都内では、特に大きなインパクトが想定される築地市場跡地の再開発。この春、事業者として三井不動産をはじめとした名だたる企業が選定されたことは記憶に新しいと思います。

この再開発は、湾岸エリア全体の不動産価格にどのような影響を与えるのでしょうか? 不動産ナビゲーターの渕ノ上弘和さんに聞きました。

  • 築地市場跡の再開発は湾岸エリアにどのような影響をもたらすか

築地の再開発がエリアの将来性にもたらす影響

虎ノ門・六本木、三田・田町、高輪ゲートウェイ・品川エリアなどで進行している中規模以上の再開発案件。中でも築地市場跡地の再開発「築地地区まちづくり事業」は、今後大きなインパクトが想定されるでしょう。

事業のコンセプトは「水と緑に囲まれ、世界中から多様な人々を出迎え、交流により、新しい文化を創造・発信する拠点」。

ショッピングモールや飲食店、オフィスビル、住宅、そして公園や広場、文化施設など、公共スペースの整備が行われる予定となっています。

ただ、その街としての本質的な将来性にフォーカスすると、以下の2点が重要なポイントであると私は考えます。

(1)交通ハブとしての湾岸と都心中央部の一体化促進

築地は「広域交通結節点」としての役割の付与も想定されており、既存のバス路線網の充実以外にも、多くの交通ネットワークが整備される予定です。

具体的には、話題のHARUMI FLAGをはじめとした湾岸エリアから、虎ノ門を中心とした港区再開発エリアへのアクセスの要となる「BRT」、2月にその構想が発表された「都心・臨海地下鉄新線」、水上交通ネットワークなどが挙げられます。

築地エリアが交通ハブとしての機能を果たすことで、街としてのムラが無くなり、都心部への結びつきが強くなり、一層、このエリアの物件価格・賃料が強くなることが想定されます。

  • 湾岸エリアと港区再開発エリアを結ぶBRTの運行ルート

(2)国際的都市としての競争力向上

国際会議などのビジネスイベントに対応可能な施設を新設する構想が、都・区から明確に発信されています。これは、国際的都市として競争力を高めるために、非常に重要なポイントです。

国際都市としての地位を確立することにより、一部エリアに偏りがちな外資系企業と、その勤務者をターゲットとした「ビジネスエリア」として、力強さを増していくことが想定されます。

ちなみに、話題となった5万人収容の多目的スタジアムは、"東京ドームの有力な移転先では"との見方があり話題になりましたが、本質的には、国際対抗力を備えた大規模集会(ビジネスイベント含む)に対応可能な施設の導入と考えるのが、合理的ではないでしょうか。

「東京という街」が湾岸寄りに形成されていく可能性

以上を勘案すると、築地エリアは、東京中心部の再開発エリアと湾岸エリアを繋ぐ、いわゆる「接着剤」のような役目を担い、今後、東京という都市の国際競争力を増すきっかけになりうると言えます。

そして、築地の再開発を一つのハブにして、東京という街が湾岸寄りに形成されていくことも想定されます。湾岸タワーマンションを投資商品として見る視点を取り入れ、湾岸エリアの将来性を分析すると、不動産価格が賃料・価格ともに直近で大暴落するとは考えにくいのが実際のところではないでしょうか。

渕ノ上弘和(ふちのうえ・ひろかず)/不動産ナビゲーター

2000年に立教大学法学部法学科卒業後、コンサルタントとしてECサイト運営会社を起業すると同時に不動産コンサルタントとしても業務を開始。区分所有建物の資産価値マネジメントに従事するため、2008年より住友不動産建物サービス株式会社、2013年より株式会社東急コミュニティーにて区分所有建物の共用部分・専有部分のマネジメントに従事した後、不動産の資産性を流通の側面から評価するために、2018年にコンドミニアム・アセットマネジメント株式会社の設立代表に就任。2022年2月より株式会社MFS不動産投資事業部執行役員として不動産投資総合プラットフォームサービス・INVASEの事業責任者に就任。