昨今の物価高を受けてか、総務省が新たな有識者会議「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」で、これまで厳しく規制してきたスマートフォンの値引きを緩和しようという動きを見せている。だが携帯電話会社から挙がってくるのは短期解約防止のための規制緩和を求める声で、値引き規制緩和を求める声はほぼ出てきていない。一体なぜだろうか。

実はスマホ値引き競争をしたくない携帯各社

コロナ禍以降の円安を機として、急速に価格が高騰したスマートフォン。既にハイエンドモデルは10万円を軽く超え、20万円を超えるものも珍しくなくなりつつあるし、2025年末頃に発生したメモリ不足の影響で、今後より一層スマートフォンが高くなるとの見方も出てきている。

価格高騰は消費者がスマートフォンを購入しづらくなることにもつながっているだけに、これまで携帯電話会社によるスマートフォンの値引きを厳しく規制してきた総務省も方針を転換しつつある。実際、2025年12月から実施されている有識者会議「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」では、規制を厳しくすることありきで進んできた従来の有識者会議と異なり、事業者やユーザー間の公平性などを担保できているのであれば、規制を最小化することを模索しようとしている。

  • 総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第1回会合資料より。この有識者会議では2019年に改正した電気通信事業法の目的を既に達成しているならば、規制を最小化すべきという視点で議論が進められている(出所:総務省)

    総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第1回会合資料より。この有識者会議では2019年に改正した電気通信事業法の目的を既に達成しているならば、規制を最小化すべきという視点で議論が進められている(出所:総務省)

この有識者会議の議論は2026年夏頃まで実施され、その後何らかの成果が打ち出される予定であることから、2026年の半ば頃からスマートフォンの値引き規制が大幅に緩和され、携帯電話会社がこれまでよりスマートフォンを多く値引きできる可能性が出てきている。だが規制を受けている携帯電話会社の考えは異なるようだ。

そのことを示しているのが、2026年1月14日に実施された第2回会合である。この回では携帯4社から意見や要望を聞くヒアリングが実施されたのだが、携帯4社のうちスマートフォンの値引き規制を緩和して欲しいという声は全く挙がらなかったのだ。

その背景には、日本の大半の人がスマートフォンを保有するなど、携帯電話市場が既に飽和し、優良な新規顧客を獲得するのが難しくなっている実情がある。しかも日本の携帯電話ユーザーは、契約する携帯電話会社への忠誠心が強い傾向にあることから、携帯各社はスマートフォンを値引きして新規契約者を無理に増やすより、既存の顧客により多くのサービスを利用してもらい、売り上げを伸ばす戦略へと舵を切りつつあるのだ。

  • 総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合の楽天モバイル提出資料より。同社をはじめ、携帯4社は一律にスマートフォンなどの端末値引き規制は現行の内容を維持すべきとしていた(出所:総務省)

    総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合の楽天モバイル提出資料より。同社をはじめ、携帯4社は一律にスマートフォンなどの端末値引き規制は現行の内容を維持すべきとしていた(出所:総務省)

それに加えて市場飽和により、携帯各社の投資も携帯電話事業から、今後より大きな成長が見込めるAIなどへの大きなシフトが進んでいる。それだけに一層、携帯電話会社は企業体力を大きく奪うスマートフォン値引き規制の緩和に消極的なものと考えられる。

総務省での議論はホッピング対策一色となるか

その一方で、各社から一様に挙がったのは「ホッピング」対策のための規制緩和を求める声である。これは現在のスマートフォン値引き規制などの基礎となった2019年の電気通信事業法改正以降、携帯電話業界の大きな問題なっているものだ。

この法改正により、通信料金と端末代金を一体で値引くことを禁止し、長期契約を前提に料金を割り引く施策にも大幅な規制が加えられた。それは総務省が、ユーザーが解約しやすくすることにより、料金の安い携帯電話会社に乗り換えやすくして競争を促進し、携帯電話料金を引き下げることを狙ったためである。

だが実際には、先にも触れたように携帯各社に対する消費者の高い忠誠心もあって、乗り換え競争はあまり起きなかった。その一方で、著しく解約しやすくなったことを悪用し、携帯電話会社が新規契約獲得のために提供しているポイントや現金の還元を獲得するため、短期間で契約したサービスを解約し、他社サービスへと乗り換えることを何度も繰り返す、ホッピング行為が横行する結果を招いたのである。

  • 総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合のソフトバンク提出資料より。ホッピングは新規契約者向けのキャッシュバックなどを得るため、携帯電話会社を非常に短い期間で乗り換える行為を指す(出所:総務省)

    総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合のソフトバンク提出資料より。ホッピングは新規契約者向けのキャッシュバックなどを得るため、携帯電話会社を非常に短い期間で乗り換える行為を指す(出所:総務省)

もちろん携帯各社もホッピング行為に対処しようとはしているのだが、契約を縛ることが法律で禁止、あるいは規制されているため対処が困難だ。例えば新規契約者に1万円のキャッシュバックをする場合、契約者に対し毎月1000円ずつ還元する、あるいは契約から1年後に還元するといったことができれば、短期解約すると還元が大幅に減るためホッピング防止へとつながってくる。

だが現状の規制では、継続利用を条件に利益提供することが禁止されているため、そのような還元方法を取ることができず、契約時にまとめて1万円を還元するしかないのでホッピング行為に大きなメリットを与えてしまっている。抜本的なホッピング対策をするには法律が大きな壁となっているため、規制緩和を求める声が相次いだ訳だ。

  • 総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合のKDDI提出資料より。現状の電気通信事業法ではキャッシュバックを契約期間中分割して提供することができず、契約時にまとめて提供しなければならない(出所:総務省)

    総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第2回会合のKDDI提出資料より。現状の電気通信事業法ではキャッシュバックを契約期間中分割して提供することができず、契約時にまとめて提供しなければならない(出所:総務省)

もちろんホッピングは、携帯電話会社だけでなく総務省も問題視している行為だけに、今後の議論の末に何らかの対策に向けた施策が打たれることになるだろう。ただ多くの一般消費者にとってホッピングは無縁のものなので、仮に規制緩和でホッピング対策が進んだとしてもメリットはない。

一方、携帯各社が消極姿勢を見せたことにより、消費者が期待するスマートフォンの値引き規制緩和には、やや暗雲が立ち込めてきた。この有識者会議では今後、他の企業・団体などからのヒアリングも進められる予定で、2026年夏頃に一度取りまとめ案を用意する方針であることから、消費者目線でいうならば今後の議論がホッピング以外に広がるかどうかが、大いに関心を呼ぶところかもしれない。