かくして「コミケでデジタルサイネージ計画」が進行したのだが、大きな問題が1つあった。コミケ会場で最も難題となるのは、電源の確保だ。当然のことながら商用電源を利用できるわけではないので、バッテリを用意することになるが、一にも二にも安全性の確保が重要となる。

仕様表でのPN-K322Bの定格消費電力は97Wだが、編集部に届いた実機の消費電力をワットチェッカーで測定したところ、明るさが最大の場合約76W、明るさをゲージの半分まで落とした場合約56Wとなり、明るさの設定次第で何とかバッテリ式のポータブル電源でも運用できそう、という手応えを得た。画素あたりの開口率が高いIGZO液晶を使用したディスプレイでこの消費電力なので、従来のアモルファスシリコンを使用した4K2K液晶の場合、バッテリ運用はおそらく無理だろう。

デフォルトでは明るさが最大になっており、表示内容にもよるがこの状態での消費電力は実測76W程度

輝度を約半分に落とすと56W程度となった。コミケ会場では明るさを半分以下にしても十分な視認性が得られた

身近に存在する大容量のバッテリとしてまず思い浮かぶのは、鉛蓄電池を使用した自動車用バッテリだが、これはコミケで明確に使用が禁じられている。自動車用のバッテリは中に多量の硫酸が入っており、運搬中などに破損して液が流出した場合非常に危険だ。また、露出した電極部分に誤ってカッターナイフなどの金属製品を落とした場合、過熱や火花の発生などにより思わぬ事故に発展する可能性もある。

さらに、自動車用バッテリの出力は直流12Vなので、ディスプレイで利用する交流100Vを得るにはインバーター等の電源装置を接続する必要があるが、すべてのバッテリとインバーターの組み合わせが保証されているわけではないので、客観的に安全性を証明するのも難しい。このような理由から、自動車用バッテリは絶対に使用してはいけない。

ポータブル電源の一部にはシール式鉛蓄電池を使用しているものがあるが、正立状態で運搬・使用する必要がある(横倒しや傾けた状態は不可)など、スペースが狭く、搬入・搬出も限られた人数でバタバタと行わなければいけないコミケ会場で、確たる安全性を確保できるとは言い切れない。装置も比較的大型になるので、自動車用でなくとも鉛蓄電池の使用は控えたほうが良いと考えた。

最近では、リチウムイオン電池を利用したポータブル電源も出始めている。ご存じの通り、リチウムイオン電池は大容量でありながら体積・重量が小さく、携帯電話やノートPCの電源として広く利用されている。しかしそのメリットの一方で、揮発性・可燃性の物質を含むことから、破損・過熱時に発火や爆発といった重大な事故につながる恐れがある。民生用の製品を正しい方法で使用する限り一般には安全なものだが、万一のことを考えると、やはりコミケ会場のような場所に大容量のリチウムイオン電池を持ち込むべきではないと判断した。

以上のように考えると、現実的に使用可能なのはニッケル水素電池に限られる。ニッケル水素電池はハイブリッド自動車や電動アシスト自転車など高い安全性が求められる用途でもリチウムイオン電池より古くから使用されており、過充電・過放電にさえ気をつければ漏液の心配もまずない。また、リチウムイオン電池ほどではないが、同容量であれば一般に鉛蓄電池より小型軽量だ。

このような条件を勘案しつつ、コミケ会場で使用しうる民生用のポータブル電源を探したところ、ケンコープロフェショナルイメージングから発売されている「GODOX LP-750」という製品に行き着いた。本来の用途は屋外でフラッシュ撮影をするためのカメラアクセサリーだが、交流100Vのコンセントを搭載しているので一般的な電気機器の電源として利用できる。

ニッケル水素電池を使用した「GODOX LP-750」。約100Whの電池パック1個込みで約6.5kgと、ポータブル電源としてはかなり小型軽量だ。とはいえこのためだけに購入するのも予算的に厳しいので、今回は撮影用品店のレンタルサービスを利用した

本体には約100Whの容量を持つニッケル水素電池を内蔵しており、電池パックは交換可能なので、3~4本のパックを用意すれば6時間のコミケ開催時間を乗り切ることができそうだ。もちろん電気用品安全法に基づくPSEマークを取得しており、電池パックとセットになっている専用の本体を介して充放電を行うので、過充電・過放電の心配も限りなく小さい。

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