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こんにちは、行政書士の木村早苗です。この記事では普段から相続に関する話を取り上げていますが、私自身がいつも不思議に思っているのが「土地」の存在です。

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あげてももらっても困る土地、どうすればいい? - 相続と相続土地国庫帰属法

JAN. 30, 2025 17:00
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こんにちは、行政書士の木村早苗です。この記事では普段から相続に関する話を取り上げていますが、私自身がいつも不思議に思っているのが「土地」の存在です。

受け取る人によって贈り物になったり、やっかいなものになったりする存在って数少ないですよね。財産は動かせるか(動産)、動かせないか(不動産)でも法律は違いますが、どちらも品質や状態、規模はもちろん時代によって価値が変わります。土地ほど社会や時代の影響を受けるものはないでしょう。現代だと街中なら宅地や雑種地(駐車場など)、地方なら宅地に加え田や畑、さらに中山間地まで行くと山林が加わる感じでしょうか。ちなみに、以前取り上げたお墓は地目だと「墓地」に区分されます。

日本は起伏が激しく山の多い国です。かつて林業が盛んだった地域には、各家庭が山を所有し自分の家を建てるための木材を育てる文化もあったのだとか。また温暖な地域では、急な斜面を活用して果樹栽培や棚田での農作を行うなど、さまざまな工夫を凝らして暮らしを成立させてきました。『ポツンと一軒家』などを見ていると、古くからの土地を相続し暮らす方々が出取り上げられていますよね。しかし、世の中的には諦める人のほうが圧倒的に多いはずです(だからこそ周りは荒れて「一軒家」になるわけで)。

ただし、これからは実家がどんなに遠くても、生活ができなくても、山林や山を相続したら放っておくことはできません。令和2年度に土地基本法が一部改正され、土地所有者等に対し利用や取引に加え管理責任も問われるようになりました(第6条)。登記等の権利関係や境界の明確化等も追加され(第6条2項)、管理させるための法令改正や制度の施行がされたからです。

では、山や農地を受け継いでほしいが難しそうだ、親から相続したが正直管理ができず困っている、という方はどうすればいいのでしょう。考えられる方法には、相続放棄や国・地方公共団体等への寄付、民間企業への売買などがあります。そこに新たに令和5年4月27日に加わったのが「相続土地帰属制度」です。最近よく聞く「空き家対策特別措置法」と同時に作られた制度で、個人では管理のしにくい山林や農地を放置させない狙いがあります。

「相続土地国庫帰属法」とはどんな制度なのか

  • 法務省のパンフレット

相続土地帰属制度とは、一定要件を満たした土地かつ負担金を納めると、相続した不要な土地を国に返せる仕組みです。申請受理の要件には、①申請対象者か、②申請対象土地か、の2つがあります。

申請対象者か

土地所有の理由が相続なら時期は問わないため、自分が親から相続していれば申請できます。次の相続を待つ必要はありません。土地が共有でも、共有者に相続人が1人いればよく、持分の割合も問われません。相続後未登記でも相続した証明書でOK。同意は相続人全員分が必要ですが、申請以外の書類作成は専門家に依頼すると楽でしょう。

申請対象土地か

受理してもらうには、逆に言えば却下事由と不承認事由に当てはまらないことが大事です。まず、売買が難しい土地(建物がある、抵当権のような他人の権利設定がある、等)は却下事由です。次に、管理に大きな費用や労力が必要な土地(急勾配や高い崖がある、地中に土管等が埋まっている、隣地と争訟が必要、等)は不許可事由にあたります。詳細な審査基準はここでは割愛しますが、直前まで管理されてきた土地ならば承認率は高いかもしれません。

申請では、現地や境界線のわかる写真や公図、経路説明などの添付書類を含めた書類作成、関連機関(農地は農業委員会、森林は森林課、等)や隣地所有者への確認、面積による負担金計算なども行う必要があります。その一方で、負担金を抑える特例措置もあるなど、比較的ややこしいので、土地に強い弁護士さんや司法書士さん、行政書士に一度相談してみるとよいでしょう。法務省の手引きには、土地を手放す方法それぞれのメリットやデメリット、問い合わせ先等も掲載されていますので、まずは参考にしてみてください。

土地相続で困った人の申請が負担の軽減と活用の可能性を開く(かも)

  • 相続土地国庫帰属制度の運用状況(速報値)(筆者作成)

制度の開始から約1年半。令和6年10月31日現在の申請件数は計2,850件です。地目別では、農地1,052件(37%)、宅地1,026件(36%)、山林447件(16%)、その他・雑種地325件(11%)の割合です。うち国庫に帰属されたのは、計973件で全体の約32%になります(宅地375件、農地311件、山林42件、その他245件)。数字だけで見ると受理数が3分の1程度というのは少なく感じますが、ポイントは、受理・帰属以外の1,877件のうち407件(約22%)が審査までに申請を取り下げている点です。ここには、法務省の調査期間中に自治体による土地活用や農業委員会による農地活用、隣地所有者から土地引き受けの申出が決まった事例が含まれています。つまり、処分に困っていた土地所有者の中には、負担金を払わずして新たな形で活用してもらった人もいるのです。

土地問題に関する国民の意識調査(出典:平成30年度版土地白書)において、「土地所有に対する負担感はあるか」という質問に、約42%が「負担を感じたことがある」または「負担を感じると思う」と回答しています。令和2年の法務省調査でも「土地を所有する世帯のうち、土地を国庫に帰属させる制度の利用を希望する世帯」は約20%存在しているだけに、この制度の施行は社会の要望に即したものと言えるでしょう。

土地所有者に「国に返す」選択肢を増やし、申請することで自らの負担を軽くする可能性を秘めた相続土地国庫帰属法。今からでも考えられる相続対策の一案として検討してみてもよいかもしれません。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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