っていた。移動の間も、彼らは市内の現在の様子を観察し、そこから推察される問題を挙げて、iPadで送信していく。ここでは思考をサポートするツールとしてiPadを上手く利用していたように感じられた。乳児を搬送すると、今川消防署署員の方からのレクチャーが。生徒たちは講話を聞き、出動前の救急車の中の様子をレポートすると、続く課題に取り組み、指定の場所へと移動していった。

iPadのGPS機能とWebアプリを連携させ行動をモニターする

その間、DECo本部では、iPadのGPSを利用し、各グループの様子をモニターしていた。トラブルが起こると、Twitter経由で報告があり、現在地をWebアプリで確認し、適切な指示を出す。DECoには、さまざまな分野のスペシャリストが集まっており、それぞれの得意分野を活かし、補い合っての運営がなされている。参加団体は以下の通り。

iPadでムービーを作成し、研修成果を発表する

午後は研修の振り返りを行い、グループごとにiPadを使った研修成果の発表を計画していった。ここまで生徒たちはレクチャー、実施訓練など多くのことを学び取ってきたはずだが、このプログラムは、学習したことをアウトプットするのが特徴となっている。学び、取得した情報の整理をグループで行い、意見を交換し、知識として共有する。知識を共有するために、ここではiPadを使い、前述した写真や映像の記録、報告用のテキストを利用し、一本のムービーに纏め上げるという方法が採られた。

学び、取得した情報の整理をグループで行う

iPadに保存してある素材をAirDropで共有する

生徒たちは各々のiPadに保存してある素材をAirDropで共有し、iMovieを使って編集に入っていく。アーカイヴすべき事柄は何なのか、議論しながら作業が進められる。与えられた時間は数十分と、非常に短かかったにも関わらず、生徒たちはスイスイとパーツをつなぎ合わせ、ムービーを作成していった。既にあるものを利用するだけでなく、追加でちょっとした演出を施した動画を撮影するグループ、音楽を加えるグループなど、創意工夫を凝らしているのも印象的であった。

ムービーを作る前に、足りない素材を追加して創意工夫するグループも

編集作業に使われたのはiMovie

上映後のスタッフによる投票。優秀グループにはDECoのポロシャツが贈られた

最後に作成したムービーを上映。こうして学んだことをアウトプットし、共有することで、コミュニティ全体が知識を蓄積し、また個人個人があらためて咀嚼することで、それらを血肉としていく。

浦安市長の松崎秀樹氏による閉会の辞

閉会式では、浦安市長の松崎秀樹氏が登壇。「すごい災害訓練」が文字通り、もの凄い訓練で終わることができたと述べた後、各校からの代表、27人の生徒を讃えた。実は、この「ふるさとうらやす立志塾」、東日本大震災の影響を受けて中止となった平成23年度の新規事業の中で、唯一、スタートに漕ぎ着けたというものである。施策の成果として、松崎市長は、昨年度参加8校24名のうち、7名が生徒会長、5名が生徒会役員、残りの12名も学級委員長や専門委員を務め、活躍していることを挙げていたが、将来のリーダーとしても大いに彼らに期待を寄せているとのことだった。その期待は「卒塾生の中から、浦安市長が出てくると信じているし、確信している」という言葉にも表れていた。

報道陣を招いての囲み取材で、松崎市長は、新年度の予算説明会と市政方針の説明会に、中学生、高校生が足を運んできていると話してくれた。この中高生とは、「ふるさとうらやす立志塾」の在塾/卒塾生だ。彼らが市政を身近に感じていることについて、市長は「凄く楽しみにしている」とコメントした。また、今回iPadを導入したことについては「(子どもたちが)ハードな研修を受けて疲れているだろうなと思っても、休み時間の間、iPadを手にして離さず、延々と学習続けてるのを見て吃驚した。一つの教材として大きな存在だと思うし、口頭と板書でやってたことが、10分で終わってしまう可能性もある」と驚きの言葉を隠さなかった。その一方で「導入には、予算の問題があるから」と苦笑いを浮かべて答えていたが、「(佐賀県の)武雄市さんは、予算の都合でAndroidタブレットを使っているらしいが、同時に苦労しているという話も伺っている」とも述べ、「(iPadを使うことで)もっともっとハイレベルな授業ができるのではないだろうか」などと、教材としての導入に前向きな発言を残している。

この後、27人は、8月中旬に宮城県の南三陸町と石巻市での現地研修へと向かう。今回の災害訓練で得た知見を活かし、今後ともさまざまな局面でリーダーシップを発揮し、学びを深めてきてほしいという浦安市民の期待に、是非とも応えて頂きたい。