「Facebook(フェイスブック)」って知ってる?

日本でそんな風に質問したら「知ってる」と答える人ってどれだけいるんだろう。

『ソーシャル・ネットワーク』

たぶんほとんどの人は「知らない」か、知っていても「使っていない」じゃないかなと思う。日本ではやっぱりmixiやGREE、モバゲータウンの方が圧倒的にメジャーだもんね。昨年、一瞬だけプチブームが起こったけど、それもギークを中心にした局地的な話だったので、世間一般には今でもまったく聞き覚えのない言葉なんだろう。

でも世界的に見るとフェイスブックはダントツで人気ナンバーワンのSNSであり、それはもう冒頭の質問をアメリカあたりでしようものなら鼻で笑われるんじゃないかっていうレベルらしいのだ。日本でいうと、「Yahoo!って知ってる?」くらいの話だろうか。いや、ひょっとしたらそんなレベルですらないかもしれない。「パソコン持ってる?」くらいかな。

とにかくまぁ、そんな感じで世界中の人が使っているフェイスブックの誕生秘話を描いた映画が、本作「ソーシャル・ネットワーク」なわけだけど、これがフェイスブックにまったく興味のない人でも楽しめる良作だったのでぜひここでご紹介したいと思う。

ハーバード大学に通う19歳の学生マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、親友のエドゥアルド・サベリン(アンドリュー・ガーフィールド)と共に、学内の出来事を自由に語り合えるサイトを立ち上げ、巨大サイトへと成長させるが……

こう書くと「なんだ、ドキュメンタリーか」と思うかもしれないけど、というか僕もそう思いながら退屈するのを覚悟で見に行ったわけだけども、実際にはそんなことはぜんぜんなくて、実話を元にしたドラマ映画、しかもとても面白く興味深いストーリーだった。

多少のフィクションが混じっているのだとしても、基本的にはこれがノンフィクションだというのだから、アメリカのサクセスストーリーってやつは本当にドラマチックだ。

たしかに「性格は最低」

フェイスブックの始まりは、2003年秋。ハーバード大学の2年生だったマークが、恋人のエリカ(ルーニー・マーラ)と口論になった結果、「あんたの性格は最低」という言葉を叩きつけられ、振られてしまったことがきっかけだった。

……これだけだと「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな話だと思うかもしれないけど、意外とそうでもない。振られたマークが何をしたのかというと、腹いせにハーバード大学のコンピュータをハッキングして女子学生の写真を収集し、彼女たちの顔の格付けを行うサイトを立ち上げたのだ。

このサイト「フェイスマッシュ」こそが、現在のフェイスブックの元になるものなのだが、まさか5億人を超えるユーザーを抱えるまでになったSNSのスタートが、"女子学生のルックスの格付け"という人としてどうかと思うレベルの発想から生まれたものだったとは、まるで冗談のような本当の話だ。「フェイス(顔)ブック(本)」とはよく言ったものである。なるほど、エリカは正しかった。たしかに「性格は最低」だ。

監督は『セブン』(1996年)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2009年)などのデビッド・フィンチャー

その後、フェイスブックがどのようにして拡大し、他のSNSの追随を許さない存在にまでなっていくのかという部分を、本作ではドラマ仕立てで追いかけていく。退屈なサクセスストーリーではなく、むしろフェイスブック運営側の闇の部分に目を向けた内容は、よく関係者がOKを出したものだなと思うほどだ(実際にはOKを出したわけではないのかもしれないけど)。

だからなのか、本作ではフェイスブック自体の技術的な話にはほとんど触れられることがない(ドラマを面白くする上で必要な部分しか出していない)。それよりも、フェイスブックがどういう構想の元に生まれ、訴訟や裏切りといった人間関係における様々なトラブルを経て現在に至ったのかという、ある種の人間ドラマとして描いているのだ。また、現在(訴訟の現場)と過去を交互に見せるやり方も絶妙で、いったいその間に何があったのか? と、観ている側はどんどん引き込まれていく。

日本でも「仁義なき戦い~GREE VS モバゲータウン~」を!

この"成功の陰にあるもの"みたいなやつは、これまでにもさんざん映画で述べられてきたテーマではあるのだけど、今回は何よりもそれを実在のSNSとその創設者を持ち出して語ったところが新しい。

特にハリウッドでは「インターネット」を何らかの形で扱った映画はあっても、ここまでがっつりと実在のウェブサイトが主役に据えたことはなかったように思うし、もともと曰く付きのエピソード満載だったとはいえ、SNSの誕生秘話というパッと見退屈そうなモチーフをこれだけハラハラドキドキできるストーリーに仕上げたフィンチャー監督はさすがである。殴り合ったり銃で撃ち合ったりするばかりがエンターテインメントじゃないんだ!

できればこれを機に、もっとネットベンチャーに光が当たって欲しいなと思うのだけど、むしろ日本でも「仁義なき戦い~GREE VS モバゲータウン~」とかやってくれれば絶対に見に行くんだけど、そういうのやらないかな。……無理か。

映画『ソーシャル・ネットワーク』は1月15日より丸の内ピカデリーほかで全国公開。