日産自動車が海外で販売している大型・本格クロスカントリーモデル「パトロール」が日本に入ってくるかもしれない。というのも、日産が同モデルのメディア向け試乗会を日本で実施したからだ。どんなクルマなのか、実際にテストコースを走ってきた。
パトロール=サファリが日本から消えた理由
パトロールは日産が輸出専用に生産している大型・本格クロスカントリーモデル。中東では「パトロール」、北米では「アルマーダ」(とインフィニティ版の「QX80」)として確固たる人気を獲得している。日本では、1980年の3代目から5代目(Y61系)までを「サファリ」の名前でラインアップしていた。
先代のY62系(2010年~)がなぜ日本でカタログ落ちしたかというと、当時はミドルサイズまでのスポーティーなクロスオーバーSUVが販売の主流になっていて、サファリ(=パトロール)のようなガチガチのオフローダーは不採算モデルだと認定されてしまったからだ。
一方、大排気量(5.6L)で協力なV型8気筒エンジンを搭載し、大きなボディと豪華な室内を併せ持つY62は、特に中東の王族や富裕層たちに「King of Desert」(砂漠の王様)と称されるほどの圧倒的な人気を博しており、海外では日産のフラッグシップSUVとしての地位をキープしている。その後継モデルが今回の新型(Y63型)というわけだ。
小山のようなボディを走らせるエンジンは?
新型のボディサイズは全長5,350mm、全幅2,030mm、全高1,945mm。横に立つと、まるで小山のように大きい。ただし余計なゴテゴテがなく、直線的でシンプルなラインで構成された四角いボディは、大人の目を満足させるとても好ましい仕上がりだと感じる。
そのエンジンルームに収まるのが、最高出力425PS、最大トルク700Nmを発生する排気量3.5Lの新開発V6ツインターボガソリンエンジン「VR35DDTT」型。先代が積んでいた5.6LのV8エンジン「VK56VD」型のダウンサイジングターボ版であり、「フェアレディZ」が搭載する「VR30DDTT」型のロングストローク版であるともいえる。ダウンサイジングとはいえ、先代に対してパワーで7%、トルクで25%ものアップを果たしているので、性能は全く問題なしだろう。
新型エンジンらしく、電動吸気VVT、左右バンクで対象に回転するツインターボの改良、直噴システム、高速燃焼とミラーボアコーティングなどにより、燃費を市街地で17%、高速で10%、トータルで14%改善できたという。騒音レベルを4db低減することにも成功したそうだ。
さらには、あの「GT-R」譲りの技術も投入。どんな状況でもオイルを絶えず循環できる「スカベンジングオイルポンプ」がそれで、GT-Rが高速でサーキットを周回する際の強烈な旋回Gに対応するために搭載しているのに対して、パトロールは縦横ともに45度近い傾斜地の走行を可能にするために使用しているという。いかなる状況でも“生きて帰る”ことを実現するという、本格モデルらしい性能を備えたクルマなのだ。
王様気分を味わえる豪華なインテリア
インテリアはベージュやレッドのレザーをフルに使用した豪華なしつらえ。シートの背もたれや膝の部分には立派なダイヤモンドステッチが施されていて、これなら砂漠の王様に愛されること請け合いだ。3列目シートやラゲッジまで、十分なスペースが確保されている。
装備面では先進のカメラシステムを使用した機能がイチ押しで、「インビジブル・フードビュー」ではボンネットの真下の状況やタイヤ位置を走行中でも映し出すことが可能。「このポイントにタイヤを持って行って駐車したい」と思えば、大きなボディであっても簡単にそれが行える。
「ウルトラワイドビュー」は、グリル先端に取り付けたワイドカメラが映し出す画像によって、肉眼では見えない死角から現れる車両や自転車などが事前に確認できるというありがたい機能。例えば毎日通る交差点を地点登録しておけば、そこを通過するときに自動的に画面が立ち上がる。大きなボディでありながら、機能面では“かゆいところに手が届く”細かい配慮が満載だ。
助手席に乗り込んでクルマに付いて説明してくれたのは、商品企画本部 チーフプロダクトスペシャリストのアントニオ・ロペス氏。「Google Automotive serviceを搭載しているので、地図や音声認識はいつも最新です。さらにこんな装備もありますよ」と紹介してくれたのが、ヘッドコンソール手前に装着した赤外線センサーで乗員の体温を検知し、適切な室内環境を作り出すという「バイオメタリック クーリング」というシステムだ。灼熱の砂漠での走行には欠かせないものだし、近年は猛暑が続く日本でも(発売されればだが)嬉しい機能に違いない。
「フラッグシップ」らしい走りなのか
今回のテストドライブに登場したのは、22インチタイヤとエアサスを組み合わせたトップモデルの「プラチナム」と、20インチタイヤにコイルスプリングの「チタニウム」の2台。コースを走ることができたのはチタニウムの方だった。シフトは最近の日産車らしくボタン式で、丸いダイヤルを回して走行モードを選ぶというオーソドックスで分かりやすい仕組みだ。
短い試乗時間だったが、フル加速時にはビートの効いたV6のエンジンサウンドが聞こえてきて、ちょっとGT-Rを走らせているような感じに。かなりの高速域まで軽々と車速を伸ばしていった。ラダーフレームにありがちなユサユサ感がなく、ドーンとまっすぐに走ってくれるのが印象的だった。
筆者は30年ほど前、サウジアラビアの首都リアドからカフジ油田の施設まで、片道約500kmを4WD車(車種は忘れてしまったが)に乗って取材に出掛けたことがあるのだが、その時に走った真っ直ぐに伸びる砂漠の道路を、今回の新型パトロールに乗って超高速で駆け抜けることができたなら、どんなに気持ちいいだろうと感慨にふけってしまった。
実はこのパトロール、日本国内(日産車体九州)で生産していて、豪州向けに右ハンドル仕様も製作する予定だという。となると、日本発売のハードルはかなり低いということになる。そのサイズ感からして大量に売れるクルマではないけれども、ぜひ日産のフラッグシップとして日本の道路を走ってもらいたいと思った。