ホンダはトランプ関税などの影響を考慮し、2025年度(2026年3月期)の営業利益が前期比6割減となる5,000億円になる見通しだと発表した。トランプ関税は営業利益6,500億円の押し下げ要因になるという。
カナダの大規模投資を延期
2024年度(2025年3月期)連結決算発表会見でホンダの三部敏宏社長は、カナダで計画している電気自動車(EV)関連の大規模投資を2年間延期すると発表した。EVとバッテリーの工場建設などに1,500億カナダドル(約1兆6,000億円)を投じる計画で、2028年にも稼働を開始する予定としていたが、三部社長は「EV市場の成長が予想以上に鈍化している」ことから延期を決めたという。
同プロジェクトはカナダ政府などの資金支援を受け、電池材料から一貫したEVのサプライチェーンを築く計画で、ホンダにとっては「米国・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)を活用した北米EV戦略の中核となるはずだったのだが、EVの成長鈍化とトランプ政権による関税政策の影響を受け、延期せざるを得ない状況となった。
ホンダにとっては米国を中心とする北米地域が“ドル箱市場”であるだけに、トランプ関税政策の影響は大きく、業績ダウンの重荷となる。
ホンダは日本車勢の中でいち早く米国での現地生産を始めた企業だ。現地化比率は高く、USMCAを活用した北米生産体制を固めてきた。
今期に見込む関税影響による営業減益は6,500億円。そのうち四輪完成車の分は3,000億円、部品や原材料の関税影響は2,200億円だ。
三部社長は「タラ・レバではないが、関税と為替の影響がなければ、今期も1兆4,000億円程度を稼げる力がついてきているだけに、フリートレード(自由貿易)への流れを望みたい。今期の営業利益見込みの5,000億円は『ボトム』で、どれだけ積み上げられるかだ」とし、あえてホンダが今期の関税影響額を公表した理由を説明しながら強気の姿勢を示した。
北米でハイブリッド車の販売が好調
ホンダが発表した2024年度(2025年3月期)業績は売上高21兆6,887億円(前期比6.2%増)、営業利益1兆2,134億円(同12.2%減)、当期純利益8,358億円(同24・5%減)の増収減益となった。これは四輪製品保証引当金の測定方法変更を反映した数字で、変更影響を除く営業利益は1兆3,410億円(同3%減)となる。
前期の営業減益は四輪車事業の中国ビジネスの不振が要因となったが、二輪車事業は好調を継続。アジアでの増加などによりグローバル販売台数は2,057万2,000台(前期比9.3%増)に達し、営業利益6,634億円、営業利益率18.3%と高い収益を確保した。
一方の四輪車事業は中国の減少でグローバル販売が371万6,000台(9.6%減)にとどまり、営業利益は2,438億円、営業利益率は1.7%となった。同社の業績は依然、二輪車事業の高い収益性がリードしていることがわかる。
ホンダの2025年度(2026年3月期)業績予想は二輪車販売が2,130万台とアジアでの増加を反映して伸ばす一方で、四輪車販売は中国・アジアの減少を反映して362万台(前期比3%減)としている。二輪車の世界販売が引き続きホンダの業績を牽引することになりそうだが、四輪車事業では、北米におけるハイブリッド車(HEV)の販売増加とHEVの収益性向上が好材料だ。
今期の営業利益を前期比約6割減の5,000億円と見込むのは、トランプ関税の影響6,500億円を織り込んだことに加え、通期の想定為替レートを1ドル=135円の円高で計算しているため。他の通貨を含めた為替の影響は4,520億円の減益とした。
日産との統合が“破談”となったホンダでは、これまでCOOとして経営を支えてきた青山真二前副社長が不祥事で突然の辞任となり、経営陣の立て直しを迫られる事態に陥った。
2040年の「脱エンジン」を掲げる三部社長率いるホンダだが、ここへきてEV減速とトランプ関税政策という逆風が吹き荒れ、対応を迫られている。EVや自動運転などで連携を強めていた米GMとは提携関係を切る動きとなっており、今後は日産・三菱自動車との戦略的パートナーシップの構築がどう進んでいくかが注目されている。