NVIDIAは、パーソナルコンピューティングにおけるグラフィックスカードの重要性に関する説明会を開催した。そのなかで、GPUによる動画のエンコード支援がデモンストレーションされた。

NVIDIAコンテンツ リレーションズ事業本部/アジア太平洋 部長の飯田慶太氏

説明会の本題は、GPUをパワーアップすることによるPCエクスペリエンスの向上をアピールする内容。現在でも利用できるPDFドキュメントのGPUアクセラレーションや、GPU本来の機能であるゲームパフォーマンスの向上などはこれまでにもたびたび紹介されてきた。今回はこれらに加え新たに、GPUによる動画エンコード支援機能が紹介された。

同じ予算で、GPUを一定にCPUをアップグレードした場合と、CPUを一定にGPUをアップグレードした場合での3DMark06スコアを比較。3D性能はGPUの依存が大きいため、当然と言えば当然の結果

ゲームタイトルでも同様の比較を紹介。CPUをアップグレードしても3D性能はあまり向上しない。青いバーはGeForce 9800 GTXとCore 2 Duo E6750の組み合わせ、緑のバーはGeForce 9800 GTXとCore 2 Quad QX9650の組み合わせ

3つ目のバーは、CPUはより安価なCore 2 Duo E6750で、GeForce 9800 GTXをSLI構成にした場合の3D性能。実際にはマザーボードの価格も影響するため一概には言えないが、3Dゲームにおいては、CPUをアップグレードするよりもGPUをアップグレードする方がより低コストでかつよりエクスペリエンスを得られるとのこと

FlickerやGoogle画像検索に対応した「PicLens」のデモ。PicLensもGPUアクセラレーションが有効なソフトウェアであり、高性能なGPUを用いることでよりグリグリ動かせる

既に活用しているユーザーも多いと思われるAdobe ReaderでのGPUアクセラレーション。大きなファイルであればよりGPUによるアクセラレーションが効果を発揮し、滑らかな拡大、滑らかなスクロールが可能となる

カスタムオーダーで、より高性能なCPUを選んだ場合で849ドルを仮に想定

同じ849ドルで、CPUは安価なものにし、より高性能なGPUを選択した場合のパフォーマンス比較。Half-Life2やCrysisといったゲームタイトルに混じり、今回デモされたビデオエンコーディングも加えられている(グラフの左から2項目目)。もっとも、CPU性能に左右されるPCMark Vantageではスコアを落としている。ユーザーのニーズがゲームやエンコードである場合においては、高性能なGPUにした場合の方が効果が高いというアピール

GPUによる動画エンコード支援は、MPEG-2映像ソースをiPod用プロファイル(H.264)へとエンコードした際に要した時間をCPUの場合とGPUの場合で比較している。GPUエンコードにはElemental Technologies製のエンコードソフトウェア(開発中のα版)、CPUによるエンコードではSilisoft製のエンコードソフトが用いられているほか、CPUはCore 2 Extreme QX6700で共通、GPUはGeForce 8800 GTを搭載している。エンコードソフトウェアが異なるものの、CPUを用いたエンコードでは約42.1秒を要したのに対し、GPUによるエンコードでは約15.7秒という結果となった。α版でおよそ3倍の速度でエンコードできた計算になるが、さらに最適化が進めば3倍以上の速度でエンコード可能になると述べている。

GPUによるエンコード支援機能を組込んだElemental Technologies製のエンコードソフトウェア。この説明会に先立ち、Elemental Technologiesも「GPUアクセラレーションを用いた初のH.264エンコーダー」と題しリリースを発表している。NVIDIAによれば、同ソフトウェアは、Adobe Premiere Proのプラグインとして今夏頃の提供を予定しているとのこと

今回の動画のエンコード支援機能では、「CUDA」を用いてGPUで演算を行っており、専用回路を組込んだPureVideo(映像再生支援・高画質化機能)とは異なる。CUDAはCやC++のような開発言語でもあるが、CPUのみならず、GPUにも最適化されているのが特徴とされる。CPUとGPUにはそれぞれ得手不得手があり、例えば分岐やループなど難しいトリッキーなコードを含むものはCPUが有利、しかしキャッシュだけでは対応できない巨大なデータセットが連続する場合などではGPUが有利(並列化が処理を高速化できるもの)。こうしたCPUが有利な部分、GPUが有利な部分が混在する場合、CUDAであればそれぞれが得意とする分野を分担するよう制御できると説明。同社ではこのように、CPU・GPUを協調させ各種演算を行うことを「ヘテロジーニアス・コンピューティング」と呼び、CUDAによる最適化の結果、従来のものと比べ大幅な高速化が実現したと紹介した。

CPUとGPUの構成を比較したスライド。比較のためではなく、トリッキーなコードを含むものはCPUが有利、高度に並列化されたアプリケーションはGPUが有利となると説明

CPUとGPUを協調させ、それぞれが得意とする処理を割り当てること、それを「ヘテロジーニアス・コンピューティング」と呼ぶ。この中核となるのがCPUとGPUの双方を制御できる「CUDA」である

GPUによるエンコードは、ソフトウェアメーカーのCUDA採用が進むことが普及の鍵だ。この点に関して、飯田氏は、「現在のエンコードソフトウェアでは、既にマルチコアCPUへの最適化は完了しており、CPUに関する部分においてこれをさらに性能向上させることは難しい」、「現在のビデオアプリケーションは、ユーザーからすれば多機能化は進んでいても処理スピードは遅くなっていると感じていることだろう。ソフトウェアメーカーとしてもこれはなんとかしなければならない。だからこそCUDAを用いることで可能な"高速化"は彼等にとっても魅力なはずだ。そして我々はそれをサポートすることができる」と述べた。GPUによる各分野のアクセラレーションが、ソフトウェアメーカーにとって"自社製品をより魅力的なものにすることができる機能"と認識されれば、自ずと採用メーカーが増えるとの見解だ。

黎明期の携帯電話は、ストレート型で電話の機能がメインだった。今では、写真、映像、メールなど、ニーズに合わせた様々なデザインの機種が登場している

PCの場合も同様に、ニーズに合わせて「最適」なデザイン、構成へと分化してきた。同社は、使用するアプリケーション(ニーズ)に合わせての最適化を提案。HDビデオの視聴、PDFドキュメント閲覧の高速化、ゲーム、そして動画エンコードなどでは、より高性能なGPUを選択することが性能的、価格的にも魅力であるとアピールしていく