日銀の利上げを受け、住宅ローンの金利も上昇傾向となっています。金利が上がっていくと返済額が増えていくので、マイホーム購入のハードルが一段と高くなります。「将来返済できなくなるかも…」と心配するくらいなら、賃貸で暮らした方がいいと考える人は少なくないと思います。
そこで、長年の議論のテーマである「持ち家と賃貸どちらがお得?」問題を金利上昇局面で考えてみたいと思います。
金利上昇、物件価格上昇でマイホームのハードルが上がっている
大手銀行5行は6月、10年物国債利回りの上昇を受けて、10年固定の住宅ローン金利を引き上げています。変動金利は6月は据え置きとなったものの、昨年のマイナス金利解除から、基準金利は0.5%程度上昇しています。
日銀が金利引き上げに前向きであることから、これから住宅を購入する人は、金利が高めの全期間固定金利を選択するか、金利上昇リスクを考慮して、購入可能な物件を探す必要があります。
しかし、肝心の物件価格は高騰しています。不動産経済研究所よると、2025年4月の首都圏の新築マンションの平均価格は約7,000万円となっており、東京 23 区のダウンなどにより 3ヵ月ぶりの下落となりましたが、東京23区以外は前年同月よりも上昇しています。
不動産価格の値上がりは、建築資材の高騰や人出不足による人件費の上昇、さらに日本でもインフレが本格化してきたことなどが要因となっています。将来的にこうした傾向は続くとみられるので、今後も新築物件の価格は上がっていくでしょう。
新築物件が上がれば、連動して中古物件も値上がりするので、マイホームの購入自体が厳しくなってきます。そうなると、リスクを冒して家を買うよりも賃貸で暮らしていく方がいいと考える人が多くなってきます。しかし、賃貸にもリスクがあります。次項では金利上昇が賃貸に及ぼす影響について解説します。
金利上昇によって家賃も上がる
住宅ローンを利用している人にとって、金利上昇は月々の返済額や総返済額が増えるので、大きなリスクとなります。しかし、それは住宅ローンを利用して家を購入した人だけの問題ではありません。賃貸物件もオーナーがローンを組んで購入しているものなので、金利が上昇すれば、返済額が増えるため、いずれ家賃の値上がりという形で転嫁されます。
また、一般的に金利が上昇すると、不動産価格は下落すると言われています。これは金利の上昇によって返済負担が増えるため、住宅購入の需要が減少し、それによって価格が下落するという図式です。住む家は当然確保しなければならないので、購入派が減れば、賃貸派が増えることになり、賃貸物件の需要が増えれば家賃は上昇していきます。
このように金利上昇は家賃の上昇要因にもなるので、「賃貸」を選択しても同じようにリスクとなることがわかるでしょう。
「持ち家」と「賃貸」どちらが得か
どちらもリスクがあるのであれば、改めて「総支払額」で比較してみたくなりますね。これについてはいろいろなところで試算されていますが、ここではざっくりと5,000万円の物件を購入した場合と家賃15万円の物件に住み続けた場合の35年間の総支払額を比較してみます。
持ち家
頭金500万円、借入額4,500万円、金利1.5%、35年返済
- 初期費用:頭金500万円、諸経費250万円
- 総返済額:5,817万円
- 管理費・修繕積立金:月3万円(35年間:1,260万円)
- 固定資産税:635万円(35年間)
→総支払額:8,462万円
賃貸
35年間で2回引っ越しをする
- 初期費用:30万円(敷金・礼金)×3=90万円
- 家賃:15万円(35年間:6,300万円)
- 管理費:1万5,000円(35年間:630万円)
- 更新料:2年に1回15万円(15回:225万円)
- 引っ越し費用:20万円×2=40万円
→総支払額:7,285万円
持ち家の35年間の総支払額は8,462万円、賃貸の35年間の総支払額は7,285万円となりました。この時点で賃貸の方が1,177万円支払額が少ないものの、資産は何も残りません。
一方、持ち家の場合は、35年ですべての返済が終わり、購入時に5,000万円だった物件が資産として残りました。35年経過したことで、物件価格が半分になったとしても、賃貸と比較して1,323万円得していることになります。
さまざまな要因によって結果は異なる
賃貸の場合は、支払った金額はすべてコストとして消えますが、持ち家の場合は、資産として残るので、その点では持ち家の方が有利です。ただし、上記の試算はあくまでも一例であり、実際は、さまざまな要因によって結果は大きく異なります。
想定以上に金利が上昇して、返済額が膨れる、物件価格が下落してオーバーローンになる(物件の売却額よりもローン残高の方が多い)など、持ち家ならではのリスクもあります。
また、試算結果から、それほど大きな差ではないこともわかるでしょう。ちょっとした要因でいくらでも結果が変わります。そもそも、持ち家と賃貸の比較は損得だけで判断できるものではありません。家に何を求めるかの方が重要だったりします。
柔軟性を求めるなら賃貸の方が適しているし、住み心地だったら持ち家の方が上回るかもしれません。損得よりライフスタイルや価値観を重視した方が結果的に満足できるのではないでしょうか。
「持ち家」と「賃貸」それぞれのメリット・デメリット
支払総額での比較は、人生の最後にならないと結果は出ません。それよりも、住居としての快適さ、利便性、ライフスタイルとマッチしているかなど、主にメリットの部分と、それを選択することでのリスクを把握しておくことが重要です。
持ち家のメリット・デメリット
<メリット>
- 自由にリフォームができる
- インフレになった時に自宅は「現物資産」となり有利になる
- 住宅ローン控除が受けられる
- 生命保険代わりの団体信用生命保険(団信)に加入できる
- 終の棲家が得られる
<デメリット>
- 購入時の費用負担が大きい
- 住み替えが容易にできない
- 金利変動の影響を受けやすい
- 固定資産税や修繕費がかかる
賃貸のメリット・デメリット
<メリット>
- 転勤や家族状況の変化による住み替えが容易にできる
- 固定資産税や修繕費が不要
- メンテナンスが不要(管理会社やオーナーが対応)
<デメリット>
- 資産として残らない
- リフォームができない
- 年金生活になった時に家賃負担が重くなる
- 高齢になると家が借りにくくなる
賃貸は「掛け捨て」、持ち家は「積み立て」
保険の種類に例えて、賃貸は「掛け捨て」、持ち家は「積み立て」とよく言われます。この考え方に立てば、資産形成になる積み立て(持ち家)の方が有利に思えるかもしれません。実際のところ、老後に自宅を所有していることは、今の価値観では大きなアドバンテージです。
しかし、今後もそれがアドバンテージになるかはわかりません。少子高齢化に伴う人口減少により空き家が増え、この問題はますます深刻化しています。
令和5年住宅・土地統計調査によると、総住宅数のうち空き家は900万戸、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%と過去最高となっています。これは7戸に1戸が空き家という計算です。
築40年、50年と年数を重ねた自宅が、老後において資産としての価値を持ち続けられるのかは、疑問が残るところです。
そこで、「都心の物件だったら問題ないのでは?」と考える人がいるでしょう。しかし、都心のマンションでは、別の問題が発生します。それが、マンションの老朽化による建て替え問題です。
2023年末で、築40年以上のマンションは約136.9万戸存在し、国土交通省の推計によると、10年後には約2倍(274.3万戸)、20年後には約3.4倍(463.8万戸)に増加すると見込まれています。一方で、マンションの建て替えのハードルは高く、2024年4月時点で立て替え実績は約2.4万戸と極めて少ない状況です。
その背景には、住民の高齢化によって管理や合意形成が難しいことや、経済的に余裕のない世帯が多く、大規模修繕や建て替え費用を負担できない現実があります。実際、建て替えには多額の費用がかかるため、年金生活者が多い中で、住民にその負担を求めるのは容易ではありません。
そうなると、建て替えされずに放置されるマンションが増えていくことになります。そうしたマンションは売るに売れず、資産価値はないに等しい状況になるかもしれません。
購入時に多額の住宅ローンを組んでも、40年後、50年後の資産価値がどうなっているかは現時点でわかりません。持ち家は資産形成になるからと過剰な期待はしない方がいいのかもしれません。それよりも暮らしの満足度や快適さといった点を重視するほうが賢明かもしれません。たとえ将来的に資産価値がなくなったとしても、長年快適に暮らせたのであれば、その住まいには十分な価値があったといえるでしょう。
持ち家と賃貸のメリット・デメリットを把握した上で、自身のライフプランに沿った選択ができるといいですね。