カスタマー・ハラスメント(カスハラ)が、企業経営に深刻な影響を与える社会問題となっています。大手企業を中心にカスハラのガイドラインを公表する動きが広がり、厚生労働省もカスハラ行為の定義や防止対策を企業に義務付ける方針を公表するなど、官民一体での取り組みが進んでいます。
本連載では、カスハラの基礎知識から、最前線のAI技術を活用した対策までを詳しく解説します。前回の記事では、AIを活用したカスハラ分析の手法や具体的な施策への活かし方について紹介しました。
今回は、企業がカスハラ対策にAIを導入する際のポイントについて紹介します。
カスハラ対策にAIを導入する際に注意するポイントとは?
近年、企業の顧客対応にもAI活用が広がっています。これまでは主にAIがテキストで回答するチャットボットが活用されてきましたが、今後は音声技術の発展に伴い、AIと声でやり取りできるボイスボットの導入が主流になると考えられます。特に、非対面での顧客対応が求められるコールセンターでは、ボイスボットによる業務の無人化は、カスハラ対策としても注目を集めています。
企業がAIを活用したカスハラ対策を進めるためには、個人情報保護、運用フローの整備、リスク管理の3つの要素を徹底することが重要です。
個人情報保護の徹底
企業がAIを活用する際に最も注意すべき点の一つが、個人情報の適切な取り扱いです。新たにボイスボットなどのシステムを導入する際には、情報漏洩を防ぐために、個人情報保護法をはじめとする関連法規を遵守し、情報の取得方法や保管方法、アクセス権限の管理といった適切な管理体制を整備することが不可欠です。そして、万が一情報漏洩が発生した場合の対応策も事前に準備しておく必要があります。
また、近年問題視されているのが「なりすまし」です。顧客情報を不正に取得した第三者が、本人を装って問い合わせを行うといったケースが増えています。こうしたリスクに対応するため、音声認証や生体認証などの技術を活用し、本人確認の精度を高めることが重要です。さらに、個人情報保護に関する従業員への定期的な研修や教育も不可欠です。
運用フローの整備
AI導入を「一部の業務の自動化」と捉えるのではなく、業務全体の流れを見直すことが成功の鍵となります。
例えば、飲食店の電話予約にAIボイスボットの自動対応を導入する場合、予約受付だけでなく、その後の予約管理(顧客へのリマインド、予約内容の変更、キャンセル等)の方法やネット予約との連携など、全体の運用フローの見直しが発生します。例えば、これまでノートに手書きで予約を記載していた店舗の場合、AIはノートに書き込むことはできないため、ボイスボットで対応した予約情報との連携が課題になります。
また、現場の混乱を避けるために、従業員がシステムを円滑に活用できるようにマニュアルを整備し、必要に応じてトレーニングを実施する必要があります。AI導入後は、実際の運用から得たフィードバックを継続的に取り入れ、改善を進めることで、システムの定着を促します。
リスク管理体制の構築
AIは非常に便利なツールですが、トラブル発生時の備えがなければ業務が停止するリスクもあります。 例えば、予約受付を全てAIボイスボットで対応する場合は、ボイスボットが突然停止してしまった際の対応策を考えておく必要があります。具体的には、バックアップシステムを用意したり、手動での対応に切り替えるなどが考えられます。 また、定期的な監査やシステムの点検を行い、問題を早期に発見し対処できる仕組みを整えることが重要です。
加えて、AIの判断基準や処理ロジックに偏りや誤りがないか、定期的な検証・見直しを行うことも重要です。
次回は、カスハラ対策に留まらないAI時代における未来のコールセンター像について考察します。