パナソニック コネクトが8月に発売する、360度カメラとマイク、スピーカーを一体化した新製品「PressIT360」。出社と在宅が混在する“ハイブリッド”なWeb会議で起こりやすい問題を解決できそうなデバイスに仕上がっています。短時間ながら実機を体験し、担当者に同製品の狙いを聞いてきました。
Web会議のための360度カメラスピーカーフォン
PressIT360(プレスイット サンロクマル)は、既にニュース記事でも紹介しているとおり、水平360度を捉える4基のカメラとマイク、スピーカーをスリムな円筒形のボディにまとめたオールインワンWeb会議用システム。オフィスの会議室にいる人と、在宅業務をしている人をリモートで結び、少人数での会議で使われることを想定しています。また、学校の教室で少人数で使うことも考えられており、業務用だけでなく文教市場にも投入される模様です。
同社傘下の現場ソリューションカンパニー経由で法人向けに展開し、価格はオープンプライスですが18万円前後での販売を見込んでいるとのこと。
PressIT360が生まれた背景には、働き方改革やコロナ禍において、在宅業務などのリモートワークとオフィスでの業務を組み合わせた“ハイブリッドワーク”を取り入れる企業の増加があります。今後もハイブリッドワークの普及が見込まれますが、一方でリモートとオフィスで働く人が混在することによる課題も見えてきました。
パナソニックによると、たとえばリモートで働いている人とオフィスにいる人が“ハイブリッド会議”に参加するとき、リモート側ではオフィス側にいる人の様子や雰囲気が分かりにくいので「今話していいのかな」、「さっきの発言をどう感じてるのかな」といった不安やストレスを感じる場面があるとのこと。結果として参加者同士のつながりを感じにくく、互いの感情が読み取れないために疎外感を感じ、発言の低下につながる場合も少なくないといいます。
一方オフィス側では、会議の度に機材を持ち運んでセッティングするのに手間がかかるといった困りごとが出てきているそうです。こうした課題を解決し、ハイブリッドワークを支援するために、新たにPressIT360を開発したというわけです。
パナソニックの担当者は、「(ハイブリッド会議で)5人で会話すると、臨場感がないとなかなか会話が進まないというケースもあります。360度カメラが使えることで、話がどう伝わっているか、どう会話しているか、といった全体像が見えるということが、(一般的なWebカメラとの)大きな違いと考えています」と話します。ハイブリッド会議において臨場感や一体感を重視するところへPressIT360を導入していきたい、という思いがにじんでいるように感じられました。
実際、筆者も自宅から編集部の会議にオンラインで参加するとき、オフィス側にいる人たちがどんな雰囲気なのかは、音声だけではなかなか推し量りづらいものがあると感じています。現状、会議で込み入った話になることは多くはないので、ノートPCのカメラとマイクから送られてくる映像・音声で事足りていますが、Web会議で「今発言したら誰かと被らないだろうか」というのを常に意識するのは意外と疲れるもの。
また、オフィスに出社して会議に参加するときは機材準備を行う側に回りますが、少人数でもちゃんとカメラやマイク、スピーカーをセッティングして会議を始めようとすると、それなりに時間がかかります。ハイブリッドなWeb会議にはこういった“面倒くささ”がつきものなので、PressIT360の開発意図はよく理解できます。
ハイブリッド会議のデモで実機体験
PressIT360が顧客に役立つポイントとして、同社は「参加者同士のつながりが感じられるハイブリッド会議の実現」、「Web会議の準備を簡単に行え、シンプルな操作で扱えること」、「軽量コンパクトで手軽に持ち運べること」の3点を挙げています。今回は報道陣向けに、PressIT360とノートPCを組み合わせて、Microsoft Teamsを使ったハイブリッド会議のデモが披露され、その中でさまざまな特徴を紹介しました。
PressIT360の大きさは64×285mm(直径×高さ、操作部を除く)で、500mlペットボトルを少し太くしたようなサイズ感。重さは約950gで、片手で持つとコンパクトな割にズッシリとした重みを感じます。スリムな形状のボディは黒いファブリックで包まれていて、デスクの上に置くとそれなりの高さはあるもの、360度Webカメラとしては控えめなデザインに仕上げられています。
上部には1/2.7型CMOSセンサーを使ったカメラを4基装備し、水平360度を撮影可能。会議室の中央に配置すると、どの席の参加者の様子も高画質かつ臨場感ある映像で配信できるとしています。解像度はカメラ1基あたり2,560×1,440ドットで、パノラマ解像度は5K/4,992×928ドット、フレームレートは25/30fpsに対応します。
マイクは本体天面に7個あり、水平360度の広範囲をカバー。半径最大5mまで音声を認識できます。エコーやノイズキャンセリングと音量均一化機能を搭載し、雑音やハウリングといった音声トラブルをなくして参加者の声が聞こえやすいように調整するなど、クリアな集音・拡声を追求しました。また、外からは見えませんが、スピーカーを内部に搭載しています。音声はモノラル集音/モノラル再生対応です。
映像と音声認識により、360度の範囲で人や音声を感知。AI機能で発言者に映像をフォーカスできるほか、ホワイトボードを固定して表示するといった、シチュエーションに合わせて選べる5種類の映像モードを備えているのも大きな特徴です。
各モードの特徴は以下の通りで、分割/一人/集合ビューでは話者の声の方向に向かって、本体下部にあるリングLEDが緑色に発光します。
- 分割ビュー:話者の声を認識し、画面上部に最大2人を拡大表示/画面下部に360度全体を表示
- 一人ビュー:話者にフォーカス。別の話者が話し始めると、その人に画面を切り替える
- 集合ビュー:会議室にいる人物を縦向きの分割画面で最大4人を並べて表示
- 全周ビュー:360度の全体画面を180度ずつ分割し、2段の画面で表示
- 固定ビュー:ホワイトボードや人物、商品などを固定して撮影。歪みの少ない映像を表示
パナソニックでは、ディスプレイやプロジェクターなどの映像表示装置や、放送・業務用映像システム、音響機器といった製品を手がけていますが、PressIT360にもそこで培った技術が活かされています。たとえば、上記の固定ビューで商品などを写すときに、配信先でもリアルな色再現性で商品の色味をしっかり伝えられるよう、独自のノウハウを駆使して画質調整を行っているとのこと。
映像モードの切り替えや音量操作は本体操作部のボタンで行え、本体下部のLEDリングでカメラやマイクのオン/オフなど、現在の動作状態を発光色で分かるようにしました。
本体底面には1/4インチのネジ穴があるので、三脚にPressIT360を固定して使うこともできます。機材保護への配慮として、セキュリティーワイヤーをつなぐNoble Wedgeロックのセキュリティスロットも装備しました。
USB Type-Cケーブル1本で電源供給とPCへの映像・音声データの伝送が行え、ACアダプターやカメラ、マイク、スピーカーを個別に接続する手間を省いています。なお、USB-AケーブルでPCにつなぐ場合は電源供給が足りなくなるため、別途用意したACアダプター(DC12V/2A)で動作させることになります。
スピーカー出力は、USB-C給電時が1.5W、ACアダプター接続時が3Wで、AC電源につないだときの方が若干大きな音量に設定できるとのこと。USB音声フォーマットはUSB Audio Class(UAC) 1.0をサポートします。
PressIT360は基本的に少人数でコンパクトなミーティングで使うことを想定しており、Web会議用の機材はこれひとつで済ませる、といった使い方に向くようです。インタフェースはUSB-Cのみで、ステレオミニなどの音声出力は備えていないので、より大きなスピーカーなどに音声を出力したい場合は、接続したPCから出力先を変更するといったひと手間が必要になるでしょう。
PC用の「PressIT360アプリケーション」も用意しており、Windows 10/11や、macOSを搭載したPCで利用可能。PressIT360の内蔵ストレージ(読み出し専用)からPCへソフトをインストールして、カメラの映像コントロール(ズームイン/アウト、上下左右の移動)や、画質調整、スピーカー動作テストなどが行えます。また、本体の将来的なファームウェアアップデートにも対応します。
年間の販売台数については、現在の国内市場規模(2万〜2万5,000台)の10%のシェアを獲得することを目指すとのこと。法人向けの製品なので、一般消費者の目に触れることはあまりなさそうですが、いずれ企業の打ち合わせスペースや教育現場で、PressIT360が活躍する姿を見かけることになるのかもしれません。