急ごしらえのコミケ・デジタルサイネージシステムを運用してみた結果だが、通路を歩く来場者へのアテンション効果は抜群だった。32型の大画面ディスプレイがサークル参加者のブースに置かれているインパクトは大きく、また高解像度の美しい画像はそれだけでも一定の注目を集めていたが、その前を通行する人は歩くスピードを落とすか、一歩離れた場所から見る程度にとどまることも多かった。

コミケ会場に設置した様子。ノートPCはディスプレイを消灯したので内蔵バッテリーで持ちこたえることができた

しかし、誰かが画面に触れて画像の選択や拡大などの操作を行っていると、「自分にも触らせてほしい」という顔をして寄ってくる人や、こちらから話しかける前にディスプレイや作品の説明を求める人が次々とやってくる。ちょっとしたことでもユーザーが主体的に関与できる余地を作ることによって、コンテンツを一方的に流すだけに比べ高い関心を得られるという部分で、当初の期待通りの効果を得ることができた。

高精細な写真の展示はそれだけでかなり高いアテンション効果を得られるが、もう一歩こちらに近づいてほしい

一方、表示するコンテンツについてはまだまだ工夫の余地がある。今回は出力側がノートPCで、CPU内蔵のグラフィックス機能を使用しているということもあり、高解像度といってもせいぜい幅5,000ピクセル程度までの画像しか用意できなかった。幅10,000ピクセルの画像も表示してみたのだが、PC側のパワー不足のため指先の拡大/縮小操作に表示がまったく追いついてこない。

巨大な画像データを用意すれば、タッチ操作で見たい部分を次々拡大して「ビルの窓1枚までこんなに鮮明に!」といった驚きを提供できると思ったのだが、残念ながら幅5,000ピクセルのデータでは少し拡大するとその先はボヤけが増すのみで、4K2Kディスプレイの真価を発揮できない。さすがに高性能グラフィックスカードを搭載したデスクトップPCまで持ち込むわけにはいかないので、これについてはPCの性能向上をもう少し待つ必要がある。

また、これは案内が悪かったのだが、近くまで来てもタッチ操作に対応したディスプレイと気づかない人も多かったので、より「触ってみたくなる」コンテンツ作りも必要だ。もっとも、筆者のサークルの"本業"は同人誌の頒布なのでディスプレイ用のコンテンツ制作まで十分な力が回らないという事情はあるのだが、これが例えばタッチ操作のゲームなどを出展するサークルであれば、大画面タッチディスプレイでのデモはより直接的な形で売り上げや評判のアップに貢献するかもしれない。

そのほか、最近は携帯電話各社がコミケ会場のネットワーク強化に本格的に力を入れていることから、今回は従来に比べ3G/LTE回線でもかなり快適にインターネットを利用することができた。ネットワークをからめるとアイデア次第ではより面白いアプリケーションを提示することができるだろう。

写真に「触れる」ことを伝えると、多くの人が見たい場所を拡大して画面に食いついた。話しかけるチャンスも増えるので、関連する頒布物のセールストークもしやすくなる

少し油断すると、同人誌を買う人とディスプレイを見る人がスペース前で入り交じってしまう。これ以上多くの人が横から出店内容を見ようとすると、となりのスペースをふさぐ形になってしまうので、はみ出さないように誘導しよう

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