――私もそうですが、多くの方が喜井さんのお名前を知るキッカケになったのが、『今甦る!昭和ヒーロー列伝』とその枠内で放送された『セーラーファイト!』だと思うのですが、この番組の誕生の経緯をお聞かせください。

「先ほどお話しした放送枠の企画として出した案が、『今甦る!昭和ヒーロー列伝』の元になったものだったんです。つまり90分の枠があるわけだから、毎回毎回一つの特撮ヒーロー番組を取り上げて、1話30分のエピソードを3話分、すなわち第1話と最終話とエポックになったエピソード1話を選んで放送する、ということになったんです」

――『セーラーファイト!』の企画は、どのようにして決まったのでしょう?

「30分番組といってもコマーシャルの時間があるから実質24分でしょ。すると、90分枠で3話流すと10分ぐらいの空きができるわけですね。最初は僕がその時間に作品解説をやって埋めてたんですけど、途中から欲が出てきまして(笑)。というのは『トリプルファイター』を採り上げたときに、『こんなんだったら僕らでも撮れるよね』という話になって(笑)。そこで空きの時間を埋めるための作品制作の企画を出したんです。それで大好きな怪獣を登場させられる特撮ドラマの制作にこぎ着けることができたんです」

――『セーラーファイト!』というタイトルは、どのようにして決まったのですか?

「当時、『美少女戦士セーラームーン』シリーズの全盛期で、かつ作る作品の尺は『ウルトラファイト』ぐらいの長さしかないから、『じゃ、"セーラームーン"と"ウルトラファイト"にちなんで、"セーラーファイト!"にしよう』と(笑)」

――そのとき『美少女戦士セーラームーン』は、ご覧になられてましたか?

「僕、アニメに興味ないもんですから、スタッフの一人にビデオを借りて、初めて『セーラームーン』を観たんですけれど、『オレには、とてもこんなもん撮れん』と(笑)。でもまあ、主人公はセーラー服でいこう、それも女子学生じゃなくて、海軍の軍服としてセーラー服を着ているキャラクターにしようと。さらに軍隊だから地球防衛軍も出そう、ただしバブル崩壊のあおりをくって、活躍の場が減って落ちぶれた地球防衛軍にしようと。わずかな装備を持って、プレハブに引っ越して、怪獣もほとんど出ないけど、絶滅したわけじゃない、という想定でときどき思い出したように現れる怪獣と闘う……」

――『セーラーファイト!』は、アクションシーンがあまり印象にありませんが……。

「要は怪獣と格闘する予算がないんです。アクションやると着ぐるみが痛むでしょ。痛んだ着ぐるみを補修する費用が捻出できないから、なるべく闘わないように闘わないようにしてたんです(笑)」

――怪獣の着ぐるみは、どなたが作ったんですか?

「そりゃ自分たちで。材料は買えても製造を発注する予算がないから。僕、学校でも習ってますし。仕事の合い間に」

――いろんなことを自らおやりになってらしたわけですね?

「この当時、僕『一人完パケ(※)』って呼ばれてましたもん。例えば、編集室はおさえられても、オペレーターさんの都合がつかないときに自分でやるとか」

(※)「完パケ」とは、「完全パッケージメディア」の略称。ここでは、編集、MAが終了し、放送可能な状態にまで仕上げられた映像のことを指す。また、MAとは、「Multi Audio」、すなわちBGMや効果音などの音入れ作業のこと。