――では10年後の日本についてはいかがでしょうか。

津田:「日本の未来……どうなんでしょうね。ぼくは楽観主義者なので、今の日本は暗いことも多いけど、昔に比べればよくなっていると思うんですよ。だから日本の良さを見つけつつ、少しでもよくなっていく手伝いができればと思います」

――昔に比べて今の日本がよくなっていると思われるのはなぜでしょう?

津田:「ひとつには自分の性格的なところだと思いますが、日本って恵まれた国だと思うんですよ。ひどい時代ではありますけど、医療のレベルだって上がっていますし、何十年も前に比べて便利にはなってきている。それに、以前よりも機会が均等になってきていると思うんです。今までだったら、何かやりたい仕事があっても狭き門だったのが、今は金やコネがなくてもアイデアややる気、情報技術があればトライできる時代です。そうしたチャレンジしている人ががんばってお金を稼いで、再分配できる世の中になればいいなと思いますね。それを後押ししているのがソーシャルメディアだと思います」

――ソーシャルメディアといえば今はTwitterやFacebookが隆盛ですが、今後ソーシャルメディアはどうなっていくとお考えですか?

津田:「TwitterやFacebookに関しては社会的なインフラになるかならないかの瀬戸際ですね。ぼくはいずれFacebookって送金のプラットフォームになるんじゃないかと思っているんですよ」

――送金のプラットフォーム?

津田:「Facebookに誰かが『東北復興のためのプロジェクト始めました』って書いたら"いいね"が押されますよね。でも"いいね"を押されてもうれしいだけで、それでお金が集まるわけじゃない。ぼくは"いいね"の隣に"超いいね"とか"すごくいいね"とかがあって、それを押すと10円払われるとか、そうなるといいなと思っているんですよ」

――それに似たWeb投げ銭というシステムがありましたね。

津田:「Web投げ銭はハードルが高かったですね。Facebookで1クリックで送れるとなると、Facebookのアカウントの持つ意味合いでかなり変わると思うんですよ。銀行口座を持つようなものとしてソーシャルメディアのアカウントを持つことになる。そうやって社会的なインフラになると、廃れることはなくなるのかなと思います。もちろん、TwitterやFacebookがなくなったらなくなったで、似たようなものは出てくると思います。10年後もソーシャルメディアとしての情報流通プラットフォームは存在すると思いますね」

―― 一方で表現としてのプラットフォームは、ブログからSNS、Twitterへと、どんどんショートかつリアルタイムに変化しています。

津田:「今後は特化型のものがまず残っていくでしょう。たとえば写真ではFlickrがありますが、instagramのようにリアルタイム化して伸びてきました。写真も動画もそうですが、ノンバーバル(言葉によらない)なコミュニケーションをネットは求めていたんだなと思います。LINEのスタンプや顔文字もそうですよね」

――そうした中では、既存のマスメディアやネットメディアも変わっていく必要があるように思います。

津田:「既存のマスメディアについてはなくなることはないでしょう。しかし、特に雑誌については役割は変わっていく気がしています。ぼくは有料メルマガをやっていますが、あれはかなり雑誌的なつくりにしていて、EPUBで配信するようになってから購読者がすごく伸びているんです。定期的にほしい情報が入ってくる電子雑誌という方向性には可能性があるんじゃないでしょうか。マスメディアも今までのようなサイズを維持できるほど利益は上げられなくなるでしょう。ネットメディアについては、ネットにしかできない価値をどう提供していくのかを考えなければなりません。マスメディアと真向から勝負しても取材力や予算では見劣りしてしまいます。また、2chまとめサイトなどがやっていることは、自分たちに都合のいい情報だけをピックアップして特定の流れを作るという、マスメディアを批判しているのと同じ構造になってしまっていて、それがいつまでたってもネットが軽く見られがちな理由にもなっています。ネットならではのプライドをもった情報発信が必要ですし、そのためには優れた記者がネットメディアにきてお金を生み出すなどの人材の流動化が必要でしょう」

――津田さんが今注目している方を教えていただけますか。

津田:「今年読んだ本の中で抜群に面白かったのが『ソーシャルファイナンス革命』で、それを書いた慎泰俊さんでしょうか。彼は投資会社に勤めながらNPOをやっていて、会計や投資の知識をNPOに持ち込んでいます。1年~5年後くらいには日本のリーダー候補の一人になるんじゃないかと思います。あとはコロンビア大学に留学中の鈴木悠平くんですね。彼は東大を卒業してコロンビア大学へ留学する半年間のギャップタームで、震災後の石巻の牡鹿半島でボランティアに行ったんですね。ただ、実際に行ってみたら「半年間じゃ何もできない」と思って、コロンビア大学に1年間延期をお願いして、1年の活動を経たあと、留学しました。彼は間違いなくアメリカから戻ってきたら日本のキーパーソンの一人になるだろうし、若い人ですごい人がどんどんでてきていると思います。僕もそういう若くて優れた人たちのサポーターになっていきたいですね」

――最後にヒストリーチャンネルの魅力について教えてください。

津田:「地上波では絶対にできない番組をやっていますよね。たまに見ているとそのまま最後まで見ちゃうことも多いです。この番組から見始めた人も、そのままチャンネルを変えずに見ていただけるといいですね。いずれヒストリーチャンネルもオンデマンドで当たり前に見ることができるようになると、世の中は変わってくると思いますね」