この連載では、新潟大学 日本酒学センター編著の『愉しい日本酒学入門』(河出書房新社)から一部を抜粋し、日本酒の基本を学んでいきます。
今回は「淡麗と濃醇、うま味と雑味」です。以下、『愉しい日本酒学入門』から抜粋します。
淡麗は濃醇の反対?
淡麗は、すっきりしたきれいな味わいの意味で使用されていますが、昭和初期においては、味ではなく色や色沢など外見を表す用語でした。
「醇」には一字で味の濃い酒、コクのある酒の意味があり、いっぽう、味のうすい酒を表す漢字は「醨」です。
つまり「コクがあり濃い」の反対は「うすく水っぽい」になりますが、戦後、精米や醸造技術の進歩、醸造アルコールの使用などにより濃さはあまり感じないがすっきりとして好ましいと感じられる酒が生まれ、淡麗が使われるようになりました。
日本酒の味の濃さには、糖分、有機酸およびアルコールにくわえ、窒素成分が関係します。
日本酒は、ビールやワインに比べて米タンパク質に由来する窒素成分が多いことが特徴です。
日本酒中の窒素成分の約半分は遊離アミノ酸で、残りの大部分がペプチドです。遊離アミノ酸のうち日本酒の味に直接関係しているのはアスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、アルギニンの4種類と考えられていますが、これらのうち苦味を有するアミノ酸であるアルギニンの含有量は酒間の変動が大きく、醸造方法の違いが影響します。
また、ペプチドには強い苦味を有するペプチドがあり、精米歩合やお米の品種によって違いがあります。
日本酒にはうま味があるとよくいわれます。たしかにビールやワインに比べ窒素成分が多く、グルタミン酸もワインに比べ2倍から4倍ありますが、日本酒を複数きき酒して比較したさいに、うま味の程度に差があるかというとそうでもありません。うま味は全体の味の調和の中に潜んでいます。
純米酒とチキンブイヨンのアミノ酸や核酸の組成を比べると、アスパラギン、リジン、イノシン酸はチキンブイヨンにのみ検出されましたが、それ以外アミノ酸の組成や量はきわめて似ています。日本酒を使う鍋料理がありますが、鰹節、豚肉や鶏肉に含まれるイノシン酸がくわわると出汁として十分に機能する実力があります。
雑味は、すっきり、きれいな味と反対の、苦味とも渋味ともわからない不快な味です。アミノ酸度の値が高いと雑味が多いかというと、そうでもありません。
雑味には、酵母によるアミノ酸の代謝産物であるチロソールやトリプトフォール、米タンパク質由来の苦味ペプチド、米細胞壁由来のフェルラ酸などの苦味を呈する物質が関与しています。これらは濃度が低いところでは日本酒のコクや巾として感じられ、濃度が高くなるにつれ雑味、さらに苦味として感じられると考えられています。