「お金を稼げるようになった。それでは、念願のアストンマーティンを買おう」。そう考える人たちが、選択肢にSUVの「DBX」を入れることなんて、はたしてあるのだろうか? そんな疑問もあったのだが、実際に最新モデル「DBX707」に乗ってみると……。
SUVではアストンマーティンの走りを味わえないでしょ?
アストンマーティンのSUV「DBX」は2019年に発表されるやいなや、自動車業界で大きな話題となった。ポルシェやランボルギーニなどの前例はあるものの、やはり、スーパーカーを得意とするメーカーがSUV市場に参入するとなれば、注目されるのは当然だ。今回はDBXの高性能バージョン「DBX707」に試乗し、あらためてアストンマーティン製SUVの魅力を探ってみることにした。
改めて押さえておくと、アストンマーティンは1913年にイギリスで創業した高級スポーツカーメーカーだ。映画『007』のボンドカーとして有名だし、チャールズ3世(現・英国国王)からロイヤルワラントを授与されているなど、トピックは多い。
これまで一貫してスポーツカーを製造してきたアストンマーティンだが、世界的なSUVブームの影響もあり、2019年に同社初のSUV「DBX」を発表した。
同社ではDBXを「ウルトラ・ラグジュアリー・パフォーマンスSUV」とカテゴライズしている。流線型かつ大柄なボディでありながら、ブランドの「らしさ」をしっかりと継承したエクステリアデザインは要注目だ。メルセデスAMGから供給を受ける4.0LのV型8気筒ツインターボエンジンは最高出力550PS、最大トルク700Nmを発揮。アストンマーティンはDBXによって、新たなファンを獲得することに成功した。
初登場から5年が経った2024年には、高性能モデル「DBX707」を日本市場に投入し魅力度の向上を図った。最大の特徴は車名にもなっている707、つまり、最高出力が550PSから707PSに向上していること。そこに9速の湿式クラッチオートマチックを組み合わせる。全輪駆動システムは必要に応じて最大100%のトルクをリアアクスルに送ることが可能。ゼロヒャク加速は約3.3秒、最高速度は310km/hだ。
同社によると、エンジニアが継続的に改善を実施したことにより、電子制御ダンパーとエアスプリングのキャリブレーションを一新することができたそう。レスポンス、精度が向上し、SUVでありながらスポーツカーとしてのダイナミックな走りに磨きがかかったという。
大きくてハイパワー…運転しにくくないの?
馬力が707を超えているとはいっても、走り出しは非常に静かで滑らかだ。ハンドリングも軽く、アクセルとブレーキの踏み心地も柔らかで、想像以上に運転しやすい。着座位置が高めでウインドウも大きく取られているからか、視界もかなりいい。全長5,039mm、全幅1,998mm、全高1,680mmと大柄なSUVとは思えないほど取り回しがよく、狭い路地や車庫入れもさほど苦戦せずに済みそうだ。
いざ高速道路で合流しようとアクセルを踏み込むと、低音で乾いたようなエンジン音が唸りを上げ、あっという間に100km/hに到達してしまう。油断しているとすぐに速度超過になってしまうので要注意だ。
DBX707は「GT」「Sport」「Sport +」の3つのドライブモードを選択できる。GTにしておくと、まるで電気自動車(EV)かのような静かで滑らかな走りを堪能できる。Sport +にすると回転数がわずかに上がり、ハンドリングも俊敏になる。ただ、どのモードでも扱いやすかった。
さすがにファミリーカーとしては使えないよね?
インテリアの質感も非常に高かった。車内は「スパイシーレッド」と呼ばれるアニリンレザーで設えられており、乗り込んだ瞬間は鮮やかすぎるように思ったが、乗って10分もすれば慣れてくるから不思議だ。むしろ、内装カラーの定番であるブラックやベージュよりも落ち着くかもしれないとさえ感じた。さらに、後席の広さにも驚かされた。外から見ていたときよりもかなり広く、快適にくつろげる。大人3人が座っても窮屈に感じないだろう。
ラゲッジスペースも広く、横幅1,130mm、奥行き1,090mm、容量638Lと大容量。大きめのゴルフバッグも2つ、重ねれば3つは積み込める。それで大人5人が余裕で乗車できるとなれば、かなり使い勝手はいい。加えて707PSのハイパワーを体感できるとあれば文句はない。ちょっと贅沢だが、ファミリーカーとして子育て世代にも最適なSUVに仕上がっているという印象を受けた。
せっかくアストンマーティンを買うのなら、「DB12」や「ヴァンテージ」を選びたくなるものだろうと決めつけてかかったら、DBX707には驚かされた。DBXはSUVブームに乗って登場しただけだろうと高をくくっていたのだが、走りや質感、使い勝手も含めてアストンマーティンらしさが存分に堪能できる良車だった。価格は3,590万円なのでおいそれとは買えないが、いつか買いたいと思わせてくれるモデルだったことは間違いない。