世界12カ国、120の生産者で組織される自然派ワインのグループ「Renaissance des Appellations(ルネッサンス デ アペラシオン)」はこのほど、東京・神楽坂にて60の生産者がブース出展をする試飲会を開催した。ここからは、自然派ワインの先駆者的な存在であるニコラ・ジョリー氏のセミナーも開かれた同試飲会の様子をお伝えしていく。

ジョリー氏は現在、Renaissance des Appellationsの代表を務めており、また1980年に自然派ワインの取り組みをスタートさせた人物でもある。今回の試飲会は1日限定の開催だったが、なんと約1,100人が訪れたという。

試飲会の様子をレポートする前に、自然派ワイン(ビオワイン)について簡単に説明しておこう。自然派ワインとは、狭義に有機栽培されたぶどうからつくられたワインのことである。ジョリー氏は「テクニックを伝えることが大切なのではなく、その原理を理解することが大切」という。

ニコラ・ジョリー氏。手作業の多い仕事なので手を見せてもらった

同氏が実践しているのは、「ビオディナミ」と呼ばれる農法だ。1924年にオーストリアのルドルフ・シュタイナー博士によって発表され、その理論は天体の運行が自然界に与える作用や生命のあり方にまで及ぶ。農薬や化学肥料を排除し、動物の堆肥や植物といった自然界にある物質を調合した調剤を散布。土壌の活力を取り戻すとともに、植物の生命力も最大限に発揮させるといった方法だ。しかしこのように説明していくと、非常に難解な印象を与えてしまいそうである。そこでここからはジョリー氏によるセミナーの内容をお伝えするので、ビオディナミに関する理解を深めていってもらいたい。

自然派ワインのぶどう畑を見ると、私は何故かホッとする。そこから自然環境のサイクルを感じ取れるからだろうか。ジョリー氏の畑では、収穫が終わる10月頃から羊を放し、雑草を食べさせている。ジョリー氏は除草剤や化学肥料の使用を一切認めないのだ。「除草剤は、土壌のオーガニズムを殺してしまう。本来は微生物が土壌の力を強めるのに、除草剤がそのプロセスを壊してしまいます」。

写真上は収穫を終えたニコラ・ジョリー氏の畑。羊が放されている。右は有機栽培のぶどうとテントウムシ

根が途中から上に伸びている。除草剤の影響だという

次に私たちに見せてくれたのが根っこの写真。「これは除草剤を撒いた土壌の根です。根が途中から下に伸びずに、上に伸びてしまっています。この樹はやがて土壌から栄養を吸収できなくなり、化学肥料に頼るようになってしまうのです」とジョリー氏は解説。化学肥料は塩分が多く、そのために植物が水分を多く吸い上げるようになるとのことだ。生育が早まるので農家にとってはよい話のように思えるが、そのようにして育った植物は病気にかかりやすくなるという。

初めにジョリー氏のことを自然派ワインブームの先駆者的な存在として説明したが、同氏が自然派としての取り組みを始めてから30年近くが経っている。志を同じくする生産者は世界各国にいて、今回のような試飲会は世界各地で開催されている。デンマークでは王室の招待という形で試飲会が開かれているというから驚きだ。Renaissance des Appellationsの予定は2009年まで埋まっているとのこと。これまでは市場が成熟しているヨーロッパやアメリカを訪れることが多かったが、2009年1月には中国やインドを訪問する予定もあるそうだ。

セミナーには130人近い参加者が