バックアップの歴史と記録メディア
人為的ミスや障害発生におけるデータ消失を防ぐために、バックアップという作業は重要であり、常日頃からコンピューターに触れている我々にとってはポピュラーな作業である。このバックアップという概念を広義に解釈すれば、決して目新しいものではなく、有史から日常的に行われてきた。情報の伝達を担う媒体として用いられていた粘土板や紙の存在は、人間の記憶に対するバックアップといっても過言ではないだろう。
コンピューターが登場すると、磁気メディアが主な媒体となる。当初は磁気テープが個人用の記録装置として、企業では終業後に行われるサーバーのバックアップメディアとして使われるようになったが、メンテナンスの煩雑さや磁気記憶装置であるテープストレージデバイスが高価なことから、個人の磁気媒体はフロッピーディスクに移行するようになった。
筆者がバックアップメディアの煩雑さと重要性に気付かされたのは、HDD(ハードディスクドライブ)を記憶装置として使い始めた頃である。当初はSASI(Shugart Associate System Interface)と呼ばれるインターフェース経由でコンピューターにHDDを接続していたが、数十MB(メガバイト)のバックアップを作成するために、何十枚ものフロッピーディスクが必要となるのは当たり前。
しかもバックアップ中は、フロッピーディスクへデータを書き込み終えると、ディスクを入れ替えてバックアップ作業を続行させる。この繰り返しを強いられるため、ユーザーはバックアップ中に離席することもできず、フロッピーディスクの枚数も日々増えていく。その管理が煩雑化するのは必然だった。
また、本記事をご覧になっている読者のなかにも、バックアップメディア化した各フロッピーディスクに番号を振って管理したものの、いずれかのフロッピーディスクが破損し、復元に失敗した経験をお持ちではないだろうか。そうなると泣くに泣けず、バックアップデータは無意味なものになってしまうのだ。このようにバックアップ元となる主記憶装置の容量増と、バックアップ先となるメディアの管理に振り回されるのは、遙か昔から続く問題なのである(図01)。
現在のHDDも大容量化は顕著で、既にTB(テラバイト)の時代に突入しているのは、改めて述べるまでもないが、一方でバックアップメディアは限られるようになり、同等容量のHDDをUSBもしくはSATA経由で接続するHDD-BOXが主流である。確かに執筆時点で128GB(ギガバイト)の記憶容量を実現するBlu-rayディスク(BDXL規格)も候補に挙げられるが、TBレベルの容量をバックアップするには心許ない。また、BDドライブも普及がさほど進まず、比較的高価なのも敷居を上げる一因となっているのだろう。
このような観点から、HDDが主たるバックアップメディアとなるものの、品質や製品寿命、個体差による“当たり外れ”など数々の問題を抱えているため、保存内容を未来永劫保持することは難しい。コンピューターを活用する上で欠かせないバックアップは、想像以上に制限が多いのである。
バックアップの種類のその進化
コンピューターにおけるバックアップとは、重要データの複製を作成する作業である。そのため、何らかの障害が発生した際に備えて、システム運用を維持し続けるための冗長化も広義の意味では同じだ。コンピューターを運用する上でバックアップ対象を切り分けると、システム全体をバックアップする「イメージバックアップ」、ユーザーが作成したデータを中心に一部のファイルやフォルダーをバックアップする「ファイルバックアップ」の二種類に分けられる(図02)。
前者はOSを導入したドライブ全体をイメージファイル化するため、バックアップデータも肥大化しがちだが、復元時の操作はバックアップツールによって異なるものの、数ステップで完了することが多い。後者は指定したフォルダーおよびファイルのみ復元するため、バックアップデータは最小限で済むものの、バックアップ対象の取捨選択だけでなく、復元時も上書き確認など煩雑な手順が必要になる(図03)。
次に覚えておく必要があるのは、バックアップの種類だ。こちらは「完全バックアップ」、「差分バックアップ」、「増分バックアップ」の三種類。一つめの完全バックアップは、文字どおり必要なデータをすべてバックアップする方法であり、差分バックアップは前回行った完全バックアップ時から、変更が加わったファイルや追加されたファイルのみをバックアップする方法である。
そして増分バックアップも完全バックアップをベースとし、変更が加わったファイルや追加されたファイルがバックアップ対象となる点は差分バックアップと一緒。しかし、次回増分バックアップを実行する際、ベースとなるのは前回増分バックアップを行ったデータをベースになるため、バックアップに要する時間が短縮される(図04)。
これらは通常のバックアップツールであれば一般的に備わっている機能だが、ユーザーの多様性に合わせ、様々な趣向を凝らしたコンシューマ用途のバックアップツールが存在する。例えば筆者がよく利用する機会の多い「革命シリーズ」(アーク情報システム)を例にとると「HD革命/CopyDrive Ver.4」は、ディスクの内容を簡単な操作で異なる異なるデバイスにコピーすることを主目的とし、隠し領域やサイズの異なるパーティションコピー、スケジュールに即したコピー作業といった機能を備えている。
その一方で、二台以上のデバイスに対して同様のデータを書き込むことでデータを冗長化する「HD革命/DISK Mirror Ver.3」は、ネットワークストレージをミラーリング先として選択可能(Professional版のみ)。このように単純なバックアップだけでなく、異なるアプローチでバックアップを実現するソフトウェアも少なくない(図05~06)。
また、最近では猫も杓子もクラウドコンピューティングと言われるように、インターネット環境の充実から、オンラインストレージを用いたバックアップ機能を備えるバックアップツールも登場してきた。無償で使用できる容量を鑑みると、TBクラスとなったシステムドライブのバックアップ先ではなく、ユーザーデータのバックアップ先に用いるのが現実的だろう。
ちなみに筆者がレビューした「HD革命/Backup Ver.11」では、サポートするGoogleドキュメントは無償使用可能なサイズは1GB(有償で最大16TB:最大ファイルサイズは1GB)、Windows Live SkyDriveは25GB(最大ファイルサイズは100MB)とギガバイトクラスの制限は設けられているが、HDDの低価格化やインターネット環境の拡充により、個人レベルでのオンラインバックアップも現実的になるはずだ(図07)。
総じて見ると、現時点ではOSを導入したシステムドライブと同等、もしくはより大きいサイズの外付けHDDをUSB/SATA経由で接続し、必要に応じて通電しながらバックアップを実行するのが現実的である。しかし、BDXL規格が制定されたBlu-rayディスクのように光学メディアのサイズ拡大や、今後行われるであろうオンラインストレージの強化。また、ドキュメントフォルダー自体をローカルディスクではなくオンラインストレージに保存するといったユーザースタイルを踏まえると、時代に合わせてバックアップというスタイルは変化し続けるだろう。