日銀の利上げにより、日本も金利のある世界に戻りました。その中で、30年国債の金利上昇が話題になるなどしています。30年国債の金利の上昇は個人投資家などにどのような影響があるのでしょうか? 個人投資家は直接購入できない、30年国債の金利上昇の個人投資家に対する影響などを簡単に解説します。
10年国債が中心だが様々な種類の国債がある
日本政府は毎年150兆円を超える国債を発行しています。社会保障費などに多額の資金を必要とするため、様々な種類の国債を発行。期間10年の国債を中心に、3年や5年などの短期債や、個人向け国債(金利の固定3年、固定5年、変動10年の3種類)などの国債が発行されており、その中には期間30年の超長期の国債もあります。
なお、債券は償還までの期間が長ければ長いほど、利息の支払いや投資元本の返済が予定通り行われないリスクが増すため、金利が高くなります。
国内の30年国債の金利の上昇が進み話題となる
近頃、国内の30年国債の金利の上昇についてメディアなどで記事を目にする機会が増えています。30年国債の金利はどのような状況なのでしょうか?
2025年初に2.2~2.3%台で推移していた30年国債の金利は、その後ジリジリと上昇が継続。ただしトランプ関税ショックの発生時は、一時2.2%割れ目前まで下落しました。しかしすぐに戻して、更に以前の水準よりも上昇が進みました。そして5月半ばには節目の3.0%に到達し、そのまま3.2%目前まで上昇。その後反落しており、6月は2.8~2.9%台で推移しています。
また長期視点で見ると、30年国債金利の上昇は、2019年の0.1%台の底から約6年継続中です。5月に節目の3.0%を超えたことで、話題となった側面があります。
個人投資家は30年国債を直接購入できない
日本の30年国債は機関投資家などが金利の入札を行い購入します。このため、個人投資家が30年国債を直接購入することは事実上できません。入札で購入した30年債を証券会社が個人投資家に売却する可能性もありますが、現状では具体化していません。
このため、個人投資家が30年国債へ投資する手段は実質的に閉ざされています。よって、30年債の金利の上昇は、少なくとも個人投資家へ直接的な影響はありません。ただし、長期国債を組み入れる債券型投資信託に投資することで、個人投資家でも間接的に長期国債への投資は可能です。
30年国債の金利上昇が個人投資家に影響を与える可能性がある2つのこと
個人投資家は30年国債に直接投資できませんが、30年国債の金利上昇は個人投資家に以下の間接的な影響を与える可能性があります。
- 金融機関の損失拡大
- 固定型の住宅ローン金利上昇
それぞれ解説します。
(1)金融機関の損失拡大
債券は金利と価格が逆相関の関係にあります。このため、30年国債の金利が上昇すれば、価格は下落します。国内投資家にとり日本国債は為替リスクがなく、満期までの保有で償還により元本+金利収入が得られるため、損失に至ることは原則的にありません。
しかし機関投資家は保有する債券を時価評価する必要があり、金利が上昇し価格が下落すれば、保有債券の評価を下げるための損失計上を迫られます。
30年国債は地方銀行なども保有しています。特に運用に積極的な機関投資家中心に、30年国債の金利上昇による評価損で大きな損失が発生し、その結果として、近年上昇が続く銀行株など金融株の下落が進む可能性があります。
(2)固定型の住宅ローン金利上昇
住宅ローンは30年を中心に長期間の借入が行われます。住宅ローンの金利は変動型と固定型がありますが、変動型は短期金利に基づき決定され、固定金利型は長期金利に基づき決定されます。
30年の債券で調達した資金をそのまま30年の固定型住宅ローン金利で貸し出すことができれば、銀行は差分の金利を満期まで受け取ることができる、と考えればイメージしやすいのではないでしょうか。
30年国債の金利上昇は、固定型住宅ローンの新規貸し出し分の金利に影響を与える可能性があります。
今後も金利の話題が増えると予想される
2024年に日銀は緊急避難的に行っていた金融緩和を終えて、利上げを行いました。これまで政府は日銀の金融緩和を背景に、金利を気にせず国債が発行できましたが、その時代は終わりを迎えています。今後は他国と同様に、日本政府の財政的な余力と投資家の動向や市場の金利を踏まえた上で国債発行が行われます。ただし、これが本来の姿です。
今後も社会保障費の増大が予想されており、日本政府は継続的に国債発行による資金調達が迫られます。日銀の金融緩和期は気にされることのなかった金利ですが、現状では金利を無視できません。2024年3月の日銀の金融緩和縮小から1年が経過し、30年国債の金利3.0%到達など債券や金利に関連するニュースは今後も時折目にすると予想されます。
金利や債券はプロ向けの分野ですが、金利上昇の影響などは、個人投資家視点での見方も今後大切になるのではないでしょうか。