売上原価は、商品を販売する際に管理する原価の一種ですが、製造原価とは考え方や計算方法が異なります。この記事では、売上原価の考え方や内訳、業種による売上原価の違いなどを整理し、計算式と基本的な計算方法について解説します。予算管理を行う上で基礎的な情報となるため、ぜひ最後までご覧ください。
売上原価とは
売上原価とは、「売れた商品やサービスにかかった原価」のことです。販売する商品の仕入価格、自社で製造している場合は製造費がかかるほか、商品やサービスの提供にかかる原価や費用も含まれます。
商品の売上に応じて計算するため、当期に仕入れて売れ残った商品については、当期の売上原価に含まれません。
1、売上原価は粗利を知る上で重要な数字
当期の粗利(売上総利益)は売上高から売上原価を引くことで計算されます。そのため売上原価は企業活動にとって非常に重要な数字です。1%以下の原価率の違いが大きな粗利額の違いに繋がります。粗利は、企業が提供する商品やサービスの力を見極めるのに役立ちます。
2、売上原価の内訳
売上原価は基本的に「売れた商品にかかった原価」ですが、期末時点で売れ残った商品からも、当期の売上原価に含めるべき費用があります。
以下は、売上原価の内訳は以下の通りです。
- 売れた商品にかかった原価
- 売れ残った商品のうち、在庫のロス分の原価と売れ残り商品の評価損
期末の棚卸しで、本来は100個の在庫があるはずなのに98個しかなかった場合、2個分は在庫ロスとして原価に計上します。
売れ残り商品の評価額が、期末時点で下がっていた場合、売れ残り商品の評価損分は当期の売上原価として計上します。評価損は在庫金額を計算する方法として「低価法」を採用する場合に発生する金額です。
在庫金額の計算方法には「在庫法」と「低価法」があり、在庫法は在庫の取得単価を原価とします。低価法は、在庫取得時に在庫法で計算した原価に対し、期末時点で在庫品を評価して低い方を原価とする計算方法です。評価損は、モデルチェンジや流行りの終わりなどで商品の価値が下がることで発生します。
3、売上原価は業種により違いがある
小売業、製造業、サービス業などの業種によって、何の費用を売上原価にするのかの違いがあります。
業種 | 売上原価の内訳 |
---|---|
小売業 | 仕入原価 |
製造業 | 材料の仕入原価 製造・開発のための人件費 生産コスト |
サービス業 | 役務提供者の給与・手当 旅費交通費などの経費 |
小売業の場合、売上原価は仕入原価とほぼイコールです。製造業の場合、一般的には、商品を製造してそのまますべての製品を卸売りしている場合、売上原価と製造原価はイコールです。製品を製造する工程で必要となる材料などの仕入原価に加え、製造・開発のための人件費や生産コストも売上原価に含まれます。
製品製造と自社商品の販売を同時に行っている場合はどうなるでしょうか。この場合、製造部門で製造した製品の製造原価と、販売部門で販売・在庫管理をしている商品に対する売上原価を分けて計上します。
サービス業の場合は、販売業とは違い、売上原価の細目である役務原価(えきむげんか)を計算します。役務原価には、役務提供者の給与・手当などの「労務費」と費交通費などの「経費」が計上されます。
4、製造原価との違い
製造原価は、製品を製造するために必要となった原価です。売上原価との大きな違いは、売上に関与していない点です。ただし、自社製品を製造・販売どちらも行っている製造業の場合、売上原価の中に製造原価は含まれます。
ここまで、売上原価の概要について整理したところで、以降は売上原価の計算式と計算方法について確認しましょう。
売上原価の計算式
実際の計算に入る前に、売上原価の計算式と、期末商品棚卸高を算出する5種類の方法について解説します。
1、売上原価の計算式
売上原価の計算式は以下の通りです。
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
期首に抱えている在庫商品の棚卸高に当期仕入れた商品の仕入高を足しこみ、期末の商品棚卸高を差し引きすると、当期の売上原価を算出できます。ここで、商品棚卸高を算出する方法によって売上原価は変わってくるため、その方法についても確認しましょう。
2、期末商品棚卸高を算出する5つの方法
期末商品棚卸高を算出する5つの方法をまとめると以下の通りです。
期末商品棚卸高 の算出方法 |
内容 |
---|---|
先入先出法 | 先に仕入れた商品を先に販売したという考え方で計算 |
個別法 | 仕入れた商品それぞれの単価を用いて計算 |
最終仕入原価法 | 最後に仕入れた商品の単価を使って計算 |
総平均法 | 一定期間の仕入原価の平均を単価に用いて計算 |
移動平均法 | 仕入の都度平均単価を計算して棚卸高を計算 |
期末商品棚卸高の算出方法によっては、仕入や出荷時の数量と金額を継続的に記録していかなければなりません。商品の在庫管理と販売管理に関わるデータであり記録するのは大変ですが、正確な期末商品棚卸高が計算できます。
それでは、期末商品棚卸高の算出方法について、個別に解説します。
1 先入先出法
先に仕入れた商品を先に販売していると仮定して期末商品棚卸高を計算します。商品の仕入価格が変化した場合も、古い商品から順番に売れたと仮定し、期末商品棚卸高を計算します。
2 個別法
商品ごとに仕入価格を管理し、期末商品棚卸高計算時に在庫商品の仕入価格を合算することで計算する方法です。商品ごとに仕入価格や販売情報を細かく記録しなければ実現できない計算方法と言えます。
3 最終仕入原価法
最終の仕入価格を在庫全体の仕入価格とみなして期末商品棚卸高を計算する方法です。仕入価格が変化する商品の場合、実態の売上原価とはかい離する点には要注意です。
4 総平均法
一定期間の仕入高より平均単価を算出して、期末商品棚卸高を計算する方法です。最終仕入原価法よりは実態に近い売上原価となります。
5 移動平均法
仕入のたびに平均仕入単価を算出して、期末商品棚卸高の計算をする方法です。総平均法との違いは、平均仕入単価を算出する回数が多く、仕入時点での評価額を把握できる点です。
売上原価の計算方法
計算式を整理したところで、売上原価の計算方法を説明します。小売業の売上原価は仕入原価とほぼイコールなのでシンプルです。以下の例で、小売業の売上原価を計算してみましょう。
会社設立1年目と2年目で売上原価を計算する例です。
商品A | 商品B | |
---|---|---|
設立1年目 | 期首在庫:0個 仕入価格:1万円 仕入個数:100個 販売個数:60個 期末在庫:38個(2個不足) |
期首在庫:0個 仕入価格:2万円 仕入個数:50個 販売個数:40個 期末在庫:10個 |
設立2年目 | 期首在庫:38個 仕入価格:1万円 仕入個数:50個 販売個数:60個 期末在庫:28個 |
期首在庫:10個 仕入価格:2万円 仕入個数:40個 販売個数:50個 期末在庫:0個 |
この状態で、1年目の売上原価と2年目の売上原価を算出します。在庫の評価には原価法を採用し、仕入価格は一律で変化しないことと仮定します。
では、先述の計算式を用いて、設立1年目および2年目の売上単価を計算しましょう。
【1年目の売上原価】
・商品Aの売上単価
1万円 × 0個(期首商品棚卸高) + 1万円 ×100個 (当期商品仕入高) – 1万円 × 38 個(期末商品棚卸高) = 62万円 (売上原価)
・商品Bの売上単価
2万円 × 0 個(期首商品棚卸高) + 2万円 ×50個 (当期商品仕入高) – 2万円 × 10 個(期末商品棚卸高) = 80万円 (売上原価)
・1年目の売上原価
62万円 + 80万円 = 142万円
この計算方法では、自然と在庫のロス分の原価も仕入原価に含まれます。設立2年目からは、期首商品棚卸高が入ってくるので、計算方法を見てみましょう。
【2年目の売上原価】
・商品Aの売上単価
1万円 × 38 個(期首商品棚卸高) + 1万円 ×50個 (当期商品仕入高) – 1万円 × 28 個(期末商品棚卸高) = 60万円 (売上原価)
・商品Bの売上単価
2万円 × 10 個(期首商品棚卸高) + 2万円 ×40個 (当期商品仕入高) – 2万円 × 0個(期末商品棚卸高) = 100万円 (売上原価)
・2年目の売上原価
60万円 + 100万円 = 162万円
2年目以降も、計算式に値を当てはめて計算することで、売上原価を求めることができます。
売上原価の把握には原価管理システムが便利
売上原価について解説しました。具体的な計算方法では、期末商品棚卸高の算出を省略しましたが、正確な売上原価を算出するためには、仕入れや出荷時の数量と金額の継続的な記録が必要です。
しかし、実地での棚卸しや数量などの記録などを人手で管理していると、抜け漏れや入力ミスなどもあり、リアルタイムでの集計も難しいでしょう。
売上原価を正確に把握するためには、原価管理システムの導入がおすすめです。在庫管理システムや販売管理システムと連携して、在庫商品の情報や販売情報からリアルタイムで売上原価を計算できます。