マツダがスピングルカンパニーとの異業種コラボで作ったスニーカー「SP-MX5」を発売した。広島県に本拠を置くところも同じなら、ひとつひとつの製品に対して深いこだわりを持つところも共通な両社のコラボ。舞台裏ではどんな「せめぎ合い」があったのか。商品発表会で両社の「言い分」を聞いてきた。
広島のこだわり強めな企業が待望のコラボ
マツダは2024年秋から、同社のアイコン的存在であるスポーツカー「ロードスター」の35周年を記念したオフィシャルグッズ「MAZDA ROADSTER COLLECTION」を展開している。これまでに、ロードスターの象徴である「人馬一体」を体現した「クロスボディバッグ」(4.2万円)、ロードスターの軽快さと遊び心が感じられる「ROADSTERジャケット」(1.98万円)をラインアップしてきたが、今回は第3弾商品となる「SP-MX5」が登場した。
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カラーバリエーションは上から「RED/WHITE」「NAVY/BLUE」「WHITE/BLACK」「BLACK/ORANGE」の4色展開。サイズは22.5cm(XS)から1cm刻みで28.5cm(XL)まで、ユニセックス7サイズを用意する。販売価格は2.65万円だ
共創パートナーのスピングルカンパニーは、職人の技が息づく広島県府中市で創業92年を数える国産ハンドメイドスニーカーメーカーだ。
マツダ デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナーの寺島佑紀さんによれば、以前から同じ広島県に本社を構えるスピングルとの「広島コラボ」を狙っていたそうで、今回は念願が叶った形となる。
両社の共創は互いの会社を相互訪問し、それぞれの歴史やものづくりを学ぶところからスタート。マツダ広島本社を訪れたスピングルカンパニー FW事業本部 商品企画部の小畑健さんは、「一緒に回っていただいた方からクルマの開発秘話も聞けて、非常に理解が深まる見学でした」と振り返る。
マツダ見学時にはロードスターの初代(NA)から現行型(ND)までの全モデルを見る機会があったと小畑さん。当時の心境を「一度にNAからNDまでを見られたことで、進化の過程や共通する部分がより見えてきました。今後、どんなスニーカーができるんだろうとこの時点からちょっとワクワクしていました」と打ち明けた。
寺島さんも「相互訪問したことで、両社に通じるものづくりへの熱い思いやこだわりが理解できました。だからこそ、コンセプトメイキングやデザインのキモが話し合いによって生まれていったのだと思います。本当に、非常に重要なステップでした」と意義を語った。
マツダがミリ単位の修正依頼! 仕上がりは?
両社がものづくりへの情熱をかたむけた「SP-MX5」はどんな仕上がりになっているのか。
スタイリングデザインを担当したマツダ デザイン本部 ブランドスタイル統括部 デザイナーの菊池有美子さんは、「歴代のロードスターのエッセンスをそのままの形で落とし込むのではなく、シンプルながらも美しいロードスターの曲線をしっかりと落とし込む。それによって、ロードスターらしさや歴代ロードスターの全てに通ずるようなデザインを目指しました」と話す。
スタイリングデザインのポイントは主に2つあると菊池さん。ひとつは「アクセルとブレーキの踏み替えをスムーズにする踵(かかと)の巻き上げを強調するデザイン」、もうひとつは「踵からつま先にかけて全体をホールドするアッパー部分のデザイン」だ。
作り上げていく過程においては、クルマをデザインする際と同様にテープドローイングを行い、シューズの立体感にデザインをどう落とし込めるかを検討したという。
「小畑さんには何度も指示図を出して、1ミリもないくらいのラインの調整や、どこにラインのピークを持っていきたいかなどを事細かに相談させていただきました。そのラインにしたい理由を踏まえながら、どうやったら実現できるかをお伝えすることで、お互い腹落ちさせながらコミュニケーションできたと思っています」(菊池さん)
そう語る菊池さんだが、その言葉と公開された指示図を照らし合わせると、マツダが無茶ぶり(暴走?)した気配が感じられなくもない。実際はどうだったのか、小畑さんのアンサーは次の通りだ。
「自動車メーカーと商品開発をしたことはなかったのですが、デザイナーの方からテープを貼った修正をいただくということは、多少はあります。ただ、細かいミリ数の指定までされるというのはなかなかありません。ハンドメイドでは多少の個体差が出ますから、1ミリや0.5ミリは『個体差では?』と言いたいところもあります。ですが、打ち合わせを重ねることで、菊池さんの望むラインの意味が徐々に理解できました。非常に大変でしたが、話を重ねるうちにどんどん相互理解が深まったという面はありました」(小畑さん)
ロードスターに関する仕掛けが盛りだくさん!
カラー&マテリアルの面ではどうだったのか。担当した寺島さんは、「全体的には、スタイリングと同じくシンプルに見せたいという狙いがあり、すっきりとした印象にしています。アッパーの色とソールの色(ゴムの部分)を明確にわけることで、スタイリングでポイントにしていた“踵の巻き上げ”を際立たせるカラーコーディネーションを実現しました」と全体像を説明する。
ただし、マツダがデザインに関わる以上、マツダらしい深みのある表現をどこかに落とし込みたいと考えたという。そこで取り入れたのが、「TONE ON TONE」という配色技法だ。
寺島さんは、結果的にスタイリングもよりよく見えるカラーコーディネーションにできたというが、もうひとつポイントになるのが革そのものの色味だ。
「SP-MX5」は機能性やフィット感などを考慮し、メインボディーには薄くて柔らかいカンガルー革、つま先やベロの部分(靴の甲の中央部分にある足首を覆う部分)は牛革と2種類の革を使用している。異なる革で同じ色を出すのはなかなか骨が折れたという。
「革の染色については、革自体にもそれぞれ個体差があるので、なかなか狙った色を出しにくかった記憶があります。特に、『マツダといえば』のイメージがある赤については失敗できないと思い、最も多くの試作を重ねました。マツダに納得していただける赤が出せた時は、嬉しかったですね」(小畑さん)
その他、レザーだけでは少し上質感が強すぎるため、カジュアルなジャガード(織りネーム)を随所に散りばめたり、ソール裏にロードスターのアイコニックナンバーとなる「5」を型抜きしてあしらったりといった遊び心も取り入れた。
最後に3人は、あらためて今回のプロジェクトを次のように振り返り、発表会を締めくくった。
「今回、初めてマツダと共創をさせていただき、本当にいいものができたと思っています。ロードスターのファンの方はもちろん、それ以外の方にも普段のコーディネートに取り入れてもらえるようなアイテムができたと思うので、非常に満足しています」(小畑さん)
「2年ほどかけてお互いの企業を知るところから始め、小畑さんやスピングルの皆さんと一緒にプロジェクトを進めてきました。これからたくさんのファンの方にお披露目して、皆さんに愛してもらえるシューズになったら私たちもすごく嬉しいです」(菊池さん)
「私としては待望の広島コラボということで、今日という日を迎えられたことは非常に感慨深いです。ずっとご一緒したかったスピングルとの共創では学びも非常にありましたし、本当に有意義なコラボになりました。『SP-MX5』が多くの皆様の元に届けばと思います」(寺島さん)