2010年1月9日より日本での公開を予定している、マイケル・ムーア監督の最新作『キャピタリズム マネーは踊る』。

『キャピタリズム マネーは踊る』のマイケル・ムーア監督

同作品は、リーマンショックやサブプライムローンに焦点を当て、現在の金融危機や世界同時不況を引き起こした原因を追究するべく、監督がウォール街に突撃取材を敢行するというもの。金融危機の原因を作った投資銀行や保険企業が公的資金によって救われ、役員達が1億円以上のボーナスを手にしている一方で、住宅ローンの延滞により自宅を差し押さえられ、立ち退きを迫られる人々が増加している現在の米国の姿を浮き彫りにした作品となっている。

公開を目前に控えPRのために来日中の監督が、12月1日、4社合同取材という形でインタビューに応じてくれた。インタビュー当日、監督は「皆さんは日本語はお上手ですか? 僕は英語が上手くないんだ」と、ジョークを言いながら登場。来日中の度重なる取材による疲労の色も見えたが、取材陣からの質問に対し、時には笑いも交えながら、終始熱心な口調で語ってくれた。早速、インタビューの内容を紹介する。

マイケル・ムーア監督、20年間の映画監督人生を振り返る

--映画監督になられてからの20年間を振り返って、今の状況をどのように感じますか?

監督「自分はタイミングが悪いな、と思います。僕は、今年破綻したゼネラルモーターズについて、20年前に『こうなるよ』と警告を発したわけです。もしもそのとき僕の警告に耳を傾けてさえくれれば、こんな状況に陥らなかったかもしれない。それから、僕はオスカーの授賞式のとき『今日で丁度イラクの戦争が始まって5日目です。どんなに探したって、イラクの大量破壊兵器は見つかりません』と発言したところ、ブーイングをくらい、ステージを去らざるを得ませんでした。2年前には、保険制度についての問題定義をする映画を発表しましたが、その映画は今発表するべきものだったかもしれない。時期が早すぎて皆さんに警告を聞き入れてもらえず、その結果、悪いことが実際に起ってしまった。そういう時、もっと違う言い方や、違うことをやっていれば、今のこの状況を変えられたかもしれない、と自虐的に考えてしまうんです。
ただ、一方で、ドキュメンタリーとしての新しいジャンルを構築したという自負もあります。たとえば『ロジャー&ミー』以前には、シネコンでドキュメンタリーが上映されることはなかったわけです。また、僕の映画が切欠となって、新しいタイプのドキュメンタリー作家が台頭してきました。」

『キャピタリズム マネーは踊る』の1シーン

監督「それから、実は今、Eメールをチェックしたら、この1時間ほどの間に1,000通のメールが僕のアドレスに届いていました。これは僕の発言力にどれだけの効力があるかということの、1つの証だと思います。(Eメールの内容は)僕がオバマ大統領のアフガン進出に反対していることに対する意見などですが……しかし、僕は日本で何をしているんでしょう? 米国に呼ばれているような気がします。『マイク、マイク、Come on! 』って(笑)」

--同映画について、日本で特に注目してほしい部分は何処ですか?

監督「過去20年間、米国のメディアというのは米国人に対して、他国の動向に無知でいさせようという傾向があったように思います。他国に対して無知で、『イギリスを地図上で示せ』という問いに対し60%がわからなかったといったリサーチ結果もあるほどです。それから、国民の8割がパスポートを持っておらず、一生国外に出ないというリサーチ結果もあります。それだけ、他国について知らない国なのです。そういった、夜の報道番組では報道されないような、米国の違った姿をこの映画を通して見てほしいと願っています。そして、(日本人の皆さんに)自問自答してみてほしい。『お金と自分の魂のどちらが大切か? 人間としてどう生きればいいのか? ただ単にお金を儲けるために、日本という島国で生きていくのか、それとも他の人が利益を得られるように、身を粉にしてはたらくのかいいのか? あるいは、米国のウォール街に経済を牛耳らせるのか? ……そして、これら全ての問いに「No」と答え、かつて自分の手で物を作ってきた産業国であった日本に立ち返るのか? 』そう、自分に問いかけてみてほしい」

「パフォーマンス」の裏側にある想い

--パフォーマンスとしての面白さが目立ってきたように思いますが、今後はどのようなものづくりをしていかれますか?

監督「パフォーマンス化してきたと仰るのは、よくわかります。しかし、そのパフォーマンスには『一般市民から質問を受けたら、答えてもらいたい』という願いがあるんです。この手法を、僕は止める気はありません。
それから、これからどういうものづくりをやっていくかということですが、いくつか戯曲や脚本も考えていますし、ドキュメンタリーのアイディアもあります。かつてロンドンでやった一人芝居も、今度はニューヨークでやろうかと思っています。
ただ、僕はこの20年間しゃかりきになって働いてきて、大変疲れています。今回の映画を作るのにも大変苦労しましたし、各地を回って取材も沢山受けましたし……明日の夕方最後のインタビューで最後になります。これ以降、長い期間はそういったことは無いと思いますよ。」

ウォール街に突撃取材を敢行したマイケル・ムーア監督

--今回、同映画を製作する原動力となったのは、「怒り」ですか? それとも、米国に「よりよくなってほしい」という「想い」ですか?

監督「『怒り』です。ただ、全力を投じて、『怒り』を可笑しく笑えるものにしています。日本ではわかりませんが、米国でのトップクラスのコメディアンの多くは、常に大きな怒りを抱いた人たちで、彼らはユーモアのセンスに恵まれていて、ユーモアのセンスを1つのチャンネルとして、怒りを発散していました。私も『怒り』をなるべくユーモアを通して描こうとしています。また、同時に、『米国に良くなってほしい』とも思っています。ただ、それは米国国民としては当然のこと。民主主義の社会に住んでいる以上、何らかの形で社会に貢献しなければならないと思っています。そして、僕は映画によって社会に貢献しています。ですから、原動力は『怒り』で、映画を作った理由は『責任感』です」

また、取材陣からは、今回の来日記者会見で監督が「荷物が積み残しにあってしまった」と言っていた荷物について、「どうなりましたか? 」という質問も。「昨日無事に届きました」とのことで、「JALを非難するつもりはないんですよ。いや、僕はJALを非難しましたが、責めなくても彼らは今、大変な状況にありますから……(笑)」と言い、「現在JALが大変なのも、キャピタリズムの影響。資本主義がJALを破綻に導いたと言っても過言ではないのでは」と述べた。