クルマは急速に電気自動車(EV)に移行していく――という見通しは今や鳴りを潜めた。EV化は避けられないものの、ここからしばらくは「ハイブリッド車」が市場の大半を占める、というのが大方の見方だ。ところで、日産のハイブリッドといえば「e-POWER」だが、次世代型(第3世代)の完成度はどうなのだろうか。「キャシュカイ」の試作車で試してきた。
e-POWERの弱点とは?
日産自動車のハイブリッドシステムである「e-POWER」は、エンジンで発電し、100%モーター駆動でクルマを走らせるというシンプルなシステムだ。「シリーズハイブリッド方式」と呼ばれる仕組みである。走行時にはまるでEV(電気自動車)のような滑らかな加速を見せてくれるので、「ノート」や「セレナ」などのe-POWER搭載車は、日本のユーザーにしっかりとアピールできるモデルに仕上がっていた。
一方で、高速走行の多い欧米では、燃費がイマイチ伸びてくれないことから(高速走行ではエンジンで走る方が効率がいいので)、そこさえ改善できれば、というウィークポイントがあったのも事実だ。
今回、日産のテストコースである「グランドライブ」(追浜工場に併設)で試乗できたのは、欧州向けに発売予定の「キャシュカイ」(試作車)だ。第2世代e-POWERを搭載する現行型と最新の第3世代e-POWERを初採用する新型を乗り比べるという趣向だった。
第3世代e-POWERは2026年に、北米向けの「ローグ」と日本向けの新型「エルグランド」に搭載予定だというから、日産は絶対的な自信を持って試乗会を開催したはずだ。
e-POWERの何が変わった?
第2世代(現行型)e-POWER用のエンジンは、通常のガソリン車でも使用できるよう設計されていて、アイドリングや発進加速のレスポンス、高出力運転時のパフォーマンスまで幅広く対応する必要があり、発電専用エンジンとして考えた場合は、ある意味で「がんばりすぎ」な部分があった。
一方、第3世代の1.5L 3気筒エンジンは発電特化型として設計されていて、混合気を強力なタンブルで一気に素速く燃焼させる「STARC」(Storong Tamble & Appropriately stretched Robust ignition Channel)燃焼やミラーサイクル、ロングストローク、低フリクション、大型ターボ(従来型は可変式VCターボ)を採用している。最も効率が良い点を集中的に使えるエンジンとすることで、燃費競争に勝てるようなアプローチを取っているのだ。具体的には高速で15%、平均で9%も燃費が伸びるというから、ライバルともしっかりと勝負できそうだ。
もうひとつのトピックは、モーター、ジェネレーター、減速ギア、増速ギア、インバーターという5つの要素をひとつにパッケージングした「5 in 1」システムとすることで、ユニット全体の剛性が約60%アップしたこと。これにより、エンジンが始動してもユニットの共振が回避でき、室内騒音レベルは5.6dbも低減することができたという。
乗り比べた結果は?
試乗は赤いボディの第2世代、シルバーボディの第3世代の順番で行った。
第2世代e-POWER搭載車は、国内用のノートやセレナに何度も乗っているので、初めて乗るキャシュカイでも違和感なく走らせることができた。車外の走行音などに合わせてエンジンが始動するシステムもうまく作動していて、注意していなければ「ビィイイーン」という3気筒のエンジン音に気付かないことがある、というレベルだ。
これでも十分に満足なのだが、第3世代を試してみると、もう後戻りはできないという気持ちになった。クルマ全体の高級感がアップしたかの如く、静かで滑らか、かつかっちりとした走りに変身していたのだ。
アップダウンがあるコーナリングのシーンでは、スッキリとした操舵フィールが味わえる。「ああ、いいクルマに乗ってるな」という印象だ。「e-Pedal」を積極的に使用してやれば、踏み替えなしのちょっとしたスポーツ走行まで楽しめる。
試乗時間が短かったので燃費の差があるのかどうかまでは確かめることができなかったのだが、とにかく、第3世代e-Powerの仕上がりは良さそうだ。キャシュカイ自体も、「なぜ日本で売らないの?」と思うほど出来がいい。
話は飛んでしまうのだが、先ごろ発表された「マイクラ」をe-POWER化し、今回のキャシュカイ、前出のパトロール(サファリ)と合わせて小、中、大のラインアップを日本でそろえてくれれば、結構いい線いきそうなのに……。そう思っているのは筆者だけなのだろうか。