原価管理は、とくに製造業で発展を遂げた管理手法です。現在では、あらゆる業種で原価管理を行うようになりつつあります。本稿では、原価管理の概要と目的について整理しました。また、具体的に原価管理を行う手順や管理目的達成のための課題、原価管理システム導入のメリットなどについて解説します。
原価管理とは
原価管理とは、製品やサービスを提供するために必要となる費用を原価として管理する、利益管理の一手法です。
原価には小売業のように商品を仕入れて販売する際にかかる「仕入れ原価」や工場で自社製品を製造する際にかかる「製造原価」があります。
原価管理を行う2つの目的
なぜ、原価管理は必要なのでしょうか。原価管理を行う目的はおもに以下の2点です。
1 原価変動のリスク管理
原価の変動リスクを予測し、利益の低下を可能な限り抑えることが、原価管理の重要な目的です。
原価は、経済状況や為替変動、社会情勢によって変動します。原価が大きく膨らんでも販売価格をそのまま据え置くと、利益は減少します。
さらに従業員への給料はかんたんには下げられないため、原価が増えれば経営を圧迫しかねません。そのような問題を予測して、迅速に対策を立てるためには原価管理が必要です。
2 利益の管理と拡大
利益の管理・拡大も原価管理の目的です。原価管理によって無駄な原価を削減し、利益を増やすために必要な原価は増やすなど、戦略的な原価管理を進めることで安定的な黒字経営が目指せます。
原価管理は、リスク管理と利益管理の2つの目的がある点は覚えておきましょう。原価管理を行うには、これらの目的を達成するための作業も必要です。次に、原価管理を行う手順について解説します。
原価管理を行う手順4ステップ
原価管理を行う基本的な手順は4ステップで構成されます。
1.標準価格(原価)の設定
原価管理を行う最初のステップは、製品(商品・サービス)の標準価格設定です。このとき、原価計算の基準となる「標準原価」を概算で決める必要があります。
標準価格の決定には、競合調査やマーケティングによる適切な価格相場を把握するとともに、利益が出るよう原価率なども考慮しなければなりません。
標準原価はあくまでも予測値であり、実際の原価は別途計測して「実際原価」として扱います。
2.原価計算
実際に製品開発および製造の段階に入ってから、具体的な原価(材料費・労務費など)を明らかにし、原価に含めるべきものを積み上げていきます。
原価計算は、正確な利益を把握する手法で、標準原価計算・実際原価計算・直接原価計算の3種類があります。
1 標準原価計算
製品の企画段階で原価の概算を計算する手法です。
製品設計・工程設計を立て、これらの情報を元に原価とするべき項目を抽出し、材料費や労務費など原価の目標値である「標準値」を決定。各項目に対する標準値がすべて決まったら、その値を元に原価を算出します。
標準原価を元にした原価管理手法は「標準原価管理」と呼ばれます。しかし標準値の精度が低いと原価に大きなブレが生じ、信頼性が低くなる点はデメリットです。
2 実際原価計算
実際に使われた原価情報を収集して行う原価計算手法です。
原価の実績管理には不可欠な計算で、標準原価との差異を分析することで、事業推進の問題点を発見することもできます。
実際原価は、部門からいかにリアルタイムで原価データが連携されるかが重要です。なんらかの仕組みで、より速い連携手段が求められます。
3 直接原価計算
実際原価を「変動費」と「固定費」に分けて計算する手法です。
製品ごとの利益が見えるようになり、売上の割に利益が出ていない原因の調査などに役立ち、利益の確保・拡大施策を立案できるようになります。
3.差異分析
事前に策定した標準原価と、製造工程で実際に必要となった実際原価の差異を分析し、差異が大きい場合に原因を分析するステップです。
差異分析によって余分にかかっている原価や工程など、原因を発見します。
4.改善・分析行動
差異分析によって発見した問題点の改善を行うステップです。
改善策は1回策定して終わりではありません。改善前・改善後の原価を測定して、対策に効果があったかどうかを分析し、さらに必要なら次の対策を行うことで、目標に近づくように改善と分析を繰り返します。
一連の流れで原価管理を進めることで、黒字経営を安定的に続けられるようになります。
原価管理の目的を達成するための課題3つ
原価管理の目的である「リスク管理と利益拡大」を達成するためには、クリアしなければならない課題があります。具体的にはどのような課題か見ていきましょう。
1 原価の正確な把握
原価の正確な把握を行うことで、目的達成の可能性は上がります。標準原価はどうしてもブレが出るので、製品開発や生産工程に入ったら、実際にかかった原価を漏れなく収集。実際原価や直接原価を計算して、正確な原価を把握しなければなりません。
しかし、原価の変動リスクにはさまざまな要因があり、原価の正確な把握は以前より難しくなってきています。
2 リアルタイムでの原価管理
人手で原価計算をリアルタイムに集計することは大変な作業です。原価管理専門の担当者を置き、情報収集をすることで原価管理のスピードは上げられます。
しかし、それでもリアルタイムでの原価管理は難しく、原価管理の業務フローはしっかり検討しなければなりません。
3 製造業や建築など業種によって原価管理に違いがある
原価管理を始める際、業種によって原価管理には大きな違いがあります。業種の特性を把握して、同業他社がどうやって原価管理をしているのかを調査しておくことも重要です。
原価管理システムで目的達成!導入のメリット6つ
原価管理システムは、原価管理の目的を達成するための強力なサポートツールです。システム導入のメリットについて6点紹介します。
1 リアルタイムかつ正確な原価管理が可能
原価管理システムは、かかった原価データを入力するだけで、リアルタイムに集計・確認が可能です。データを集計する手間が削減できることも大きなメリットといえます。
2 部署別・工程別などさまざまな集計もすぐにできる
事業別・部署別・プロジェクト別など、さまざまな切り口ですぐに集計できる点も、原価管理システム導入のメリットです。原価の値に問題がある場合、原因を調査するのも容易になります。
3 原価差異分析や損益計算による問題点の早期発見
原価の差異分析や損益計算の機能を備えた原価管理システムも多く見られます。原価の入力から集計・分析までワンストップで進められるため、スピーディに問題点を発見でき、より迅速な対応が可能となります。
4 シミュレーションによる問題点把握と早期対策
原価変動リスクが予想される場合、現状の問題点把握と早期対策のためには、シミュレーション機能が便利です。エクセルなどを使うと集計に時間がかかる、入力ミスによって間違った計算結果になるなどのリスクがありますが、原価管理システムではそのような心配はありません。
5 他システムとの連携による事務作業の効率化
原価管理システムの多くは、他システムとの連携手段を用意しています。原価管理システムの管理する原価データは、販売管理システムなどでも用いるため、自動的に連携する仕組みが必要です。他システムと連携することで、原価データを他システムへ二重に登録する必要がなくなります。
6 業種別に対応している製品が選べる
原価管理システムは、大きく分けてどの業種でも利用できるタイプと業種別のタイプがあります。製造業向け、小売業向けなど、自社に合った原価管理システムを選べる点も、原価管理システムを導入するメリットです。
原価管理システムのおもな5つの機能
原価管理システムには5つの基本機能があります。どのような機能かを把握し、原価管理システムへの理解を深めましょう。
1 原価計算
標準原価・実際原価・直接原価を計算する機能です。原価情報を各部門で入力すると、自動的に計算されます。工程別・部門別・プロジェクト別などの切り口で集計できる仕組みです。
2 原価差異分析
現時点で集計できている原価データを元に、標準原価と実際原価(直接原価)の差異を分析する機能です。歩留差異、固定費差異のように、目的に応じた分析や、部門別・製品別などの分析もできます。海外での製造や仕入れなどが関わっている場合、為替変動を盛り込んだ再分析も可能です。
3 損益計算
部門別・製品別などさまざまな視点からの損益計算を行うことで、問題の早期発見に寄与する機能です。販売直接費や販売管理費などの配賦(はいふ)を行える製品もあります。
4 シミュレーション
シミュレーションは、標準原価を計算する際、仕入先を変えたり原材料費を変更したりして、より利益を上げる最適な選択を模索する機能です。標準原価検討だけでなく、原価変動リスクなどを見越した対策立案と早期対策にも役立ちます。
5 連携機能
他システムとの連携機能です。原価管理システムと関係するシステムとしては、在庫管理システムや販売管理システムなどがあります。他システムと連携することで、原価データを他システムで手入力する手間と他システムのデータを原価管理システムに反映する手間が削減できます。
原価管理システムを選ぶポイント7つ
原価管理システムを選ぶ場合に意識するべきポイントは、以下の7点です。
1 自社が使いたい機能がそろっているか
原価管理システムには、基本機能の他にも原価管理をサポートするさまざまな機能があります。自社が使用したい機能がすべてそろっているかどうかは、必ず確認したいポイントです。
2 利用者にとって使いやすいか
原価管理システムは、原価入力する各部門担当者と原価管理部門双方にとって使いやすい製品を選びましょう。操作性が悪いと、原価管理システムのメリットである「リアルタイムでの原価把握」が実現できなくなります。無料プランやトライアル版を利用した評価は必ず実施してください。
3 自社に向いている提供形態を選ぶ
原価管理システムも、時代の流れでクラウド型が多くなっています。クラウド型は低コスト・短期間で導入できる点が強みです。ただ、既存システムがあり、システム連携をしたい場合は、オンプレミス型を選択するケースもあるので要確認です。
4 基幹システムと連携可能か確認
基幹システムと連携できるか確認も必要です。他システムとのデータ受け渡しはどのような方法で行うか、その方法は自社や既存の基幹システムで採用できるかどうかについて、漏れなく確認してください。
5 業種に合わせた原価管理システムを探す
原価管理システムに独特のルールがある業種は、業種専用の原価管理システムがおすすめです。業種専用のシステムなら、カスタマイズ不要または最小限で済み、より低コストで原価管理システムを導入できます。
6 データの一元管理が可能か
他システムと連携する場合、データを一元管理できると便利です。既存の他システムと同シリーズの原価管理システムを選ぶと、データの一元化はスムーズに行いやすくなります。
データの一元管理が難しい場合は、データをCSVファイルなどに出力して他システム連携をするのが一般的です。しかしデータのシステム反映には若干のタイムラグが出ます。
7 カスタマイズは最小限に
原価管理システムを自社に合わせてカスタマイズする場合は、別途費用が必要です。カスタマイズしつつ開発費用を最小限に抑えるためには、さまざまな工夫や調査が必要となります。業種に合った製品を選ぶ、既存システムと同じシリーズの製品を導入する、といった検討を行い、カスタマイズをあまりしなくて済むように調査検討してください。
原価管理の目的を理解してシステム化も検討を
原価管理は、原価変動リスクの低減と利益拡大という2つの目的を達成するための管理手段のひとつです。原価管理は、実際原価をリアルタイムで把握し、標準原価との差異を分析して問題点の抽出・対策を行うことで、経営の安定化を実現します。
ただ、実際原価をリアルタイムで把握することは難しいため、原価管理システムの導入がおすすめです。多く出回っている原価管理システムのなかから、自社に合った製品を選んで原価管理業務を効率化しましょう。