Google搭載のクルマが増えている。日本で買えるクルマで言えばボルボが積んでいるし、ホンダは「アコード」に搭載している。日産自動車は今度の新型「リーフ」にGoogleを入れるそうだ。Google搭載車について疑問に思っていたことをホンダのアコード開発陣に聞いてきた。
Googleをクルマに積むと何がどうなるのか
スマートフォンをクルマにつないで「Apple CarPlay」か「Android Auto」を使えば、ナビ画面で「Googleマップ」を見たりなど、スマホと同じような機能を車内で使えるのは一般的になりつつあるが、「Googleビルトイン」のクルマは、スマホをつながなくても最初からGoogleが入っている。ナビはGoogleマップだし、対話形式の「Googleアシスタント」も使える。Googleアカウントでログインすれば、スマホで使っているGoogleマップの履歴をクルマと共有できるので、目的地入力がかなり楽になる。とにかく、スマホをつながなくてもクルマでGoogleのサービスが使えるのは便利だ。
先日、Googleビルトイン搭載車「アコード」についてホンダの技術者に話を聞く機会があった。Googleをクルマに積むことについてはいろいろと知りたいことがあったので、せっかくなので聞いてきた。
なぜGoogle搭載ホンダ車は増えていかない?
ホンダがアコードにGoogleを搭載したのは2024年4月に日本で発売になった現行型から。その後、ホンダのラインアップでGoogle搭載車が増えていかない理由は?
ホンダ技術者によると、ラインアップ拡充は検討しているものの、Googleは「ポンづけ」できるようなものではなく、エアコンなどクルマ側のシステム・機能とつないだり、車種とのマッチングも確かめなければならないため、急には増やせないそうだ。
Googleビルトインはお金がかかる?
Googleビルトインのクルマは、1台売れるごとにGoogleにいくらか支払う必要がある? 契約まわりについても気になっていたので聞いてみると、大体のところはこんな感じの答えが返ってきた。
「クルマによって大体の『マス』がありますよね? 例えば1万台であれば、ソフトウェアの変更などがあったときに、Googleさんも1万台に対して対応しなければなりません。(契約は)ホンダとしてはこれくらいの規模で考えています、という形で行っています」
具体的なことはわからなかったのだが、この話からするとおそらく、クルマの販売規模(の想定)に応じ、先んじて全体的な契約をしているものと思われる。歩合制のように、1台につきいくらという感じで支払っているわけではないようだ。
販売規模の大きいクルマにGoogleを搭載すると支払いも増える?
これについては「値段が上がることもありますし、共用できる部分があるという意味では安くなるところもあります」との答えだった。
自前で開発するのとGoogle搭載、どちらが高コスト?
ホンダが自前で全てのインフォテインメントを作るのとGoogleを積むのとでは、どちらがコストがかかるのか。Googleを積む分、余計にお金がかかるのか、それとも、Googleに任せられるところは任せてしまえば、ホンダとしては人件費を浮かせたり、リソースをほかに回せたりするのだろうか。
このあたりについてホンダの技術者は、「作業する側としては変わらない部分もあるんですけど、少なくとも、自社ナビの開発に携わっているメンバーや彼らの時間というものがあって、それをGoogleさんにお願いできれば、助かる部分はあります。地図のメンテナンスを自社で行うといっても、毎日はできないですしね」と話していた。
アコードのGoogleマップはスマホで見るGoogleマップと基本的には同じだ。ホンダがメンテナンスをしなくても、情報は常に最新ということになる。考えてみれば、地図のメンテ作業をホンダの社員(あるいは外注?)が行うのは非効率な感じがする。ナビの地図をGoogleマップで代用することにはコスト的なメリットもありそうだ。スマホで慣れている身からすれば、ナビがGoogleマップだと使いやすいのは確かだ。
Googleビルトインと自社開発のどちらが高コストなのかはさすがに判明しなかったものの、Googleを使うことで、ホンダ側が他のこと(例えばインフォテインメント関連の車両側の開発など)にリソースを回せるという側面はあるようだった。
SDV開発が熾烈に! Google搭載は有利か不利か
最近、自動車業界では「SDV」(Software Defined Vehicle)の開発競争が激しくなっていると聞く。SDVが当たり前になると、クルマを買う側がインフォテインメントを含むソフト面の良し悪し、好き嫌いでクルマを選ぶような事態も起こりうる。
そうなった場合、Googleビルトイン車は有利なのか、不利なのか。Google搭載車のSDVとしての魅力は、Googleの魅力であってホンダの魅力ではない、ということになりはしないだろうか。Googleではなく、ホンダならではのインフォテインメントを積んでいた方が、ホンダのSDVとして個性をアピールできそうな気がするのだが……。
これについては、「全てを自社でやると、マンパワーや工数の問題で厳しい」という部分もあるそうだ。例えば地図を作るのに手がかかりすぎて、「それ以外の新しいことに手を付けるのはなかなか難しい」ということもあるという。
念のためにお伝えしておくと、ホンダのGoogleビルトイン搭載車には、ホンダ側の知見がかなり入っている。一例をあげると、音声認識では、音を拾って聞き分けるというマイクの性能の部分は、ホンダが主体性を持って開発しているそうだ。例えば、クルマの走行中の騒音がある中でも正確に声を聞き取る、といったような技術にはホンダならでは知見が入っている。
ホンダの話を聞いていると、Googleビルトイン搭載車とはいっても、Googleの機能やサービスを使っているだけで、主体的に方向性を決めているのはホンダである、といったような感じを受けた。真相はわからないものの、クルマのインフォテインメント分野をGoogleが牛耳っていく、ということには、おそらくならないのではないかという気がした。
GoogleのAI「Gemini」は使えない?
アコードでは「Googleアシスタント」が使えるものの、さらに高性能なGoogleのAIアシスタント「Gemini」(ジェミニ)は使えない。同じくGoogleを搭載しているボルボのクルマでは、そのうちGeminiが使えるようになるとのアナウンスがあった。
アコードの「Googleアシスタント」は聞き取り能力が優れているので、ついつい話しかけたくなってしまうのだが、「聞き取れてはいるものの、意味は理解できていない」というようなケースがけっこうあった。
例えば、「シートヒーターを付けて」などのクルマ関係のコマンドにはしっかりと対応してくれたし、ナビの目的地設定も問題なかった。「御殿場って何県?」という質問には、ネット検索をしたような感じで答えてくれた。「スライ & ザ・ファミリー・ストーンかけて」に対しては、「曲を」とも言っていないのに、Spotifyで探して再生してくれた。それなのに、「徳川家康ってどんな人?」「ホンダってどんな会社?」については、しっかりと聞き取ってはくれたものの、答えてはくれなかった。
Googleアシスタントの応対はこんな感じ
ホンダによると、GoogleアシスタントはGeminiとは違って「回答できることは絞られてしまう」とのこと。例えば天気の話や地域の話、「しりとり」などには対応可能とのことだ。「以前は『本田宗一郎ってどんな人?』に答えられなかったのですが、これについては私がGoogleアシスタントに毎日話しかけて、学習させました」と担当者。AIとして学習していく機能も備わっているらしい。