この3月、基地の町として知られる東京都福生市でギネス記録が誕生した。ホットドッグを並べて並べて……58.11mの「世界最長ライン」を達成! 並べられたのは、太さ23mm、長さ16cmの巨大ソーセージを使った「福生ドッグ」。いまや東京を代表するご当地グルメの雄である。

延々58.11m、ホットドッグ世界最長ラインを達成した福生ドッグ

なぜソーセージは太さ23mm、長さ16cmなの?

あなたは「福生」という地名を正しく読めるだろうか? 答えは「ふっさ」。米軍横田基地のある町として知られるが、福生市商工会の山崎秀樹さんは「若い方には、"ふっさ"と読めない人が多い。福生市ってどこにあるんですかとか、福生は東京なんですか、とか言われる方もいるほどです」と嘆く。

そんな福生市の知名度アップに絶大な貢献をしているのが「福生ドッグ」だ。福生市では、平成21年度に行った商業調査の結果を受け、観光型の都市開発を進める手段として映画やドラマの撮影支援を行うロケーションサービスを設立して、アメリカンな街並みや多摩川を中心とした自然景観を生かしたロケ誘致で町を売り出すことにした。

「その中で、市内を訪れてくれた人々になにか特色のあるご当地グルメを提供しようということになり、福生ドッグが開発されました」(山崎さん)。

横田基地のある福生市のアメリカンな町並み(国道16号線沿い)

というのが「福生ドッグ」誕生のあらましだ。では、なぜホットドッグだったのか? 福生市には前記したように米軍横田基地があり、町の特徴は「アメリカン」。アメリカではメジャーリーグの球場名物がそうであるように、ホットドッグは国民的な食べ物。

もうひとつのアメリカの国民食(?)であるハンバーガーは、福生と同じく米軍基地のある神奈川県横須賀市が「横須賀バーガー」というご当地グルメとして売り出している。ならば対抗して、福生は「ホットドッグでいこう」となったのだそうだ。加えて、福生市内には「大多摩ハム」、福生ハムという2つのハム・ソーセージ会社がある。地元産のソーセージを使って、正真正銘のご当地ホットドッグ「福生ドッグ」を作ることのできる地の利もあったのである。

決定された「福生ドッグ」の開発には、遊び心も加わった。ソーセージの太さは「ふっさ」の語呂合わせで23mm、長さは市内を走る国道16号線から16cmと定められた。この特別仕様のソーセージを市内のハムメーカーに作ってもらい、同時に市内のパン屋さんの他、各飲食店が思い思いにオリジナルのホットドッグの開発に励む。こうして「福生ドッグ」は誕生したのである。

大多摩ハム直営店「シュトゥーベン・オータマ」の「ドッグ」460円

手作りの本物のソーセージがおいしさのヒミツ

「福生ドッグ」用ソーセージを製造している大多摩ハムの小林和人社長は、「福生ドッグ」仕様の23mm×16cmソーセージ作りの苦労を次のように語っている。

「太くて厚い豚腸で太さ23mmのフランクフルトを作るのは簡単です。でも、私どもではあえて薄くて細い羊腸で23mmソーセージを作ることにしました。羊腸ならお年寄りや子供でも容易に食べられますから。もちろん手作り、1個1個手でひねって作ります。

羊腸に詰める豚肉も銘柄豚のTOKYO-Xを使用して、たん白やでんぷんといった混ぜ物は一切使っていません。スモークも、国産山桜のおがを燃やす直火式。一般のホットドッグでは味わえない、本物のソーセージの味が楽しめると思いますよ」。

TOKYO-Xとは、東京都畜産試験場がバークシャー種、デュロック種、北京黒豚を三元交配して産み出したブランド豚肉で、高級ハムなどにしか使用されていない。そんなリッチな豚肉を大多摩ハムでは「福生ドッグ」用ソーセージに惜しげもなく使っているのである。一方、福生ハム製造のソーセージは、国産豚肉に地元産の清酒を混ぜて、深い味わいを出している。

ベーコンも丸ごとや自家製トマトソースのドッグも

こうした実力派ソーセージをベースに、ホットドッグを販売する各店は、パンやソース、添え野菜などに独自の工夫を凝らし、それぞれが自慢の「福生ドッグ」を販売している。

例えば、大多摩ハム直営店である「シュトゥーベン・オータマ」のドッグは、ソーセージに加えてTOKYO-Xのベーコンが丸ごと1枚入った、肉のジューシーさを堪能できる逸品。また、「パン工房プリマベーラ」の人気ドッグは、柔らかさにこだわったパンと自家製トマトソースが売りだ。

「福生らしさを表現しようと、福生名物の七夕の吹き流しをイメージして夏野菜で彩りを鮮やかにしています。市外から求めにくるお客さんも多く、1本食べてもう1本と追加注文する方もたくさんいらっしゃいます」(「パン工房プリマベーラ」の店主・笹本保さん)。

吹き流しをイメージした「パン工房プリマベーラ」の「ドッグ」330円

このほか、「小料理ひとよ」の「和風ネギ味噌ドッグ」、「ジェシー・ジェイムス福生店」の「チリ・コンカーンソースのドッグ」などなど、福生市内では15のお店がそれぞれの「福生ドッグ」の味を競い、多くのファンをつかんでいる。

「小料理ひとよ」の「和風ネギ味噌ドッグ」500円

「ジェシー・ジェイムス」の「チリ・コンカーンソースのドッグ」500円

「福生ってなんて読むの?」と言っていたあなた、「福生ってどこよ?」と思っていたあなた、一度、福生を訪ねて「福生ドッグ」を味わってみたらいかがだろうか。

※記事中の情報・価格は2014年4月取材時のもの。価格は税別