アメリカで日本車はたくさん走っているのに、日本でアメ車は走っていない――自動車関税の話題が盛り上がる中で、米国のトランプ大統領はこんな趣旨の発言を行った。この発言に対し、「アメ車が日本で人気がないのには理由がある」「日本で売ろうという工夫をしていない」などの反論が続出したのは記憶に新しいところだ。
「日本でアメ車は不人気」というのは本当なのか。アメ車は日本で乗るのに不向きなクルマなのか。ユーザーの生の声を聞くべく、シボレーのファンイベントに潜入した。
アメ車が不人気な理由は?
トランプ大統領は就任して以来、「アメリカ国内で日本車は人気だが、日本国内でアメ車は人気がない」「日本でアメ車をもっと販売したい」などと発言し、物議を醸している。
そもそも、なぜ日本でアメ車があまり売れないのだろうか。筆者が報道などで見聞きしたところによれば、「アメ車のほとんどが左ハンドルばかり」「日本の道路事情には適さないビッグサイズで取り回しが悪い」「日本車よりも燃費や税金などのコストが高い」などの理由が挙がっていた。日本のアメ車オーナーたちは、昨今のこうした報道をどう思っているのだろうか。
GMジャパンがイベントで初公開した「コルベット イエロージャケットエディション」(左)と「コルベット Z06 コンバーチブル」(右)の2モデル。どちらも「右ハンドル」だ。「カッコわるいから日本で売れないのでは?」とお考えの方は、写真をよくご覧いただきたい
全国からコルベット&カマロが大集合!
今年で5回目の開催となる「シボレーファンデイ2025」には、シボレーの代表車種である「コルベット」と「カマロ」を中心に235台の車両と400人を超えるファンが全国から集まった。
会場では「サーキット走行」「パレードラン」「キッズカート」などさまざまなイベントが開催されていた。来場者がエントリーした自慢の愛車を対象とする人気投票「コンクールデレガンス」には、ガチガチに武装したクルマからカラフルなクルマまで、多種多様な装いのシボレー車が参加。自身の愛車で富士スピードウェイのサーキットを走行できるイベントでは、参加者が快音を響かせてコースを周回していた。
『トランスフォーマー』きっかけでカマロにハマった20代
日本でアメ車に乗るのは、実際のところどうなのか。まずは、第6世代カマロ(2017年式)のオーナー南澤さん(20代)に話を聞いてみた。
「もともとクルマに興味はありましたが、アメ車好きというわけではありませんでした。きっかけは映画『トランスフォーマー』に出ていた黄色のカマロですね。あれを見て買おうと決心し、中古で購入しました。カマロは他の人とあまり被らないので優越感があります。アメ車には、乗っていて楽しい反面、燃料代が高いことや、修理のときに部品があるのか、すぐに届くのかという心配があることも確かです」
乗っていて困ったことは?
「このカマロに関していえば、取り回しもいいですし、アメ車だから困るということは特にないですね。ただ、左ハンドルなので、駐車場に入るときに、パーキングチケットを取りにくいというのは難点です。いつも助手席の同乗者に取ってもらっています」
南澤さんは大きなトラブルもなく快適なカマロライフを楽しめているようで、昨今の報道についてはほとんど気に留めていない様子だった。
日本人のアメ車に対するイメージは古い?
次に話を聞いたのは、ご子息と一緒に神戸からいらっしゃったという60代のコルベットオーナーだ。コルベットに乗り始めたきっかけは?
「私は生粋のアメ車ファンというわけではありませんが、クルマは好きで、以前はスカイラインやメルセデス・ベンツなどに乗っていました。ただ、第7世代のコルベットが好きで、試乗して購入を決意し、2年間お金をためて手に入れました。通勤用として乗っていたダイハツ・コペンを下取りに出して、新車で購入しました。約1,100万円くらいだったと思います。アメ車であれ軽自動車であれ、歴史があり、こだわりをもって作られたクルマは楽しめると思います」
昨今の報道については次のような意見を聞かせてくれた。
「左ハンドルばかりとはいっても、コルベットやカマロが好きなコアなアメ車ファンの中には、左ハンドルであることをむしろステータスだと捉えている方が多いと思います。ただ、最近は、右ハンドルの方が日本では便利だよねという風潮が、コアなファンの間にも広がっているとも感じます。右ハンドルの方が買いやすいのは間違いないでしょうね」
アメ車は大きすぎて苦労する、という意見については?
「車体の大きさを懸念する人もいるかもしれませんが、このコルベットに関していえば、さほど大きいとは感じません。これよりも大きな日本車はたくさんありますしね」
では、アメ車に乗っていて困ることは?
「維持費が高いことですかね。このコルベットは総排気量6,000ccを超えるので税金は毎年11万1,000円(排気量に応じて課税される自動車税の最高クラス)です。そこは、もう少し下げてほしいですね。燃費については、ハイブリッド車などと比べれば悪いかもしれませんが、高速走行では1リッターあたり11~13kmは走るので、十分だと思います。細かいトラブルなどはありますが、走りに深刻な影響を与えるような故障は一度もありません。満足しています」
意外に燃費がいいんですね……。
「トランプ大統領が言う『アメ車は売れていない』というのは事実でしょうが、日本人がアメ車に対して抱いているイメージも、少し実態とずれているのではないでしょうか。例えばアメ車は壊れやすいとか、質が悪いとか、『直線番長』だとかいったようなことは、まったく当てはまらないと思います。走りに関していえば、しなやかでコーナリングもスムーズです」
実際にアメ車に乗っている人の話を聞いて思ったのは、一般的なアメ車に対するイメージが古すぎるというか、アップデートされていないのでは、ということだ。フワフワした乗り心地で壊れやすく、燃費はすこぶる悪いというようなイメージは、実は固定観念なのかもしれない。
「シボレーファンデイ2025」を取材して感じたのは、会場全体が和やかな雰囲気に包まれていたということ。現状、シボレーが日本国内で正規販売しているのはコルベットの1車種のみだが、「シボレーはどうなってしまうの?」といったような危機感はなく、来場者たちはとことん楽しんで、ただ「好き」を突き詰めているように見えた。
コルベットやカマロから降りてくるオーナーが思っていた以上に若いことも印象的だった。カマロ購入者の約3割が20代(映画の影響が大きいものと思われる)というのも納得だ。
アメ車の良さはオーナー自身が一番よくわかっている。その良さを多くの日本人に伝えられれば、もっと売れるはずだ。そのために、こうしたファンイベントを通じて、インポーターとオーナーが一丸となって、アメ車の良さを広めようとしているのではないかと感じる取材だった。