予算管理の基本的な方法は、PDCAサイクルに基づいて進めるとスムーズです。本稿では、予算管理の基礎知識を整理した後、管理方法と効率的な方法、予算管理システムを導入するメリットなどについて解説します。予算管理を始めたい、あるいはこれまでの方法を精査したいという場合はぜひご覧ください。
予算管理の基礎知識
予算管理の基礎知識として、予算管理の目的と予算管理に必要となる4種類の予算、予算管理に求められるスキルについて解説します。
1、予算管理の目的
予算管理の目的は、リソースの効率的な配分と経営目標の数値化と全社共有、予算と実績の管理による経営改善にあります。
売上目標や経費の予算計画を立てなければ、経営がうまくいっているのかどうかの判断ができません。予算の数値化と予算・実績の管理(以降予実管理と呼びます)により、経営をより効率化するためのベースとなる情報が得られます。
2、予算管理に必要な4種類の予算
予算管理では、売上・原価・経費・利益の4種類の管理が求められます。各予算の特徴について確認しましょう。
1.売上予算
売上予算とは、当期売上高の計画です。過去の売上実績を超える数値目標を設定するのが一般的ですが、予算策定時には前期までの売上高の推移をベースに検討します。売上高はさまざまな変動リスクの影響を受けやすく、定期的に実績との差異を確認して、臨機応変に調整していく必要があります。
2.原価予算
原価予算とは、製品やサービスを提供する際必要となる費用がいくらぐらいかかるかを計画して算出した予算のことです。売上予算によって予定の売上高が決まるため、売上に対して必要となる原価を、過去の実績や価格変動リスクなどを考慮して予算化します。
売上高の変化に応じて原価予算も定期的な見直し・調整が必要です。また、為替変動リスクや原価が大きく影響を受けるイベント発生など、迅速な見直しが必要になることもあります。
3.経費予算
経費予算とは、売上に直接かかわらない部分でかかる費用を見積もった予算です。人件費や交通費、オフィスの賃貸料や水道光熱費などは、製品の製造やサービスの提供に直接かかわりません。しかし企業経営には必須となる費用です。経費を予実管理し無駄を削減することで、売上向上にも間接的に寄与します。
4.利益予算
利益予算とは、最終的な目標利益を予算化したものです。利益予算を算出するには、売上予算の目標売上高から、原価予算と経費予算をマイナスします。
他の予算を統合して利益予算を算出した結果利益目標を達成しなかった場合は、何らかの対策が必要です。利益目標を達成するには、売上を増やす対策と、原価と経費を低く抑えるという方法があり、具体的な対策を検討して最終的な利益予算を決定します。
3、予算管理に求められるスキル
予算管理は、全社レベルから自部門・チーム内など、組織レベルの違いはありますが必要となります。予算管理に求められるスキルは以下の通りです。
- 損益計算書や部門ごとの予算報告書など会計関係の資料を理解する知識
- 必要な情報を収集し論理的に改善策を策定する思考力
- 会社全体やチーム全体状況を見渡し、把握する能力
- 予算調整に必要なコミュニケーション能力
- 予算管理業務をシステム化するためのIT知識
予算管理に取り組む場合は、担当者にこれらのスキルがあるかどうか、不足する知識があれば研修を行うといった対策も検討しましょう。
予算管理の基本的な方法(PDCAサイクル)
予算管理の基本的な方法は、PDCAサイクルによる継続的な改善手法を取り入れた管理手法です。
PDCAサイクルとは、「計画(Plan)・実行(Do)・確認(Check)・改善(Action)」の頭文字を取った管理手法の一種です。これらの行動を何度も繰り返すことで、継続的に改善を進めていきます。
予算管理の基本的な方法について、PDCAサイクルに合わせて4ステップで紹介します。
1、予算編成(Plan)
予算編成は、PDCAサイクルの「計画」に当たる部分です。経営目標を立て、目標達成のための方法やリソースの分配方法を計画して、最終的には4種類の予算(売上・原価・経費・利益)の編成まで進めます。
予算編成の方法には、経営陣主導型のトップダウン方式と、各部門で予算を策定して集約するボトムアップ方式があります。どちらも一長一短あるため、実際にはトップダウン方式とボトムアップ方式の両方を取り入れた形で予算編成を進めるのが一般的です。
2、予算を元に業務遂行(Do)
予算編成が完了したら、業務を「実行」するステップに移行します。予算を元に実際の事業を進めていき、毎日の実績を何らかの形で記録します。実績は、次の予実分析のインプット情報となります。
3、予実分析(Check)
予実分析は、業務を実行して上がってきた実績と予算を比較し、問題なく業務が進んでいるかをチェックするステップです。基本的には毎月予算会議を開催して予実結果を報告し、予算達成に問題が出ていないかを確認します。
特に全社の売上高に大きく影響のある大規模プロジェクトについては、予算会議を毎週開催して、細かく予実分析を行い、大きなブレが出ないようにします。
4、予実のかい離原因を特定して改善(Action)
最後は、予実分析によって課題が見つかった場合、その原因を特定して改善案を策定するステップです。策定した改善案は、最初の計画ステップに戻って予算に反映し、次のPDCAサイクルに入ります。
予算管理を効率化する2つの方法
予算管理を効率化するには、主にエクセルを使う方法とITシステムを使う方法があります。
1、エクセルを使った予算管理方法
エクセルを使った予算管理は、どのオフィスにもあるエクセルでフォーマットを作成し、部門ごと・全社と集計して管理する方法です。コストをかけず手軽に予算管理を始められるため、従業員数が少なく予算管理をする人数も少ない場合に向いている方法です。
2、ITシステムを使った予算管理方法
予実管理専用のITシステムを導入する予算管理方法もあります。予算編成から予実管理までトータルで進められ、集計の手間がかからず便利です。ただ、最初は使い慣れずに勉強する必要があることやコストがかかる点はネックです。
エクセルを使った予算管理方法のメリット・デメリット
エクセルを使った予算管理方法には、メリットとデメリットがあります。どちらも把握した上で、自社に合っているかどうかを確認しましょう。
1、メリットは手軽に導入できフォーマットを自由に定義できる点
エクセルでの予算管理は、コストをかけず手軽に導入できる点がもっとも大きなメリットです。起業したばかりで経理担当が1人しかいないような企業の場合、ITシステムの導入コストは大きな負担になるため、エクセル管理の方が向いています。また、フォーマットを自由に設定できるため、思い通りの管理表が作れます。
2、デメリットは集計の手間と人的ミス
エクセル管理のデメリットは、集計の手間や入力ミス・集計ミスといった人的ミスによる手戻り作業の発生です。
予実管理に多くの人数がかかわる、あるいは多拠点でファイルのやり取りが大変な企業の場合は、エクセル管理の手軽さよりも、煩雑さの方が勝ります。人的ミスが入り込み、正確な数値把握に手間がかかる点もネックです。
ITシステムを使った予算管理方法のメリット・デメリット
ITシステムを使った予算管理方法にもメリットとデメリットがあるので、順番に解説します。
1、メリットはリアルタイムな予実管理が可能で人的ミスが減る点
ITシステム導入のメリットは、リアルタイムで予実管理ができ、人的ミスの入り込む余地が大幅に減少する点です。
実績を予実管理担当者が入力するだけで、すぐに予実の状況を確認でき、集計の手間をかけず素早い予実分析ができます。人がかかわるのは実績データの入力だけなので、集計や進捗管理資料の作成など、人的ミスが発生しやすい業務も自動で進められ、ミスの軽減が可能です。
2、デメリットはコストがかかる点
ITシステム導入のデメリットは、エクセル管理に比べてコストがかかる点です。導入コストだけではなく、使い慣れないために最初は研修をしたり、ベンダーの導入サポートサービスを受けたりするコストも見積もらなくてはなりません。
ただ、これから企業として成長していくつもりであれば、予算管理システムを導入して管理する方がスムーズに予算業務を進められます。
スムーズに予算管理を進める6つの方法
予算管理を進める方法について基本的な手順を見てきましたが、スムーズに予算管理を進めるにはいくつか知っておきたいポイントがあります。ここでは、予算管理を進めるために知っておきたい6つの方法について解説します。
1、ルールの明確化
予算管理の方法を策定したら、どのように運用していくかの具体的なルールが必要です。経営陣・予算の取りまとめ部署・各部門の予算管理担当者の役割と予算編成から予実管理までの業務フローを決めましょう。そして運用ルールを全社に浸透させて初めて運用がスムーズに回るようになります。
2、予算編成のフローを改善
予算編成のフローが複雑化して時間がかかっている場合は、根本的な業務フローの見直しも必要です。特に組織が大きくなるほど取りまとめが大変になるため、システム導入も検討するといいでしょう。
3、簡単に修正できる方法の確保
予実管理に入ると、毎月(あるいは毎週)予実分析が行われ、改善案に対応しなければなりません。その際、予算を簡単に修正できる仕組みが必要です。システム化すると修正データはリアルタイムに予算データ内に反映されるため、修正後の集計結果もすぐに得られます。
4、月次の予算編成を行い年次の予算達成を目指す
年次の予算編成だけでなく、月次でも予算を編成しておくと便利です。月次ごとに予算を達成することで、自然と年次の予算達成も狙えるようになります。
5、目標の難易度を適切に設定
予算目標については、難易度を適切に設定することも重要です。予算達成にこだわるあまり、現場部門では達成可能な低めの目標に甘んじるケースも多々あります。
難しすぎず、簡単すぎず、適切な難易度の目標を設定するように現場部門に説明しましょう。トップダウン式に数値目標を決め、現場部門でどのように達成するかを予算化することで、目標の難易度が低すぎる問題は解決する場合もあります。
6、集計のリアルタイム化
予実管理においては、実績の集計をリアルタイムで行える仕組み作りが必要です。中小企業の場合は1人の担当者がすべて管理するためエクセル管理でも簡単です。
しかし、予実管理にかかわる担当者が増えてくると、リアルタイムの集計は難しくなります。一定規模以上の企業になると、やはりシステム化して、集計をリアルタイムに行う仕組み作りを構築することも検討しましょう。
予算管理システムを導入するメリット3つ
予算管理には、やはり予算管理システムの導入がおすすめです。予算管理システムのメリットについて解説します。
1、集計時の人的ミス削減と作業効率向上
予算管理システムを導入すると、実績値や修正した予算値の集計時において、人的ミスがなくなるため、予実管理の作業効率が向上します。実績値の入力をミスする可能性は残りますが、手入力は最低限に抑えられます。
2、予算の修正がしやすい
予算を修正するとすぐに全社予算に反映できる点も、予算管理システム導入のメリットです。エクセル管理の場合、修正した予算ファイルを提出して集計作業が入り、非常に手間がかかります。
3、より迅速な問題発見・対応が可能
予算管理システムの場合、予算・実績を入力したタイミングで、すぐに集計結果に反映されます。そのためより迅速に予算達成の問題となり得る課題を発見し、対策を実施できます。
予算管理システムを選ぶポイント6つ
予算管理システムを選ぶ場合に確認したいポイントは以下の6点です。
1、エクセル運用を残すかどうか
予算管理システム導入時のデメリットとして、現場部門が操作に慣れず使いこなせないケースがあります。その場合、製品によっては各部門の入力はエクセルのまま残すことも可能です。エクセルファイルをアップロードするだけで、予算管理システムに数値を反映できる製品を選びましょう。
2、各種会計基準への対応
上場企業や将来上場する予定の企業は、日本会計基準・米国会計基準・IFRSなどに対応しなければなりません。必要に応じて、これらの会計基準に対応しているかどうかも確認しましょう。
3、既存システムとの連携が可能か
すでに販売管理システムなどのように、予算管理システムと業務的に深いかかわりのあるシステムを導入している場合もあるでしょう。その場合は、既存システムとの連携が可能かどうかも確認が必要です。相互に必要データを連携することで、システム間でデータを入力しなおす、という手間がなくなります。
4、課題に合わせたKPIが設定できるか
売上、成長性、資産など、企業・部門・プロジェクトなどで重視するKPIを自由に設定できるかどうかも選定のポイントです。また、予実分析で設定したKPIのモニタリング可否も確認しましょう。
5、シミュレーション機能があるか
予算編成の時や、予実分析によって改善案を策定する際、シミュレーション機能があると便利です。シミュレーション機能により、さまざまな状況を加味した予算値を算出でき、改善案の効果を事前にある程度把握できるようになります。複数の改善案の比較も可能となり、より効果の大きい改善案はどれかも予測可能です。
6、トライアルによる操作性確認が可能か
予算管理システムは、日々の実績入力に使用します。そのため、現場部門にとって使いやすい操作性かどうかの確認は重要です。トライアル版や無料プランを利用して、製品ごとに操作性を確認しましょう。
予算管理システムの導入でより効率的な管理方法を確立しよう
予算管理の基本的な方法は、予算編成から予実管理までを継続的に何度も繰り返し、改善する方法がおすすめです。迅速に予実管理・分析を行うには、予算管理システムの導入を検討しましょう。