ワコムは、有明スポーツセンターにて、プロカメラマン魚住誠一氏と吉田繁氏、諏訪光二氏の3名によるフォトレタッチセミナーを開催。フォトレタッチの重要性と、ワコムのペンタブレット「Intuos4」の使い方などが紹介された。

ポートレート写真で学ぶ愛情レタッチ

魚住氏は毎月数え切れないほどの芸能人を撮影している人気カメラマン。作品紹介ではグラビアアイドルだけでなく、ミュージシャンやお笑いタレントの写真も紹介された

アイドルのグラビア写真やミュージシャンのジャケット撮影など、ポートレート写真を中心に活躍中の人気カメラマン・魚住誠一氏。セミナーの冒頭で魚住氏は、これまでに撮影した作品を紹介した。紹介された写真は、スタジオ撮影のものだけでなく、屋外で撮られた作品も多く、魚住氏オススメの撮影地は、お台場近辺と代々木公園とのこと。特に代々木公園は「ポートレート撮影に向いているスポットが多い」と語った。ただし、商用で撮影する場合は公園使用許可が必要で、魚住氏によると、代々木公園で許可を取るとフラッグを渡され、それを持って園内を移動することになるという。「許可は簡単に下りるので、仕事で撮影する人は使ってみてください」と紹介した。

撮影が終わったら、PCに取り込んで現像とレタッチを行う。魚住氏は普段キヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D Mark III」を使っており、当然RAWで撮影している。会場のスクリーンには「Photoshop」の画面が映し出され、現像からレタッチまでの流れが実演された。

まず、魚住氏はRAWを開いたら生データに戻す作業から始める。RAWファイルを開くと「黒レベル」や「シャープ」、「トーンカーブ」が設定されている。そこで「黒レベル」と「シャープ」は「0」にし、「トーンカーブ」は「リニア」にする。すると写真は撮影された生データの状態になる。ここからレタッチを開始する。魚住氏は「最初に生データの状態にしてから色や明るさを決めていくほうが作業は早い。自分好みの写真を作れる」と語る。ただし、「レンズ補正」の「ゆがみ」だけは適用しておくという。そして、「シャープ」は雑誌や書籍の版形に応じて、最後に検討していく。これは、出力形態が決まっていないと、どの程度シャープをかけていいのかがわからないためだ。

また、現像時の作業を行う際に気をつけるポイントは「肌の質感」。女性の顔の場合、鼻筋のハイライトは多少白飛びしても良いが、それ以外は「白飛び軽減」の数値を調整して露出を整える。次に「自然な彩度」で、肌を中心に色をのせていき、最後に「色温度」で自分のイメージに合った写真になるように設定する。ここまでできたらPhotoshop上でのレタッチ作業に移る。

白飛びをしている箇所は赤く、黒ツブレしている部分は青く表示されている。これを「黒レベル」と「白飛び軽減」を使って減らす(左)、トーンカーブを「リニア」にするとカーブが直線になり、写真が撮影した生の状態に戻る(右)

「自然な彩度」を使い、肌の色を中心に彩度を上げていく。通常の「彩度」を使うと、すべての色が均一に濃くなってしまうからだ(左)。もしも撮影時に露出を間違えてしまった場合は、トーンカーブで明るさを調整する(右)

Photoshopで行う作業は、顔にかかってしまった髪の毛の除去と、目や腕などのレタッチ。髪の毛の除去は「パッチツール」を使い、少しずつ取り除いていた。魚住氏はサッと高速でペンを動かしながら、「僕はこの作業は自分で達人と思っているくらい速いです。それはタブレットに慣れているから。でも、みなさんも買って一週間くらいしたら、このくらいのスピードで作業できると思います」と、フォトレタッチとペンタブレットの相性の良さをアピールした。

次は目のレタッチ作業に移った。この作業は白目のハイライトを強調し、うるうるとした目を表現するのが目的だ。使用したツールは「覆い焼きツール」。設定は露光量=3~6%で、ブラシの硬さは0%だった。その後、ぼかしツールを強さ=100%に設定し、覆い焼きした部分を上からなぞって周囲と馴染ませる。魚住氏は「たったこれだけで表情が変わります。僕は1枚のレタッチにかける時間は、5~10分と決めています。時間をかけたからって、リアルになるとは限りません。それだったら、女性が最も気になる部分だけを、愛情をかけて直してあげたいと思います」と語った。

「パッチツール」で顔にかかった髪の毛を取り除く。この際に写真の拡大率は100%や200%など、割り切れる数値にすること。中途半端な拡大率だと、ピクセルが正しく表示されないので注意(左)、白目を明るくするときは、「覆い焼きツール」を使用してなぞっていく(中央)、完成した写真。白目と黒目がくっきりして、女性がかわいらしくなった(右)

そして最後に「これは女性に対するサービスです! 」と紹介したのは、腕や太ももを細くするレタッチ。Photoshopの「フィルター→ゆがみ」を使用していた。ただし、これは本人やマネージャーにもわからない程度にとどめておくのがプロの技という。魚住氏は「ほとんど気づかれないけど、すっきりかわいく見えるようにする」と語っていた。

フィルターの「ゆがみ」を使って女性の二の腕を細くしているところ。このとき、レンガの壁のように格子状の背景がある部分は避ける。格子がゆがむと見た目が不自然になってしまうからだ