これまでにも何度か触れているとおり、マザーボードというパーツはPCの中心になる存在である。このマザーボードのさらに核となるのはチップセットであり、チップセットが同じマザーボードは、似たような構成の製品になりがちである(これはマザーボードに限ったことではないが)。そこで、マザーボードを製造するメーカーは、独自の機能を盛り込んで他社と差別化するのが一般化している。

独自機能といっても、以前はマザーボードメーカー独自にRAIDコントローラをオンボード搭載したりといった、いわば"よそから持ってきたものを付け足す"程度であったが、最近は独自に機能を開発したりするなど、そのメーカーの製品でないと得られない機能というものも目立っている。

今回利用している「P5Q-E」を発売しているASUSTeKは、そうした独自機能を特徴としているメーカーの代表ともいえる存在。ここでは、P5Q-Eに搭載された独自機能のなかから、ユニークなものをピックアップして紹介してみたい。

BIOS設定画面上の「Tools」カテゴリのなかに、ASUSTeK独自機能が用意されている

付属のドライバCD-ROMには、Windows上で動作する独自ユーティリティが多数収録されている。もちろん「InstAll」を選択すれば一括インストールが可能だ

BIOSアップデートを手軽に行う「EZ Flash 2」

PCの電源を入れた際、WindowsなどのOSが起動するまえに、BIOSと呼ばれるファームウェアの一種が起動される。Basic Input/Output Systemの略であるBIOSは、PC上の各種パーツの初期化や標準的な入出力処理を行うためのソフトウェアで、マザーボード上のフラッシュメモリ上に記録されている。

このBIOSはマザーボードメーカーによって日々アップデートされている。例えば、新しいCPUが登場したときに、そのCPUを正しく動作させるための設定を保持したBIOSにアップデートしたり、現行BIOSにバグが発見されたため修正されるなど、更新が頻繁なメーカーは1~2か月に1回程度のペースでWebサイトにアップロードされたりする。

このBIOSアップデート。以前は非常に面倒な作業だった。DOSを起動するためのフロッピーを作成し、そこにアップデート用プログラムとBIOSのイメージファイルをコピー。コマンドラインからアップデートする必要があった。いまも一部メーカーのマザーボードは、この作業を必要とする。

ただ、最近ではWindows上で動作するGUIのプログラムが提供されており、ASUSTeK製マザーボードにも「ASUS Update」というユーティリティが提供されている。ただ、この類のアプリケーションは、Windowsが動作している状態でないと利用できないという欠点がある。マザー購入直後にアップデートしたいとか、LinuxなどWindows以外のOSを利用する場合には、このユーティリティが利用できないことになる。

BIOS設定画面の「Tools」カテゴリから「ASUS EZ Flash 2」を起動。USBメモリやHDD上に用意したASUSTeKのWebサイトからダウンロードしたBIOSファイルを読み出してアップデートが可能

ASUSTeKのマザーボードに組み込まれている「ASUS EZ Flash 2」は、OS起動前に実行可能なアップデート専用プログラムを用意することで、利用OSを問わず、簡単にBIOSアップデートを行えるものだ。BIOSのイメージファイルをHDDやUSBメモリなどに用意しEZ Flash 2を起動。用意したイメージファイルを選択するだけでBIOSアップデートを行えるようになっている。何よりUSBメモリに対応しているというのが便利なところ。

BIOSは書き換えに失敗するとPC自体が起動しなくなる危険な作業でもある。マルチタスクOSであるWindows上からのBIOSアップデート作業は、ほかのアプリケーションの割り込みなどが急に発生しないか不安に感じる人もいる。EZ Flash 2は安心感と負担軽減を両立しており、BIOSアップデートの負担は大きく軽減してくれる。

10秒で起動する簡易OS「Express Gate」

PCの主な用途はインターネット、という人も少なくないと思う。インターネットを利用するためだけにPCを起動しようと思っても、Windwos VistaなどのOSは、速くとも1分程度の時間を要してしまう。インターネットでほんのちょっと情報を検索したいと思っただけでも、PCの起動に無駄な時間を費やすことになる。

この無駄な時間を軽減できる機能が「ASUS Express Gate」である。これは、BIOSが起動する段階で利用可能な簡易OSで、非常にシンプルなため、電源投入から10秒程度で利用できる状態になるのだ。

付属のドライバCD-ROMから、HDDやUSBメモリにExpress Gateをインストールする。BIOS設定画面上でもExpress Gateを有効にしておくと、PC電源投入後、すぐにExpress Gateのトップ画面が起動する

あくまで簡易なOSであるため、用意されているツールはWebブラウザ、チャットソフト、Skype、フォトビューワ程度。ただ、Webブラウザが利用できるというのは非常に大きな意味を持っており、WebメールやオンラインストレージなどのWebサービスと組み合わせて活用することで、高速に起動可能であるメリットを最大限に活かせることになる。また、Express Gateもアップデートが行われる予定で、将来的には音楽再生ツールなどを実装されることになるようである。

Express Gateに用意されているアプリケーションは限られるが、Webブラウザは非常に便利。Webサービスを積極的に活用している人は、とくに便利さを堪能できるはずだ

フォトビューワ。Windows標準のフォトビューワに近い操作感で画像ファイルを参照できる

こちらはSkypeクライアント。インターネットを頻繁に利用するユーザーにとっては、Webブラウザと並んで便利に思える機能だろう

日本語にも対応しており、各種文字列を日本語で表記させることはもちろんのこと、キーボードからかな入力も可能だ

インターネット接続に欠かせないLAN機能だが、グラフィカルな設定画面が用意されている。有線LANならケーブルを挿すだけで利用可能になる

ちなみに、このExpress Gateは、Windowsなどと同じように、HDDやフラッシュメモリ上に用意したデータを読み込んで起動する。ASUSTeKのP5Qシリーズのなかでも、上位モデルの「P5Q Deluxe」などでは専用のフラッシュメモリをオンボード搭載していたりするのだが、今回使用しているP5Q-Eはデータ領域そのものを自分で用意しなければならない。

とはいっても、このための領域はHDDまたはUSBメモリなどが利用可能。一般的にはHDDを利用するのがもっとも手軽だろう。WindowsをインストールしたHDD上にExpress Gateをインストールすれば、そのまま利用することができるからだ。なお、HDDを利用する場合、公式にはIDEモードで動作させる必要があるとされているが、筆者が試した限りではAHCIモードでも正しく動作している。

このほか、Express Gateとは直接関係ないが、Express Gate上からは「Drive Xpert」と呼ばれる機能の設定を行うこともできる。このDrive Xpertは、RAID0(ストライピング)やRAID1(ミラーリング)に近い機能を独自に提供する機能だ。今回使用しているP5Q-Eは、RAID0/1をサポートするICH10Rを搭載しているので必要性は低いが、RAIDをサポートしないチップセットを使用している場合でも、同等の機能をBIOSレベルで利用できるという点でおもしろい機能になっている。

やはりASUSTeK製マザーの特徴的な機能である「Drive Xpert」の設定も、Express Gate上から行える。RAID非対応チップセットの場合でも、RAID0/1相当の機能を利用できる

省電力にこだわるなら「EPU-6 Engine」

先に示したインストーラ画面からもわかるとおり、ASUSTeKの独自機能にはWindows上で動作するものも非常に多い。こうしたWindows上で動作する独自機能からピックアップしたいのは、「Ai Suite」と「EPU 6-Engine」である。前者はオーバークロックに関連したユーティリティとなるが、オーバークロックについては次の回で取り上げる予定なので、そちらで併せて触れることととし、ここでは後者のEPU 6-Engineを紹介したい。

EPU 6-Engineの設定画面。現在のCPUの消費電力や、CO2排出量を通常よりどの程度削減できているかも表示できる

EPUとはEnergy Processing Unitの略で、もともとはCPUの電力管理を行う専用プロセッサと、それを活用するためのアプリケーションだった。しかし、現在では"6-Engine"というワードが付記され機能強化されている。

この6-Engineとは、CPU、メモリ、チップセット、グラフィックスカード、HDD、ファンの六つのパーツをまとめて制御することを表している。従来のCPUだけを制御するEPU以上の省電力効果が期待できるわけだ。このうち、グラフィックスカードだけは対応製品が限られているが、最近のASUSTeK製グラフィックスカードなら、ほとんど対応している。組み合わせて利用したい。

パフォーマンス優先から省電力重視までモードを切り替えることができる。マウスオーバーで比較グラフも参照できる

もっとも省電力を重視したモードは、六つのパーツいずれもが制御され、消費電力を最大限に抑制してくれる

EPU 6-Engineのユーティリティでは、電力モードを切り替えることで、電力の抑制度合いを変更することができる。例えば、パフォーマンス寄りのモードではチップセットやメモリのみ省電力化し、省電力寄りのモードでは六つのパーツすべてを制御する、といった動きを見せる。CPUの省電力度合いも手動で調整できるので、コンセントに接続するようなワットチェッカーを併用して、カスタマイズしてみるといいだろう。

各モードの動作内容は[Setting]ボタンから変更できる。CPUの動作クロックや電圧、チップセットの電圧、HDD回転を止める、といったことが任意に指定可能だ

今回は、ごくごく一部ではあるがP5Q-Eに搭載されたASUSTeK独自機能を紹介した。もちろん、ここで紹介した"独自"機能なので同社製品でしか利用できない。ただ、他社メーカーのマザーボードを利用している場合であっても類似機能が実装されていたり、冒頭でも触れたようにオリジナリティのある機能が搭載されていることが増えている。独自機能の使い方をマスターすることは、PCライフをより快適に送ることにつながる。積極的に活用していこう。

(機材協力 : ASUSTeK Computer)