図解の多彩な表現力
――久恒さんはなぜ図解を提唱するのでしょうか?
私たちの社会では自分の考えを文章で表現することが一般的であり、また最上の手段であると考えられています。それはビジネスの世界でも同様で、「仕事ができる人」とは「文章が書ける人」。こうした社会通念は動かしがたいように思われます。
ところがよく考えると文章にも欠点があります。それは「ひと目で理解できない」ということ。読み手は各段落や文と文の関係などを考えながら読み進めなければなりません。
論理展開がしっかりしている文章が意外と少ないことも問題です。
ビジネスシーンではシンプルでわかりやすく説明するべきなのに、だらだらと長文を書いたり、句読点や「てにをは」の使い方にこだわったりする人も多く見受けられます。そこで物事の関係性を瞬時に理解できる図解が役に立つのです。
――「文章はひと目で理解できない」ということですが、箇条書きの場合はどうでしょうか?
確かに箇条書きにすれば主旨が明確になるでしょう。しかし物事には重要度の高低や問題の大小、重なりや循環といった関係性があり、これらを無視して問題を解決することはできません。箇条書きはこうした要素を表現することが不可能です。
その点、図解は丸の大小や矢印の太さなどで物事の関係性を可視化でき、全体の構造も把握しやすい。図解をビジネスの現場に取り入れれば、従来とは違った解決の糸口や斬新な発想が生まれるはずです。
図解は誰でもできる
――基本的な図の書き方を教えていただけますか?
図解には「丸」「矢印」「キーワード」に大別される「部品」が必要です。基本的にはこれらを自由に組み合わせていけばいいのですが、「丸」の配置には代表的なパターンがあります。
次に「矢印」のパターンを紹介します。矢印は方向だけでなく、物事の関係や時間の流れを表すためにも使います。
図解は「キーワード」が重要です。文章は言葉を費やしたり言い換えたりする技術がありますが、図解の言葉は少数精鋭。自分が解決したい問題をひとことで表す言葉を書き出していきます。
――よいキーワードを選ぶコツはありますか?
これは一朝一夕にできることではありません。普段から言葉に対する感度を高め、「これは○○だ」とひとことで言い表す能力を身につけることが大切です。
そのためには情報に対して受身にならないこと。私はよく「表現のない理解は浅い」と言いますが、裏を返せば「何かを表現する場や機会を設ければ、情報に対する理解が深くなる」ということです。
私は毎日ブログを書き続けていますが、こうした表現の場を持つと観察眼が養われます。データや数字に気をつけるようになったり、感想をひんぱんにメモしたりするようにもなるでしょう。こうした習慣が切れ味鋭いキーワードをつくり出す力になるのです。
図解は「変形」する
――図解初心者が気をつけるべきポイントはありますか?
たまに箇条書きを丸で囲んだだけで「図解した」と言う人がいるのですが、もっと自由に発想してほしいと思います。例えばその丸を横に並べ変えたり、大きさはこれでいいのかと考えたりする。図解は可塑性(変形する性質)がメリットなのですから、自分の思考も柔軟にしましょう。
一方、どんどん図解が複雑になって「どこまで書いたらいいのかわからない」と悩む人もいます。扱うテーマや問題をきちんと整理できていないと、図解が「おしゃべり」になるばかりです。できるだけ不必要な丸や囲みをそぎ落とし、本質だけを残すことを心がけましょう。図解初心者は丸の数を三つ程度にとどめることをおすすめします。
――効果的な図解トレーニング方法はありますか?
「1日1図」を目標に、日常生活のあらゆる場面で図解することが一番だと思います。例えば新聞の社説を図解化したり、会社の部署を図解したりしても面白いかもしれません。人に何かを説明するときも図が活躍します。
いろいろな図を見ることも訓練になります。新聞・雑誌はもちろん、ウェブサイトにも図があふれています。「これはわかりやすい」と感じたものをストックしておけば、自分が図を書く時のヒントになるはずです。
また、自分が書いた図もできるだけ保存しておきましょう。これらは貴重な知的生産の記録になります。
――図解と一緒に自分も成長できるのですね
最初から完璧を目指さないことです。図解は「?」と「!」の連続。図を書く過程で物事の本質が浮かび上がってくるから面白いのです。そして図の質は日々の積み重ねと書いた量に比例します。つまり図解に特別な才能は必要なく、繰り返し練習すれば着実に身につくということです。
次回は「営業成績を上げるための図解メモ」についてうかがいます。
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INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
元中国新聞記者。2008年に始めたネットラジオ番組「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。 現在は、企業や教育機関、公共機関などに音声(ポッドキャスト)を活用したサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、茂木健一郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える