BMW「4シリーズ」は縦方向に大きく拡大した「キドニーグリル」が目立つ大胆不敵な顔立ちのクルマだが、これをさらにオープンカーにした「カブリオレ」に乗るという選択肢は、はたしてありなのか。モータージャーナリストの岡本幸一郎さんから試乗レポートが届いた。
キャンバス製ソフトトップは18秒で開閉可能!
2代目となるBMW「4シリーズ」(G22型)が日本で発売となったのは2020年10月のこと。2ドアクーペ(G22型)を皮切りに翌2023年1月には「M4」、同2月に「カブリオレ」(G23型)、同7月に「グランクーペ」(G26型)とラインアップを拡充してきた。他のBMW車とは一線を画する、大胆すぎる「キドニーグリル」を配したフロントデザインが当初から大いに話題となったものだ。
「3シリーズ」とパワートレインやプラットフォームを共有しながらも、見た目だけでなく走りについても差別化を図っている。3シリーズにもこれまでたびたび乗る機会があり、そのよさは十分に理解しているが、よりスポーティーな位置づけの4シリーズでは、ダイナミックな運動性能とシャープなハンドリングを追求し、下まわりに補強を入れ、エンジンルームにタワーバーを配して剛性を高めている。
そんな4シリーズには、フル4シーターのカブリオレという選択肢がある。そもそも、4人乗りのオープンカーというのは世界中を見わたしてもそう多くはない。4シリーズカブリオレはその貴重な1台となる。
2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載する2輪駆動の「420i」も選べるが、今回ドライブしたのは、3.0リッター直列6気筒ターボを搭載する「M440i xDrive」だ。BMW車の高性能版「Mパフォーマンス・モデル」の一員である。
従来型の初代4シリーズカブリオレは電動格納式ハードトップを採用していたが、こちらの2代目ではさまざまなメリットを考慮し、あえて「パネルボウ」と呼ぶキャンバス製ソフトトップに変更している。約18秒で電動開閉が可能で、車内のスイッチのほかキーフォブでも、車両が見える範囲程度であれば、ボタンを長押しすることでトップを開閉できる。
優雅なアーチを描くソフトトップは、開けても閉めてもエレガントなスタイルを見せてくれる。4シーターオープンとして居住性にも配慮されていて、後席もオマケではなく、平均的な成人男性+αの体格である筆者が座っても膝前や横方向の狭さは感じない。トップを閉じても、頭上には隙間ができるほどの余裕がある。
オープンにしてスピードを上げるとそれなりに風は巻き込むが、前席だけ人が乗るときには、オプションのウインドディフレクターを装着すると風の巻き込みがほとんど気にならなくなる。
ネックウォーマーのような装備もあり、オープンカーとして乗員が不快に感じる要素を極力なくすように配慮されている。
後席に乗り込むには、フロントシートの肩の後方にあるレバーを引くと背もたれが前に倒れて、シートが自動的に前にスライドして乗降のためのスペースができる。
トランク容量はトップを収めた状態でも300リットルと十分のところ、可変式ソフトトップコンパートメントにより385リットルまで拡大できる。
オープンボディは走りに不利と言われるが…
走りにおいては不利なオープンボディでも4シリーズらしい走りを実現するため、もともと高剛性なボディのサスペンション取り付け部やアンダーフレームを強化するなどしてドライビングパフォーマンスを追求している。これらにより、屋根付きと同等とまではいかないまでも、4シリーズらしいダイナミックな走りを味わうことができる。
さらに、トップを開けた状態での衝突時における安全性を高めるため、カブリオレ特有の補強が施されているほか、転覆時に瞬時にせり出して乗員を保護するロールオーバーバーが装備されている。
オープンカーにありがちなワナワナとした振動もないのは、剛性が十分に確保されているからにほかならず、重量増の影響もあまり感じられない。
それでいて、カブリオレにふさわしく、より優雅にオープンエアドライブを楽しめるよう、足まわりはクーペ系に対していくぶんコンフォート志向のセッティングに作り分けられている。
乗り心地はソフトながら、ほどよくダンピングが効いていてフラット感があり、無駄な動きが抑えられているので、気持ちよく走れる。
387psの最高出力と500Nmの最大トルクを発生する3.0リッター直6ターボは、直6らしいエキゾーストサウンドと、BMWらしい力強くて軽やかな吹け上がりが心地よい。絶品のエンジンフィールだ。
スポーツモードを選択すると、よりアクセルレスポンスが鋭くなるとともにエキゾーストサウンドが大きくなり、走りのダイレクト感も増して、より自らの手で操っている感覚が高まる。xDrive(4輪駆動)なので、天候を問わずそのパフォーマンスを味わえる。
M440i xDriveカブリオレは、魅力的なルックスはもちろん、Mパフォーマンス・モデルとしてのダイナミックなドライビングをオープンエアで味わうことができ、それを最大4人で共有できるというクルマである。価格は1,000万円をゆうに超えるが、得られるものも大きい。