PC Maticはセキュリティソフトの中ではかなり新顔で、これまでの定番セキュリティ製品とは全く異なる基本コンセプト「ホワイトリスト方式」を採用している点が大きな特徴です。
他のセキュリティソフトは基本的に同じ土俵で勝負をしている中、PC Maticは別の切り口からセキュリティリスクに対抗することを目指しています。
この記事では、PC Maticのコンセプトがセキュリティジャンルでどのように活きてくるのか、そのあたりを実機テストで確認していきたいと思います。

著者はPC Maticを数年前にも一度使用したことがあります。当時はまださまざまな箇所の熟成が不足している印象が強かったのですが、この何年かでPC Maticはどれぐらい成長したでしょうか。そのあたりもじっくりチェックします。
PC Matic プレミアムセキュリティの特徴
まずは、PC Maticが他のセキュリティソフトとどのように異なるのか?という点を中心に、特徴をまとめていきたいと思います。
コンセプトから異なるホワイトリストベース防護
PC Maticの公式HPでも強調されていますが、このソフトは防護の基本コンセプトに「ホワイトリスト方式」を採用しています。これは開発元が管理している「信頼できるアプリのリスト」を元に、デバイスで動作させるプログラムをコントロールするというものです。

プログラムのふるまいを監視したりすることで不正なアプリを検出するのではなく、あらかじめリスト化されたデータと照合して動作可能なソフトウェアをいわば「根元」で制御するといった内容ですね。
結果的に、セキュリティソフトのリアルタイムスキャンなどの干渉を最小化できますから、デバイスへの負荷を低く抑えて軽快な動作を可能にします。
エンジン独自開発
PC Maticが使うセキュリティエンジンは、同社オリジナルのものです。そのため、他社とは全く異なるコンセプトも容易に導入可能になりました。
ZEROシリーズが採用しているようなBit DefenderなどOEM的に他社が利用可能なエンジンもありますが、マルウェアに対抗するためのセキュリティソフト側の「多様性」を考えると、この製品のように独自エンジンを使ったセキュリティソフトの存在意義は大きいはずです。
機能は少なめ
PC Maticの機能は、昨今のセキュリティソフトとしては少なめにまとめられています。どちらかというと、旧来の「ウイルス対策ソフト」に近いイメージと考えた方が良いでしょう。
最近のセキュリティソフトの多くが搭載する、独自のセキュアブラウザ、VPN、パスワードマネージャー機能などのようなプラスαの機能は搭載していません。

基本的な防護機能に特化した、ある意味潔い製品と言えますね。
PC Matic利用者の口コミ
続いては、実際にPC Maticを利用しているユーザーの評判を、Twitterの口コミを参考にご紹介していきます。

良い評価・悪い評価とも2つほどピックアップしてみました。
良い口コミ
まずは、良い口コミからです。
PCMatic さすがにホワイトリスト型だけあって軽いな。というかブラックリスト型の無料系が重いのか
— hdtk (@_hdtk) March 13, 2021
やはり、PC Maticの「軽さ」を実感するユーザーは多いようです。
ホワイトリストでリスクを元から絶ち、通常動作状態でのセキュリティソフトの介入を最低限に抑えることで、トップクラスの軽快さを実現しています。
PCmatic使ってまーす
自分でホワイト/ブラックリストとか設定できるんでお気に入り— メιյɀʓ (@Meriel814) January 5, 2021
PC Maticではホワイトリストのデータベースが防護性能と使い勝手の善し悪しに直結しています。その部分の調整が行ないやすいのは、必須の機能で大きな利点にもなりますね。
悪い口コミ
続いては、悪い評価の口コミです。
pcmatic入れると、デスクトップアプリの開発だるすぎる。しゃーないけど
— ふぉくる (@focru_ino) June 17, 2021
こちらは、PC Maticがホワイトリスト方式を導入していることの副作用とも言える反応ですね。

ユーザーが開発する新規のアプリの情報はPC Matic社も持ち得ないため、難しい部分ではあります。
PCMaticがWindowsTermianl弾いてワロタw
— hdtk (@_hdtk) March 15, 2021
こちらも、ホワイトリスト方式ゆえのトラブルです。
Windowsターミナルはマイクロソフト謹製のほぼ公式ソフトウェアですから、この辺りには迅速な対応をして欲しいところです。

ただ、Windowsターミナルは現在もオープンソースでかなり速いスピードでの開発が行なわれ続けているため、バージョンアップ対応はそれほど簡単ではないかもしれません。
PC Maticは重い?動作の軽さと使い勝手を実機検証で評価
続いて、PCの実機を使ったテストでPC Maticの軽さ・使用感を検証していきます。
今回もテスト用のパソコンにはエントリークラスのノートパソコンを使用し、スキャンの性能、メモリ消費量、使用感を確認しています。

CPUはデュアルコアで1.8GHz動作のCeleron、メインメモリは4GB、内蔵ストレージはSATA3接続で250GBのSSDです。
スキャン性能
まずは、動作の軽さ/重さを確認するためにスキャン性能を確認していきましょう。
- 各種データ10GBほどを詰め込んだテスト用フォルダのスキャン
- PC全体のフルスキャン

2つのスキャンを実行して、Windowsセキュリティと性能の比較を行なっていきたいと思います。
カスタムスキャンの結果
まずは、様々な形式のデータ約10GBを含むフォルダをカスタムスキャンした結果を確認していきましょう。
↓↓PC Matic:3分43秒↓↓
↓↓Windows セキュリティ:49秒↓↓
カスタムスキャンの結果は、PC Maticの方がかなり余分に時間がかかりました。
ただし、実はPC Maticはカスタムスキャンにおいてファイルのスキャンだけを実行することができませんでした。オプション設定でファイルスキャン以外のチェックをすべてoffに設定したのですが、一部のオプション検査を止められず、この部分も処理時間の長さに影響しています。

設定が一部反映されていない点は、ちょっと気になりますね。
また、カスタムスキャンの実行はPC Maticの管理画面から行なう必要があります。スキャンのコマンドがWindowsの(ファイル)エクスプローラーにシェル統合されておらず、エクスプローラーの右クリックからは実行できません。

ダウンロードしたファイルをすぐに確認したときには右クリックメニューを使ってサクッとスキャンを実行したいところですので、この点に関しても改善を期待したいと思います。
フルスキャンの結果
続いては、フルスキャンの実行結果です。
↓↓PC Matic:40分46秒↓↓
↓↓Windows セキュリティ:38分26秒↓↓
フルスキャンは、PC Maticの方が若干遅い結果になりました。
ログには表示されていませんが、PC Maticの実行中の画面からはレジストリスキャンなどより詳細なチェックの実行が確認できました。この点は、安心感につながりますね。
さらにPCのベンチマークテスト、回線のチェックなど、本来のスキャン以外の内容までテストを行なっていました。この点は、確実に処理時間に影響を及ぼしているかと思われます。
メモリ消費量
メモリ消費量の少なさに関しては、非常に優秀な結果でした。
Windows セキュリティよりも最大で200MB~300MBぐらいは少ない感触で、ここまでにテストしたセキュリティ製品の中でも「最もメモリ消費量が少ない」と思われます。

フルスキャン実行中もメモリの消費量は小さく、他への影響はかなり少なくて済むはずです。
使用感
動作の軽さに関しても、かなり優秀です。他のセキュリティソフトと比較しても、トップクラスの軽さと言って良いでしょう。

ネットワークゲームも操作してみましたが、追従性などもかなり良好でした。メモリ消費量の少なさと相まって、非力なマシンでも使いやすいセキュリティソフトと言えるのではないでしょうか。
ただ、ちょっと気になる点もありまして、ダッシュボードの操作感が今一つです。一つ一つの機能を呼び出す際のレスポンスが悪く、機能によっては呼び出した内容の画面が表示されるまでに結構待たされます。
通常のデバイス利用時にセキュリティソフトのダッシュボードを呼び出す機会はそれほど多くはないと思いますが、この反応の鈍さは気になるところです。
PC Maticの防御性能について
何度か触れてきた様に、PC Maticは防護に関する基本設計思想が他のセキュリティソフトとは異なります。

そんなPC Maticの防護に関する特徴3点を、ピックアップして解説します。
ホワイトリストベースの防護システム
冒頭から触れている通り、PC Maticは「ホワイトリスト方式」を設計の基本コンセプトに据えた製品です。怪しいプログラムを「入り口で門前払い」することによって、セキュリティの確保を目指しています。
「稼働しているプログラムの挙動を監視する」「ダウンロードしたファイルをリアルタイムスキャンすることでマルウェアの検出を行なう」といった従来のセキュリティ製品とは、コンセプトが全く異なるのです。

PC Matic側が安全と確認済みのプログラム以外は動作をブロックされるため、高い安心性も備えています。ただし、後述するように未確認のプログラムははじかれてしまうというデメリットもあります。実際の利用者の口コミでも、この点は指摘されていました。
現在の基準では総合セキュリティソフトではない
PC Maticの機能は、シンプルです。
多くのメジャー製品が搭載しているような、ウイルス対策以外のプラスα機能(セキュアブラウザ、独自VPN、ペアレンタルコントロールなどの機能)は搭載されていません。
第三者機関の評価基準とは相性が悪い?
セキュリティソフトの評価を行なう第三者機関AV-TESTでの評価では、PC Maticの結果は今ひとつふるいません。

ただし、防護能力に関してはかなり安定した好成績を残しています。
防護能力以外の「ユーザービリティ」に関する成績の悪さについては、後ほどPC Maticのデメリットの項目で掘り下げたいと思います。
PC Maticのプランと料金
PC Maticの料金プランは、非常にシンプルです。公式HPには、合計2つのバリエーションしかありません。
違いは利用可能年数のみ。「1年」もしくは「永久」の2択。セキュリティソフトでは珍しい「買い切り型」のプランが用意されています。
利用可能な台数は5台固定で、こちらにはバリエーションが設定されていません。
価格
料金は、今のセキュリティ製品の中では平均的な数字になっていると思います。
【価格(税込)】
1年 | 5台 | 4,980円 |
無期限 | 5台 | 24,980円 |
ずっと利用できるプランの方は一見高めに見えますが、5年以上利用するようでしたら割安になりますね。
最初にインストールしたデバイス限定になるといった制約もありません。不要になったデバイスからアンインストールして、利用可能な台数を融通する運用が可能です。
PC Maticのメリット・デメリット

ここで改めて、PC Maticの特徴について、メリット・デメリットという観点から整理し直していきたいと思います。
他社のセキュリティソフトとは性格が大きく異なる製品ですから、必然的に他社製品とはおすすめの使い方なども異なります。
メリット
まずは、PC Maticのメリット2点から。
軽い
最も特筆すべきは、PC Maticの軽さでしょう。基本コンセプトである「ホワイトリスト方式」が、動作の軽量化に大きく寄与していると考えられます。
通常利用時はもちろん、MMORPGのようなネットワークで頻繁にこまめな通信を行なうようなリアルタイム性の高いゲームでも、とても優秀なレスポンスを発揮してくれています。

シビアなネットワークゲームのユーザーは、導入を検討する価値のある製品だと思います。
Made in U.S.A.
PC Maticは公式HPにおいて「ソフトウェアの開発を完全にアメリカ国内で行なっている」ことを表示しています。そして、その点を大きな強みとして発信しています。
多くの場合、規模が大きいほどソフトウェアの開発の一部は海外のソフトウェアファームに外注されますが、PC Maticはアメリカ国内の開発にこだわっているということですね。

ソフトの開発国が気になるユーザーにとっては、嬉しいポイントと言えるのではないでしょうか。
デメリット
続いて、PC Maticのデメリットのデメリットについても確認しておきましょう。
ホワイトリスト方式の限界
最大のメリットである「軽さ」を実現するホワイトリスト方式ですが、ホワイトリスト方式であるがゆえのデメリットも存在します。
実際、AV-TESTによる総合評価ではまだTOP PRODUCTに手が届いていません。
前述した様に、セキュリティソフトの基本性能である「防護能力」に関してはかなり高い得点を安定して獲得しているのですが、ユーザービリティ、プログラムの誤検出、誤動作ブロックなどの評価の点が伸びないのです。
PC Matic側が動作を許可したプログラムのデータベース(ホワイトリスト)に載っていないアプリなどは、基本的にすべて実行をブロックされます。
データベースの内容はマイクロソフトの公式アプリストアとも連動が取れていないようですから、Windows 10のストア アプリ経由でインストールしたアプリが実行できないといったケースも。著者もつい先日、マイクロソフトの公式アプリストアからインストールしたアプリが実行できない経験をしました。

防護のキーコンセプトとして非常に強力なホワイトリスト方式ですが、そこが使い勝手の上での弱点にもなっているわけですね。
ユーザーインタフェースの熟成不足
PC Maticのユーザーインタフェースは、著者が数年前に利用したときよりも飛躍的に成長しました。正直、インストール後の最初の起動では洗練度合いにすごく驚いたぐらいです。
ですが、まだ今日のセキュリティソフトの平均レベルには達していない感触です。
具体的には、文字サイズやアイコンなどのバランスがもう一つで、必要な情報に十分なスペースが与えられていない箇所があります。文字が小さすぎて見にくい箇所も。
日本語対応が完全とは言えない部分もあり、レイアウト崩れを起こしている画面もありました。そのレイアウトが崩れた画面のスクリーンショットが公式サイトのFAQページでもそのまま使われており、開発元がバグと認識していない可能性もありそうで、ちょっと気になっています。
また、前述したように、ダッシュボードのレスポンスがかなり悪い箇所があります。プログラムの仕組み的にダッシュボードは本当に表面だけの「シェル」で、機能を呼び出す際に背景で別プログラムを起動している?そんな感じの動きとなっています。こういった点も、改善を期待したいポイントですね。
細かい点としては、使っている用語が一般的な意味とは異なるケースが見受けられました。例えば、PC Maticの「ダッシュボード」は自動車の計器パネルの意味でのダッシュボードで、セキュリティソフトの機能全部にアクセスできる基本画面のことではありません。こいった部分も一般的なものに変更した方が、ユーザーの混乱は減るのではないでしょうか。
PC Maticはこんな方におすすめ
PC Maticは、現存するセキュリティソフトの中ではかなり個性的な製品と言えます。ユニークなコンセプトを持つ別系統のソフトウェアで、機能面においては非常にシンプルです。
そのため、どんなユーザーにもおすすめの製品とは言いにくいのですが、何よりも動作の「軽さ」を重視し、防護機能以外のセキュリティ機能を必要していない方には、魅力的な製品と言えるのではないでしょうか。

型の古いエントリークラスのパソコンなど非力なデバイスを利用しているユーザーや、シビアなネットワークゲームのプレイヤーなどは、導入を検討する価値があると思います。
こんな方には向いてないかも
PC Maticの機能範囲は従来の「ウイルス対策ソフト」に近く、プラスαの防護機能を持ちません。そのため、総合セキュリティソフトを求めるユーザーにはおすすめできません。
また、PC Maticは防護のキーコンセプトにホワイトリスト方式を採用する製品ですが、この特徴が「諸刃の剣」としてメリットにもデメリットにもなっています。非常に軽快な動作で堅固な防護を実現していますが、誤検出による動作ブロックで使い勝手には確実に悪影響を及ぼします。
このポイントが問題となるユーザーには、PC Maticはフィットしないでしょう。
まとめ
PC Maticを実際に使用してみて感じたのが、コンセプトだけでなく製品の仕上がり自体も他のセキュリティソフトとは大きく異なるといった点です。
無難に丸くまとめた製品ではなく、自社の特徴を突き詰めたセキュリティソフトと言えるでしょう。

万人におすすめできるソフトとは言えませんが、刺さるユーザーには非常に刺さる製品です。